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[SVC30-P07] 古地磁気方位からみた,福島県,吾妻―浄土平火山の噴火史の再検討

キーワード:吾妻火山、浄土平火山、古地磁気方位、火砕丘、溶岩流
はじめに
福島県,吾妻火山群東部には浄土平と呼ばれる直径2 kmの凹地形が存在する。浄土平の内側には,複数の火口と溶岩流が分布しこれらは総じて吾妻―浄土平火山(以下,浄土平火山)と呼ばれる[1].浄土平火山は,約6.7 kaの桶沼火口の活動を起点とし,現在まで活動している活火山である.吾妻小富士(以下,小富士)は,浄土平火山を構成する主要な山体のひとつであり,5.9~4.8 kaに活動し,火砕丘とその遠方相である降下テフラ,溶岩流を噴出した[1].浄土平内に分布する溶岩流は,地形判読から小富士が給源と考えられているが[1],新しい噴出物に覆われ,その詳細は不明である.これらの溶岩流は,小富士火砕丘との前後関係や年代も不明である.本研究では,小富士と溶岩流の活動の時間的関係を明確にすべく,古地磁気方位の測定を行った.
地質概要
小富士火砕丘は,4ユニットからなり,これら(下位からC1~C4)は,ベースサージ堆積物(C1,C4)やストロンボリ式噴火堆積物(C2),ブルカノ式噴火堆積物(C3)で構成される[2].また,火砕丘東側斜面には3枚の根無し溶岩(以下,「根無し溶岩」と呼び主要な「溶岩流」と区別する)が認められる.浄土平内の主要な溶岩流は,小富士火砕丘東部に広く分布し,5 km以上流下している.これらの溶岩流を被覆してC3が堆積することから,小富士火砕丘の形成以前に溶岩流が噴出したことが示唆されている[3].また,一部の溶岩流は末端崩壊型火砕流 (Block and ash flow) を発生させている[4].
試料と分析法
本研究では,小富士火砕丘を構成するアグルチネイト及び火山角礫層(2ユニット3サイト:C2Lower,C2Upper,C4),根無し溶岩(2サイト:RL-01,02),溶岩流(3サイト:L-01~03),Block and ash flow 堆積物(1サイト:Ak-BAF)から電動ドリルおよびブロック採取による定方位サンプリングを行った.段階熱消磁実験を行い,特徴的残留磁化成分(ChRM)を求めたのち,サイト毎の平均方位を求めた(各サイトで,6~11試料を測定).
結果と考察
全てのサイトで,サイト毎にまとまったChRMを求めることができた(α95≦5.6°,k>100).サイト毎の平均方位は,大きく2つの領域に分かれた.C2Lower,C2Upper,C4,RL-01,RL-02は東偏を示し(Cone group),L-01~03とAk-BAFは西偏を示した(Lava group).両グループの全平均方位は,Cone groupで偏角9.7°,伏角50.0°,α95=4.7°,Lava groupで偏角341.3°,伏角59.5°,α95=3.4°である(Fig.1). Cone groupとLava groupでα95を超えた古地磁気方位の明らかな差が認められることから,小富士火砕丘を構成する堆積物と溶岩流の間には,明瞭な時間間隙があったことが示唆される.
琵琶湖のボーリングコアから得られた過去1万年間の永年変化曲線[5]との比較から活動年代の推定を行った.比較にあたっては,双極子磁場を仮定し,浄土平火山で得られた方位を琵琶湖における方位に変換した.Cone groupであるC2Lower,C2Upper,C4,RL-01,RL-02の方位は,先行研究で報告されている小富士と同様の年代帯(4.8~5.9 ka)の永年変化曲線と重なることから,火砕丘はこの年代に活動したと考えるのが妥当である(Fig.2).この期間は永年変化曲線の変化率が小さく,これ以上の詳細な年代を推定することはできなかった.Lava groupであるL-01~03,Ak-BAFの方位は,6.8 ka~7.2 ka,7.4 ka,9.5 ka~9.7 kaの年代帯の永年変化曲線と重複が見られた.いずれの年代帯も,Cone groupの年代よりも有意に(約千年以上)古く,地質学的に判断した前後関係[3]と矛盾がない.6.8 ka~7.2 kaの年代帯は,桶沼火口の活動年代と近いことから,一部の溶岩流は桶沼火口の活動に伴っていた可能性が考えられる.
Cone group内のユニット毎の平均方位を詳しく見ると,C2UpperとC4はα95を越えて異なる方位を示す(両平均方位の角距離=11.3°).最近1600年間の日本の考古地磁気永年変化を参考にすると,1年あたりの方位変化率の平均値は0.06°であり[6],この変化率で11.3°の方位差を生むには最低で約190年を要する.上記琵琶湖コアの永年変化曲線における4.8~5.9 kaの方位変化率は,最近1600年間よりも小さいことを加味すると,C2UpperとC4の間には,190年以上の時間間隙があったと推定できる.
以上のことから,小富士火砕丘は,溶岩流の発生から約千年以上の時間を空け,約200年以上にわたる複数の噴火で形成されたと推察される.
