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[SVC30-01] 北海道東部、アトサヌプリ火山の形成史:アトサヌプリカルデラの構造と関連火砕流
キーワード:アトサヌプリ火山、アトサヌプリカルデラ、テフラ対比、火山ガラス組成
北海道東部に位置するアトサヌプリ火山は、後屈斜路カルデラ火山の1つである。現在もアトサヌプリ溶岩ドーム周辺で噴気活動が活発であることから、気象庁の常時観測火山に指定されている。アトサヌプリ火山の噴火履歴に関する研究は数多くなされている(例えば、勝井,1962)。それらによると、屈斜路火砕流噴火I(40ka)の後、まず安山岩質~デイサイト質マグマの活動が始まり外輪山が形成された。そして流紋岩質マグマによるアトサヌプリ火砕噴火が起き、アトサヌプリカルデラが形成された。その後は、約1万年前から流紋岩質溶岩ドーム形成の活動に移行し、カルデラの外側から内部に活動中心を移動させながら活動を継続してきた。そして、約数千年前からアトサヌプリ溶岩ドーム周辺で水蒸気噴火活動が始まり、現在に至っている。このように、アトサヌプリ火山の噴火履歴の概要は既に報告されているが、アトサヌプリ火砕噴火については、複数の遠方層(長谷川ほか, 2009)と近傍堆積物との対比が出来ておらず、その活動推移が良く分かっていない。また、最近の研究により外輪山溶岩がリサージェントドームであり、アトサヌプリカルデラはその際形成されたグラーベンであるという説が報告されている(Goto & McPhie, 2018)。これらのことから、我々はアトサヌプリ火砕噴火の全貌解明を目的として、ボーリング・トレンチ掘削調査・地表踏査・物質科学的解析を行ってきた。その結果、アトサヌプリ火砕噴火の特徴とその活動推移を明らかにすることができたので、報告する。
アトサヌプリ火砕噴火の近傍堆積物は、分布域中心および本質物の岩石学的特徴より、中央部の石狩別火砕流(Is-pfl)・北西部の砂湯火砕流(Sn-pfl)・南西部の池の湯火砕流(Ik-pfl)・東部の美留和火砕岩(Bi)の4タイプに区分される。3つの火砕流はいずれも級化層理やラミナ構造が発達した水中火砕流の様相を呈する。またBiは外輪山溶岩の最上部で弱溶結の火砕岩として産する。これら4タイプの火砕物のうち、Ik-pflは化学組成からIs-pflに対比可能な火砕流との指交関係が確認された。本質物の軽石は、3つの火砕流が両輝石流紋岩であるのに対し、Biは両輝石デイサイトと異なる。アトサヌプリ火砕噴火の遠方テフラは、東方および北方に分布しており、下位よりNu-g(TyP), Nu-e, Nu-c, Nu-a, Ch-cの少なくとも5層確認されている(長谷川ほか, 2009)。テフラ層序より約32~12kaの間に活動したことが分かっているが、今回新たに調査した結果、Ch-c直下の土壌より約19 cal. kaの年代値を得ることができた。これらテフラ層に含まれる本質物の岩石学的特徴に基づくと、Nu-gとBi、Nu-aとIk-pflおよびIs-pfl、Ch-cとIs-pflが対比される。またNu-e, Nu-cは火山ガラス組成の特徴がIk-pflと類似する。
以上のことから、アトサヌプリ火砕噴火は少なくとも4つのマグマ系による複数回の火砕噴火からなると考えられる。最も古い活動はBi(Nu-g)であり、外輪山溶岩噴出の末期から始まった。その後、Ik-pfl系列マグマの活動に移行し少なくとも3回の火砕噴火(Nu-e, Nu-c, Nu-a)が起きた。またNu-a噴火の際にはIs-pfl系列マグマも活動を開始した。そして約19 kaには、大規模火砕流噴火が発生した(Ch-c)。Sn-pflについては、遠方相が確認できておらず活動時期は不明であるが、上位のローム層から約11 cal. kaの年代値が得られていることから、Is-pflと同時期または新しいと推測される。
今回の調査により、アトサヌプリ火砕噴火が複数のマグマによる複数回の火砕噴火であること、その活動期間は外輪山溶岩噴出末期から19kaまでと約1万年間にわたる長期活動であったことが明らかになった。現在のアトサヌプリ火山には複数のカルデラ様(火口様)の凹地形が存在し、屈斜路湖底にも複数の凹地が確認される。また、火砕流堆積物はいずれも水中火砕流の様相を呈しており、活動当時アトサヌプリ火山周辺は湖が存在していた可能性が高い。以上のことを踏まえると、「アトサヌプリカルデラ」は、リサージェントドーム形成によるグラーベンではなく、「火口」であると考えるのが妥当であろう。
アトサヌプリ火砕噴火の近傍堆積物は、分布域中心および本質物の岩石学的特徴より、中央部の石狩別火砕流(Is-pfl)・北西部の砂湯火砕流(Sn-pfl)・南西部の池の湯火砕流(Ik-pfl)・東部の美留和火砕岩(Bi)の4タイプに区分される。3つの火砕流はいずれも級化層理やラミナ構造が発達した水中火砕流の様相を呈する。またBiは外輪山溶岩の最上部で弱溶結の火砕岩として産する。これら4タイプの火砕物のうち、Ik-pflは化学組成からIs-pflに対比可能な火砕流との指交関係が確認された。本質物の軽石は、3つの火砕流が両輝石流紋岩であるのに対し、Biは両輝石デイサイトと異なる。アトサヌプリ火砕噴火の遠方テフラは、東方および北方に分布しており、下位よりNu-g(TyP), Nu-e, Nu-c, Nu-a, Ch-cの少なくとも5層確認されている(長谷川ほか, 2009)。テフラ層序より約32~12kaの間に活動したことが分かっているが、今回新たに調査した結果、Ch-c直下の土壌より約19 cal. kaの年代値を得ることができた。これらテフラ層に含まれる本質物の岩石学的特徴に基づくと、Nu-gとBi、Nu-aとIk-pflおよびIs-pfl、Ch-cとIs-pflが対比される。またNu-e, Nu-cは火山ガラス組成の特徴がIk-pflと類似する。
以上のことから、アトサヌプリ火砕噴火は少なくとも4つのマグマ系による複数回の火砕噴火からなると考えられる。最も古い活動はBi(Nu-g)であり、外輪山溶岩噴出の末期から始まった。その後、Ik-pfl系列マグマの活動に移行し少なくとも3回の火砕噴火(Nu-e, Nu-c, Nu-a)が起きた。またNu-a噴火の際にはIs-pfl系列マグマも活動を開始した。そして約19 kaには、大規模火砕流噴火が発生した(Ch-c)。Sn-pflについては、遠方相が確認できておらず活動時期は不明であるが、上位のローム層から約11 cal. kaの年代値が得られていることから、Is-pflと同時期または新しいと推測される。
今回の調査により、アトサヌプリ火砕噴火が複数のマグマによる複数回の火砕噴火であること、その活動期間は外輪山溶岩噴出末期から19kaまでと約1万年間にわたる長期活動であったことが明らかになった。現在のアトサヌプリ火山には複数のカルデラ様(火口様)の凹地形が存在し、屈斜路湖底にも複数の凹地が確認される。また、火砕流堆積物はいずれも水中火砕流の様相を呈しており、活動当時アトサヌプリ火山周辺は湖が存在していた可能性が高い。以上のことを踏まえると、「アトサヌプリカルデラ」は、リサージェントドーム形成によるグラーベンではなく、「火口」であると考えるのが妥当であろう。