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[SVC26-P16] ひずみ計記録による阿蘇山2021年噴火直前の地盤変動
キーワード:ひずみ計、阿蘇火山、水蒸気噴火、地盤変動
九州中部に位置する阿蘇山中岳第一火口では2021年10月14日および20日に水蒸気噴火が発生し、20日の噴火では火口から半径約1km範囲に噴石や火砕流を放出しインフラ被害をもたらした。これらの噴火に先立ち、10月8日からは火口から南西約1km地点の地下30mにある本堂観測点坑道内のひずみ計において顕著なひずみ変化が記録された。このようなひずみ変化は過去の噴火前にも見られ、地下浅部の増圧過程を反映していると考えられている。本講演では2021年噴火の直前過程を解明することを目的として、10月14日噴火の前後におけるひずみ計記録の時間変化の特徴および予備的なソースモデルの推定結果を報告する。
本堂坑道は等辺長約25m,斜辺長約35mの直角二等辺三角形になっている。内部にはインバール棒ひずみ計が3本(E1、E2、E3)設置されており、それぞれ異なる方位角(E1: N05E、E2: S85E、E3: N50E)を持つ。10月8日から明瞭なひずみ変化が観測され始め、10月14日噴火後まで特徴的な時間変化を示した。この時間変化の特徴から、ひずみ変化は1: 10月8日から10月13日12時、2: 10月13日12時から10月14日4時、3: 10月14日4時から13時までの3期間に分けられる。期間1では、火口方向成分(E3)において累積0.4μstrainの急激な短縮が見られたが、一方でE1とE2には明瞭な変化は見られなかった。期間2ではE1とE3が伸長し累積ひずみ変化量は0.1μstrainであった。期間3では10月14日4時43分の噴火時にE1とE3にそれぞれ0.05、0.10μstrainのステップ的な伸びが生じたが、E2はほぼ無変動であった。その後E1とE3の伸びは13時まで継続し、期間3における累積ひずみ変化量はそれぞれ0.07、0.20μstrainとなった。なお、坑道内には傾斜計も設置されているが、同期間において噴火時を除いて明瞭な傾斜変動は見られなかったことから、変動源は火口直下の浅部熱水系であると考えられる。
熱水系における変形を模すために多孔質弾性体の円筒ソースを仮定し、間隙圧変化を与えて体積変化させることによりひずみ場を計算した。計算には有限要素法を使用し, 国土地理院10mメッシュDEMをモデル計算にインポートし火山地形を再現した。ソースの水平位置は火口に固定し、深さと円筒のアスペクト比を未知として簡易的なパラメータ探索を行った。その結果、期間1・2は両者とも火口直下300-500mのほぼ同一のソースで説明が可能であった。ただし、期間1では増圧を、期間2では減圧と圧力変化の極性が逆であった。この増圧から減圧への反転時期は連続微動の振幅が増大した時間とほぼ同時であったことから, 継続的な増圧により周囲母岩が破壊強度に達し, 流体が漏れ出し減圧が始まったと解釈することも可能である。期間3では減圧ソースの深さは200-400mとやや浅い方にシフトした。これらの圧力源はいずれも地震学的に推定されたクラック状火道の上端部に位置している。このことから、一連の増圧・減圧過程は以下のように解釈される; マグマ溜まりから急激に上昇してきたマグマ性流体が比較的透水性の高いクラックを高速で通過したが、クラックの上端付近の母岩では比較的透水性が低かったため流れが滞った。これにより熱水系内の圧力が蓄積し, 破壊強度に達したため流体が漏れ始め, 減圧に転じ, 噴火時に急激に圧力が解放された。すなわち、媒質浸透率と流体供給率の大小関係に応じて、静穏期は開放系として振る舞っているが、流体供給率の急激な増加に伴って一時的に閉鎖系のように振る舞ったことで噴火が発生したと考えられる。講演では10月20日噴火前後の歪み記録に関しても議論する予定である。
本堂坑道は等辺長約25m,斜辺長約35mの直角二等辺三角形になっている。内部にはインバール棒ひずみ計が3本(E1、E2、E3)設置されており、それぞれ異なる方位角(E1: N05E、E2: S85E、E3: N50E)を持つ。10月8日から明瞭なひずみ変化が観測され始め、10月14日噴火後まで特徴的な時間変化を示した。この時間変化の特徴から、ひずみ変化は1: 10月8日から10月13日12時、2: 10月13日12時から10月14日4時、3: 10月14日4時から13時までの3期間に分けられる。期間1では、火口方向成分(E3)において累積0.4μstrainの急激な短縮が見られたが、一方でE1とE2には明瞭な変化は見られなかった。期間2ではE1とE3が伸長し累積ひずみ変化量は0.1μstrainであった。期間3では10月14日4時43分の噴火時にE1とE3にそれぞれ0.05、0.10μstrainのステップ的な伸びが生じたが、E2はほぼ無変動であった。その後E1とE3の伸びは13時まで継続し、期間3における累積ひずみ変化量はそれぞれ0.07、0.20μstrainとなった。なお、坑道内には傾斜計も設置されているが、同期間において噴火時を除いて明瞭な傾斜変動は見られなかったことから、変動源は火口直下の浅部熱水系であると考えられる。
熱水系における変形を模すために多孔質弾性体の円筒ソースを仮定し、間隙圧変化を与えて体積変化させることによりひずみ場を計算した。計算には有限要素法を使用し, 国土地理院10mメッシュDEMをモデル計算にインポートし火山地形を再現した。ソースの水平位置は火口に固定し、深さと円筒のアスペクト比を未知として簡易的なパラメータ探索を行った。その結果、期間1・2は両者とも火口直下300-500mのほぼ同一のソースで説明が可能であった。ただし、期間1では増圧を、期間2では減圧と圧力変化の極性が逆であった。この増圧から減圧への反転時期は連続微動の振幅が増大した時間とほぼ同時であったことから, 継続的な増圧により周囲母岩が破壊強度に達し, 流体が漏れ出し減圧が始まったと解釈することも可能である。期間3では減圧ソースの深さは200-400mとやや浅い方にシフトした。これらの圧力源はいずれも地震学的に推定されたクラック状火道の上端部に位置している。このことから、一連の増圧・減圧過程は以下のように解釈される; マグマ溜まりから急激に上昇してきたマグマ性流体が比較的透水性の高いクラックを高速で通過したが、クラックの上端付近の母岩では比較的透水性が低かったため流れが滞った。これにより熱水系内の圧力が蓄積し, 破壊強度に達したため流体が漏れ始め, 減圧に転じ, 噴火時に急激に圧力が解放された。すなわち、媒質浸透率と流体供給率の大小関係に応じて、静穏期は開放系として振る舞っているが、流体供給率の急激な増加に伴って一時的に閉鎖系のように振る舞ったことで噴火が発生したと考えられる。講演では10月20日噴火前後の歪み記録に関しても議論する予定である。