日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC28] 火山の熱水系

2024年5月30日(木) 10:45 〜 12:00 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学科学技術創成研究院多元レジリエンス研究センター)、谷口 無我(気象庁気象研究所)、座長:谷口 無我(気象庁気象研究所)、神田 径(東京工業大学科学技術創成研究院多元レジリエンス研究センター)

10:45 〜 11:00

[SVC28-06] 熱水変質域における元素の起源と循環プロセス:長野県毒沢鉱泉強酸性水質の成因

*柳澤 良亮1榊原 厚一1角野 浩史2福島 菜奈絵3、高橋 康1、山本 淳一4江島 輝美1 (1.信州大学理学部理学科、2.東京大学先端科学技術研究センター、3.東京大学大学院総合文化研究科、4.長野県諏訪清陵高等学校)

キーワード:水-岩石相互作用、強酸性、溶出試験、熱水変質帯

自然界での酸性水の形成は水質汚染の要因にもなるため,その成因を理解することは重要である(Odri et al., 2022).酸性水化は火山性流体や鉱物の溶解が起因することが知られており,特に鉱物の関与はその起源や鉱物種で反応が異なるため,未解明な要素が多い(Welch et al., 2008).そこで本研究では,強酸性である毒沢鉱泉を対象とし,火山性流体・鉱物溶脱の両影響を評価し,強酸性化をもたらす鉱物種や鉱物の起源を議論することで鉱物による強酸性化の素過程を明らかにすることを目的とした.水試料は毒沢鉱泉湧水・渓流水に加え,地域全体の火山性流体の関与を評価するためにその周辺の温泉で採取した.水試料に対して,主要溶存イオン濃度,各種同位体比(2H/1H, 18O/16O,4He/20Ne,3He /4He) の分析を行った.また毒沢鉱泉源泉で採取した白色に変質した岩石を用いた,水・岩石反応実験を行い,反応実験後の溶液の溶存元素分析を行った.さらにEPMAを用いた鉱物の組織観察・組成分析を行った.酸素・水素同位体比から毒沢鉱泉と周辺の温泉は天水起源と示唆されたが,ヘリウム同位体比データからは,少なくとも周辺の温泉において火山性流体の関与があると判断できた.また水・岩石反応実験後の溶液は毒沢鉱泉の水質と類似した.この結果は,反応速度が遅い黄鉄鉱の反応では説明できず,硫酸塩鉱物等の反応に起因する可能性が示唆される.採取した岩石試料をEPMAにより観察したところ,主に石英,白雲母,黄鉄鉱,硫酸塩鉱物,まれに酸化銀が存在することを確認した.また岩石全体の斑晶が仮像であり,脈状の黄鉄鉱や硫酸塩鉱物,酸化銀が産していることから,岩石は熱水変質の影響を受けたと考えられる.以上のことより毒沢鉱泉の強酸性化には火山性流体の関与よりも熱水変質起源の硫酸塩鉱物による元素溶脱の方が反応を支配していると考察した.