日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC27] 火山防災の基礎と応用

2024年5月31日(金) 13:45 〜 15:00 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)

14:00 〜 14:15

[SVC27-02] 富士山噴火に備えた避難確保計画作成への支援の取り組みと課題

古屋 海砂1、*石峯 康浩2 (1.山梨県防災局防災危機管理課火山防災対策室、2.山梨県富士山科学研究所)

キーワード:富士山、避難確保計画、避難促進施設、活火山法

富士山周辺における火山噴火時の避難確保計画の作成に対する山梨県防災局ならびに富士山科学研究所での支援の取り組みについて紹介する。特に、2023年度の取り組みを通して、医療・福祉施設において火山噴火時の避難確保計画を作成するに当たっては、火山の専門知識を有する研究者から火山現象について分かりやすく情報提供をするとともに、行政や消防、自衛隊等、避難の際に支援の要請先となる組織の関係者と意見交換をしながら、実践的な避難を実施するための課題を共有することが重要であることが明らかになった点に焦点を当てつつ、活動内容を報告する。
 2014年の御嶽山噴火災害を受けて、2015年7月に活動火山対策特別措置法が改正された。この改正によって、活火山周辺に位置する観光施設や学校、医療・福祉施設等は、市町村から「避難促進施設」に指定され、利用者が円滑に避難行動を取れるよう「避難確保計画」を作成することが義務化されている。同法改正を受けて、山梨県においても富士山の5合目より高標高にある山小屋等を対象として、避難確保計画の作成支援を2019年度より行ってきた。
 その一方で、富士山噴火に関するハザードマップの改定版が2021年3月に発表され、噴火開始から3時間以内に溶岩流が到達する範囲の人口が従前想定の約7倍に当たる約11万6000人と大幅に増加した。このため、従前の「富士山火山広域避難計画」を抜本的に見直した上で、改称した「富士山火山避難基本計画」を2023年3月に公表した。この新たな避難基本計画に基づき、避難対象地域にある多くの学校や医療・福祉施設等が新たに避難促進施設に指定される見込みとなった。これらの施設が今後、避難確保計画を作成する必要があることから、山梨県防災局と富士山科学研究所が中心となって避難計画の概要を紹介する説明会を2023年11月に実施するとともに、2024年2月には医療・福祉施設を対象とした図上訓練も実施し、実践的な避難確保計画を作成できるよう支援に取り組んでいる。
 2023年11月に実施した避難促進施設に指定される見込みがある施設に対する説明会は、医療・福祉施設、観光施設、学校の3つのグループに分けて実施し、各回とも富士山北麓地域にある施設の関係者ら約30人が出席した。山梨県防災局から富士山の火山防災対策の取り組みや法律改正に関する概要説明があった後、富士山科学研究所の研究員が富士山噴火で生じる火山現象について解説を行った。その上で、避難確保計画の雛型を提示し、各施設での避難計画作成に向けた検討に取り掛かるよう要請をした。
 2024年2月には、医療・福祉施設を対象として、富士山の火山活動が活発化した際の対応を模擬する図上演習を開催し、医療・福祉施設の職員の他、山梨県、周辺市町村の防災関連部局ならびに福祉保健関連部局、消防、自衛隊の関係者ら約40人が参加した。富士山噴火で生じる火山現象について概要説明をした後、3段階の想定に応じた対応について6班に分かれてグループディスカッションを行った。
 これらの取り組みにおいて、参加者にアンケートを行った結果、「火山現象について写真や動画を多用した分かりやすい説明を受けた後に、具体的な場面設定に沿って段階ごとに議論を進めることができたため、よく理解できた」などの好意的な回答が多数、得られた。ただし、富士山噴火で想定されている6種類の災害要因(溶岩流、火砕流、融雪型火山泥流、大きな噴石、降灰、降灰後土石流)を網羅したハザードマップから各施設の地域のリスクを読み取るのは難しい作業だったようで、想定以上に時間を要した。今後はハザードマップの読み取りの理解を助ける工夫を検討する必要があると考えられる。
また、図上演習に関しては、行政と福祉施設の関係者間で意見交換ができ、相互理解が深まった点を評価する意見が多く、他の施設の状況が確認できた点も今後の取り組みを進めるきっかけとなったという意見も出された。行政が支援可能な活動内容についても情報交換ができたため、避難計画を実践的なものにするための課題が明確になったとの意見も出された。今後、想定を変えた演習を行う場合に参加を希望するかについて質問した結果、すべての回答者が「ぜひ参加する」もしくは「日程が合えば参加する」と回答しており、参加への意欲が高いことが確かめられた。これまでに得られた知見を活用しつつ、今後も避難促進施設等において、より実践的な避難確保計画の作成が実現できるよう、支援活動を継続することが重要であると考えられる。