引用文献
[1] 山元 (2005) 地質雑; [2] 鈴木・他 (2022) 火山学会講演予稿集; [3] 鈴木・他 (2022) 地質学会講演要旨; [4] Hasegawa and Suzuki (2021) JpGU; [5] Ali et al. (1999) Geophys. J. Int.; [6] 長谷川・他 (2018) 地学雑
福島県,吾妻火山群東部には浄土平と呼ばれる直径2 kmの凹地形が存在する。浄土平の内側には,複数の火口と溶岩流が分布しこれらは総じて吾妻―浄土平火山(以下,浄土平火山)と呼ばれる[1].浄土平火山は,約6.7 kaの桶沼火口の活動を起点とし,現在まで活動している活火山である.吾妻小富士(以下,小富士)は,浄土平火山を構成する主要な山体のひとつであり,5.9~4.8 kaに活動し,火砕丘とその遠方相である降下テフラ,溶岩流を噴出した[1].浄土平内に分布する溶岩流は,地形判読から小富士が給源と考えられているが[1],新しい噴出物に覆われ,その詳細は不明である.これらの溶岩流は,小富士火砕丘との前後関係や年代も不明である.本研究では,小富士と溶岩流の活動の時間的関係を明確にすべく,古地磁気方位の測定を行った.
地質概要
小富士火砕丘は,4ユニットからなり,これら(下位からC1~C4)は,ベースサージ堆積物(C1,C4)やストロンボリ式噴火堆積物(C2),ブルカノ式噴火堆積物(C3)で構成される[2].また,火砕丘東側斜面には3枚の根無し溶岩(以下,「根無し溶岩」と呼び主要な「溶岩流」と区別する)が認められる.浄土平内の主要な溶岩流は,小富士火砕丘東部に広く分布し,5 km以上流下している.これらの溶岩流を被覆してC3が堆積することから,小富士火砕丘の形成以前に溶岩流が噴出したことが示唆されている[3].また,一部の溶岩流は末端崩壊型火砕流 (Block and ash flow) を発生させている[4].
試料と分析法
本研究では,小富士火砕丘を構成するアグルチネイト及び火山角礫層(2ユニット3サイト:C2Lower,C2Upper,C4),根無し溶岩(2サイト:RL-01,02),溶岩流(3サイト:L-01~03),Block and ash flow 堆積物(1サイト:Ak-BAF)から電動ドリルおよびブロック採取による定方位サンプリングを行った.段階熱消磁実験を行い,特徴的残留磁化成分(ChRM)を求めたのち,サイト毎の平均方位を求めた(各サイトで,6~11試料を測定).
結果と考察
全てのサイトで,サイト毎にまとまったChRMを求めることができた(α95≦5.6°,k>100).サイト毎の平均方位は,大きく2つの領域に分かれた.C2Lower,C2Upper,C4,RL-01,RL-02は東偏を示し(Cone group),L-01~03とAk-BAFは西偏を示した(Lava group).両グループの全平均方位は,Cone groupで偏角9.7°,伏角50.0°,α95=4.7°,Lava groupで偏角341.3°,伏角59.5°,α95=3.4°である(Fig.1). Cone groupとLava groupでα95を超えた古地磁気方位の明らかな差が認められることから,小富士火砕丘を構成する堆積物と溶岩流の間には,明瞭な時間間隙があったことが示唆される.
琵琶湖のボーリングコアから得られた過去1万年間の永年変化曲線[5]との比較から活動年代の推定を行った.比較にあたっては,双極子磁場を仮定し,浄土平火山で得られた方位を琵琶湖における方位に変換した.Cone groupであるC2Lower,C2Upper,C4,RL-01,RL-02の方位は,先行研究で報告されている小富士と同様の年代帯(4.8~5.9 ka)の永年変化曲線と重なることから,火砕丘はこの年代に活動したと考えるのが妥当である(Fig.2).この期間は永年変化曲線の変化率が小さく,これ以上の詳細な年代を推定することはできなかった.Lava groupであるL-01~03,Ak-BAFの方位は,6.8 ka~7.2 ka,7.4 ka,9.5 ka~9.7 kaの年代帯の永年変化曲線と重複が見られた.いずれの年代帯も,Cone groupの年代よりも有意に(約千年以上)古く,地質学的に判断した前後関係[3]と矛盾がない.6.8 ka~7.2 kaの年代帯は,桶沼火口の活動年代と近いことから,一部の溶岩流は桶沼火口の活動に伴っていた可能性が考えられる.
Cone group内のユニット毎の平均方位を詳しく見ると,C2UpperとC4はα95を越えて異なる方位を示す(両平均方位の角距離=11.3°).最近1600年間の日本の考古地磁気永年変化を参考にすると,1年あたりの方位変化率の平均値は0.06°であり[6],この変化率で11.3°の方位差を生むには最低で約190年を要する.上記琵琶湖コアの永年変化曲線における4.8~5.9 kaの方位変化率は,最近1600年間よりも小さいことを加味すると,C2UpperとC4の間には,190年以上の時間間隙があったと推定できる.
以上のことから,小富士火砕丘は,溶岩流の発生から約千年以上の時間を空け,約200年以上にわたる複数の噴火で形成されたと推察される.
引用文献
[1] 山元 (2005) 地質雑; [2] 鈴木・他 (2022) 火山学会講演予稿集; [3] 鈴木・他 (2022) 地質学会講演要旨; [4] Hasegawa and Suzuki (2021) JpGU; [5] Ali et al. (1999) Geophys. J. Int.; [6] 長谷川・他 (2018) 地学雑