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[SVC30-P05] 宮城県北西部，鳴子・鬼首カルデラ噴出物のジルコンU-Pb年代測定
キーワード：カルデラ、U-Pb年代測定、火砕流堆積物、ジルコン
1. はじめに
鳴子・鬼首カルデラは，宮城県北西部に位置する第四紀のカルデラである．本地域には，カルデラ・クラスターが形成されており，鳴子・鬼首カルデラの西方には三途川カルデラや赤倉カルデラといった新第三紀のカルデラが隣接する（大竹, 2000）．鳴子・鬼首カルデラの形成に伴って噴出した大規模火砕流堆積物（以下，堆積物を省略）は主にカルデラの東方から南東方に分布しており，それらは鬼首カルデラ由来の池月火砕流 （250±80 ka: FT年代）（以下，年代値の誤差は2σで表示する）と下山里火砕流 （210±90 ka: FT年代），鳴子カルデラ由来の荷坂火砕流 （88–112 ka: 火山灰編年） と柳沢火砕流 （40–50 ka: 14C年代など） からなる （e.g., 土谷ほか, 1997；長橋ほか，2007；東宮・宮城，2020；中井，1988）．本研究では，本地域における珪長質マグマの変遷を高い時間分解能で検討することを最終目的とし，U-Pb年代測定法を用いて，これらの火砕流に含まれるジルコンの絶対年代決定を試みた．U-Pb年代測定法の適応範囲 （約>100 ka, Ito, 2014） よりも若いと考えられる柳沢火砕流については14C年代測定を用いた．
2. 研究手法
池月・下山里・荷坂火砕流に含まれる白色軽石中のジルコンを抽出し，Ito （2023） の手法に基づいてU-Pb年代測定を行った．柳沢火砕流については含まれる炭化木片をサンプルとし，山形大学高感度加速器質量センターにて加速器質量分析法 （AMS法） を用いた14C年代測定を実施した．
3. 結果
全155粒子のジルコンを測定した結果，3つの全ての火砕流で3つの年代帯のピーク（1 Ma未満，6–9 Ma，90–100 Ma）が認められた．噴火に関連したマグマ系において最終期に晶出したジルコンが最も噴出年代に近い年代を示すと考えられるため，今回は特に1 Ma未満の年代帯ピークに注目した．その結果，池月火砕流で233±56 ka （n = 10）の年代が得られた．下山里火砕流からは，420±210 ka （n = 1） ，荷坂火砕流は201±98 ka（n = 5）のU-Pb年代が得られた．柳沢火砕流に含まれる炭化木は，約32–33 cal kaという暦年代が得られた.
4. 議論
池月火砕流については，先行研究で求められたFT年代（誤差±80 ka）よりも誤差の小さい年代を得ることができた．本研究で求めた池月火砕流の結果を採用すると，鬼首カルデラ噴出物である池月・下山里火砕流の噴出時期は，従来報告されていたよりも更に接近する可能性が指摘できる．下山里・荷坂火砕流については，噴出年代の決定に適したジルコンが十分に得られず，U-Pb年代の誤差が大きいため，採用できないと考えた．柳沢火砕流の年代は，従来の年代値よりも8000年以上若い結果となった．柳沢火砕流には，複数のフローユニットが存在することから（土谷ほか, 1997），先行研究と本研究で，時期の異なるフローユニットに対して14C年代を測定した可能性がある．今後，柳沢火砕流のユニット区分やフローユニットの年代値を系統的に検討することが課題である．
6-9 Maの年代値をもつジルコンは，隣接する三途川カルデラ噴出物のU-Pb年代（Ito，2023）と一致することから，三途川カルデラで見られたマグマ活動と同時期のマグマ活動が鳴子・鬼首カルデラにもあったことが示唆される．
90-100 Maの年代を示すジルコンは，本地域の基盤岩である白亜紀花崗岩類由来の捕獲結晶であると考えられるが，噴火の爆発などで機械的に取り込まれたものか，珪長質マグマ生成時の地殻の溶融等で取り込まれたものか，詳しい検討が必要である．
引用文献
Ito, H. (2014) JVGR. 289, 210-223.
Ito, H. (2023) Front. Earth Sci. 10:964773.
Ludwig, K.R. (2012) Berkeley Geochronol. Center Spec. Publ, 5, 75.
