日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC27] 火山防災の基礎と応用

2024年5月31日(金) 13:45 〜 15:00 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、石峯 康浩(山梨県富士山科学研究所)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)、宮城 洋介(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:宝田 晋治(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、千葉 達朗(アジア航測株式会社)

14:15 〜 14:30

[SVC27-03] ローカル5G、衛星通信、バギー、ドローンを組み合わせた富士山の火山防災に資する研究

*西澤 達治1吉本 充宏1本多 亮1、中尾 彰宏2、金井 謙治2、竹澤 寛2、海田 圭太2、土肥 凛2、鈴木 彩音2、矢嶋 隆汰2 (1.山梨県富士山科学研究所富士山火山防災研究センター、2.東京大学大学院工学系研究科)

キーワード:富士山、火山防災、ローカル5G、衛星通信、ドローン

2023年の富士山の登山者数は22万人を超え、2019年以前とほぼ同数まで回復しつつある。登山道のほとんどは、2023年3月に改定された富士山火山避難基本計画で定める第1次避難対象エリアに該当している。避難計画では「火山の状況に関する解説情報(臨時)」が発表された段階で、登山者には下山指示が出される。富士山火山対策において目標とする「逃げ遅れゼロ」を達成するには、避難情報を迅速に伝達することが不可欠となるが、富士山は通信環境が脆弱という問題がある。最も早い段階で避難を開始する対象である登山者が、混乱を生じさせることなく円滑に避難を行う為には、安定した通信環境の確保が必須となる。第1次避難対象エリアは同時に、2021年3月に改定された富士山ハザードマップで定める想定火口範囲に該当する。国内の活火山と比べて、富士山の想定火口範囲は広域であり、加えてその範囲は噴火の規模によって異なる。また想定される噴火様式や規模、それらに伴う災害も多様であり、富士山は防災対策・対応が難しい火山の一つである。富士山噴火に伴う災害を軽減する為には、地震、重力、GNSSなどの地球物理観測に基づき噴火口のおおよその位置を推定することが望ましい。または、噴火後に、形成された火口の位置を迅速に特定し噴火状況をリアルタイムで把握することも重要である、しかし現在のところ有力な手段は確保されていない。
山梨県は2021年に東京大学と連携協定を締結し、富士山の災害対策の推進に取り組んできた。その一環として、ローカル5G(L5G)を利用した富士山における迅速展開可能なリアルタイム情報伝達システムの構築を目指している。このシステムは、L5G、衛星通信、ポータブル電源から構成され、これら一式が、悪路を走破可能な小型水陸両用全地形対応車(ATV)に搭載されたパッケージとなっている。登山道沿いで緊急事態が起きた際に、通信環境の確保が必要となる場所まで自走で移動し、現地でL5G基地局を展開する。基地局は衛星通信システムと接続され、インターネットへのアクセスが可能となる。L5Gは、地域や産業の個別のニーズに応じ通信事業者ではない企業や自治体などの様々な主体が、自らの建物内や敷地内でスポット的に柔軟にネットワークを構築する方法である。StarlinkはSpace X社が提供する衛星通信システムである。これはアンテナとWi-Fiルーターから構成され、地球低軌道上を周回する5,000機を超える小型衛星のいずれかと通信が確保できる環境ならば、世界中どこでもインターネット通信が可能となる。これらシステム全てはポータブル電源で駆動される。
我々は、2023年10月に吉田ルートの6合目とスバルライン4合目駐車場において本システムの実証実験を実施した。2箇所は富士北麓の山梨県側にあり、実験場所は予めL5G基地局の許可を得ている。吉田ルートは登山者の過半数以上が利用する主要な登山道である。実験の結果、L5Gを展開した範囲においては通信速度100Mbpsを超える速度の安定したインターネット接続に成功した。また回線を利用したデモンストレーションとして、Web会議とドローンの空撮映像のリアルタイム配信試験も実施した。このシステムが実用化されれば、有事の際に登山者や山小屋関係者へ避難情報を迅速に伝達することが可能になる。更に、噴火口や噴火状況をドローンなどで撮影した映像をリアルタイムに現地対策本部などへ配信することも可能となる。このように現地と災害対策本部を結ぶ安定的な相互通信環境の確保は、噴火災害の軽減に大きく貢献すると期待される。