日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC28] 火山の熱水系

2024年5月30日(木) 10:45 〜 12:00 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学科学技術創成研究院多元レジリエンス研究センター)、谷口 無我(気象庁気象研究所)、座長:谷口 無我(気象庁気象研究所)、神田 径(東京工業大学科学技術創成研究院多元レジリエンス研究センター)

11:30 〜 11:45

[SVC28-09] 地球化学-地球熱学連成解析による1995年九重火山水蒸気噴火の熱水系の温度推定

*穐山 拓実1大沢 信二1 (1.京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)

キーワード:九重硫黄山、レイリー蒸留、熱水系、温度推定

水蒸気噴火は一般にマグマ噴火に比べると小規模ではあるものの、負傷者や死者を出すことがある。2014年9月27日に発生した御嶽山の水蒸気噴火はその一例である。気象庁(2018)によれば、2018年1月23日の草津白根火山では、地震の前兆と言えるような特段の地震や地殻変動などの変化が観測されないまま水蒸気噴火が発生し、死者1名、負傷者11名の被害があった。このため、水蒸気噴火による災害の軽減には、地震や地殻変動の検知だけではなく、マグマ蒸気や地下熱水系の挙動を理解することが不可欠である。

九重火山でも1995年に、火山ガスを継続的に放出している噴気地「九重硫黄山」の南東にある星生山山頂の東方尾根部で、水蒸気噴火(当時は水蒸気爆発と呼ばれていた)が発生した。現在は、新たに生じた噴火口群からの火山ガスの放出はおさまり、硫黄山における火山ガスの放出量も低下しているが、火山活動は依然として続いている。総合科学技術会議の火山噴火予知計画により、九重硫黄山は「活動的火山及び潜在的爆発活力を有する火山」に指定されているため、過去の九重硫黄山の水蒸気爆発の原因を探り、未来の噴火に備えることは非常に重要である。

Mizutani et al(1986)によれば、九重硫黄山では、1960年に最高508℃の噴気が観測されており、当時の噴気の凝縮水は、同位体的にはほぼ純粋なマグマ水であったが、1984年には50%程度の天水の混入が推定されている。北岡(1996)は、九重硫黄山の熱水系モデルとして、地表から浸透した水が深部に移動する過程で、蒸発した水蒸気の多くは、比較的低圧のマグマ性蒸気の通路に入り高温化することで、臨界温度以上の過熱蒸気となりマグマ性蒸気と混合するというモデルを提唱した。このモデルによると、気液二相系の熱水は、マグマ水蒸気と天水の混合によって形成されている。本研究では、この二者の混合率を噴気の水同位体組成δD-δ18Oの地化学解析から求め、熱量保存則を用いることで、1995年水蒸気噴火の原因となった熱水の温度推定を試みた。

水蒸気噴火の起こったD-regionにおいて、見かけ平衡温度AETsと噴気温度の関係を検証した。その結果、噴火直後から約2年後には、AETsは減少したが、噴気温度は上昇する傾向が見られた。最初の噴気孔の温度が100℃に近く、当時の噴気中のCl濃度が比較的低いことから、Cl成分は気液二相状態の中の熱水に留まっていたと考えられ、これは減圧沸騰の示唆であると言える。その後、噴気中のCl濃度と噴気温度が高まっていることも、この事実を裏付けていると言える。本研究で推定したのは、この過程における、減圧沸騰が起こる前の熱水の温度である。

噴気凝縮水などの水同位体組成δD-δ18O図の解析により、(火山ガス):(冷地下水)の混合比は6:4~7:3程度であった。この混合比を用いて、熱量保存則により、水蒸気噴火の原因となった熱水の温度を見積もったところ、熱水の温度は336℃~374℃と、臨界温度に近い温度が算出され、これが1995年水蒸気噴火の原因になっていると推定された。