長橋良隆ほか．（2007）第四紀研究．464，305-325．
中井信之．（1988）東北歴史資料館資料集．23，東北歴史資料館・石器文化談話会，52．
大竹辰巳．（2000）地質雑．106，205-222．
東宮・宮城．（2020）火山．65，13-18．
土谷信之ほか．（1997）5万分の1地質図幅『岩ヶ崎』
鳴子・鬼首カルデラは，宮城県北西部に位置する第四紀のカルデラである．本地域には，カルデラ・クラスターが形成されており，鳴子・鬼首カルデラの西方には三途川カルデラや赤倉カルデラといった新第三紀のカルデラが隣接する（大竹, 2000）．鳴子・鬼首カルデラの形成に伴って噴出した大規模火砕流堆積物（以下，堆積物を省略）は主にカルデラの東方から南東方に分布しており，それらは鬼首カルデラ由来の池月火砕流 （250±80 ka: FT年代）（以下，年代値の誤差は2σで表示する）と下山里火砕流 （210±90 ka: FT年代），鳴子カルデラ由来の荷坂火砕流 （88–112 ka: 火山灰編年） と柳沢火砕流 （40–50 ka: 14C年代など） からなる （e.g., 土谷ほか, 1997；長橋ほか，2007；東宮・宮城，2020；中井，1988）．本研究では，本地域における珪長質マグマの変遷を高い時間分解能で検討することを最終目的とし，U-Pb年代測定法を用いて，これらの火砕流に含まれるジルコンの絶対年代決定を試みた．U-Pb年代測定法の適応範囲 （約>100 ka, Ito, 2014） よりも若いと考えられる柳沢火砕流については14C年代測定を用いた．
2. 研究手法
池月・下山里・荷坂火砕流に含まれる白色軽石中のジルコンを抽出し，Ito （2023） の手法に基づいてU-Pb年代測定を行った．柳沢火砕流については含まれる炭化木片をサンプルとし，山形大学高感度加速器質量センターにて加速器質量分析法 （AMS法） を用いた14C年代測定を実施した．
3. 結果
全155粒子のジルコンを測定した結果，3つの全ての火砕流で3つの年代帯のピーク（1 Ma未満，6–9 Ma，90–100 Ma）が認められた．噴火に関連したマグマ系において最終期に晶出したジルコンが最も噴出年代に近い年代を示すと考えられるため，今回は特に1 Ma未満の年代帯ピークに注目した．その結果，池月火砕流で233±56 ka （n = 10）の年代が得られた．下山里火砕流からは，420±210 ka （n = 1） ，荷坂火砕流は201±98 ka（n = 5）のU-Pb年代が得られた．柳沢火砕流に含まれる炭化木は，約32–33 cal kaという暦年代が得られた.
4. 議論
池月火砕流については，先行研究で求められたFT年代（誤差±80 ka）よりも誤差の小さい年代を得ることができた．本研究で求めた池月火砕流の結果を採用すると，鬼首カルデラ噴出物である池月・下山里火砕流の噴出時期は，従来報告されていたよりも更に接近する可能性が指摘できる．下山里・荷坂火砕流については，噴出年代の決定に適したジルコンが十分に得られず，U-Pb年代の誤差が大きいため，採用できないと考えた．柳沢火砕流の年代は，従来の年代値よりも8000年以上若い結果となった．柳沢火砕流には，複数のフローユニットが存在することから（土谷ほか, 1997），先行研究と本研究で，時期の異なるフローユニットに対して14C年代を測定した可能性がある．今後，柳沢火砕流のユニット区分やフローユニットの年代値を系統的に検討することが課題である．
6-9 Maの年代値をもつジルコンは，隣接する三途川カルデラ噴出物のU-Pb年代（Ito，2023）と一致することから，三途川カルデラで見られたマグマ活動と同時期のマグマ活動が鳴子・鬼首カルデラにもあったことが示唆される．
90-100 Maの年代を示すジルコンは，本地域の基盤岩である白亜紀花崗岩類由来の捕獲結晶であると考えられるが，噴火の爆発などで機械的に取り込まれたものか，珪長質マグマ生成時の地殻の溶融等で取り込まれたものか，詳しい検討が必要である．
引用文献
Ito, H. (2014) JVGR. 289, 210-223.
Ito, H. (2023) Front. Earth Sci. 10:964773.
Ludwig, K.R. (2012) Berkeley Geochronol. Center Spec. Publ, 5, 75.
長橋良隆ほか．（2007）第四紀研究．464，305-325．
中井信之．（1988）東北歴史資料館資料集．23，東北歴史資料館・石器文化談話会，52．
大竹辰巳．（2000）地質雑．106，205-222．
東宮・宮城．（2020）火山．65，13-18．
土谷信之ほか．（1997）5万分の1地質図幅『岩ヶ崎』