17:15 〜 18:45
[SVC30-P12] 新期御岳火山下部テフラ群の記載岩石学的特徴と広域対比に関する再検討

キーワード:テフロクロノロジー、御岳火山、主成分化学組成
御岳火山は日本列島中部の長野・岐阜県境に位置する活火山である.中期更新世以降から休止期を挟みつつ古期御岳火山(0.78–0.39 Ma: Kioka et al., 1998)から新期御岳火山(0.1Ma以降: Kimura and Yoshida, 1999)へと活動が続いており,2014年に発生した水蒸気爆発は戦後最悪の火山災害となった.御岳火山の活動のうち,特におよそ100 ka頃から開始した新期御岳火山のO1ステージ(Kimura and Yoshida, 1999)は活発な珪長質マグマの噴出で知られ,On-Pm1(小林ほか, 1967)などの広域テフラを噴出した.この時期のテフラ層序は木村(1987)や竹本ほか(1987)がまとめている.しかし,記載岩石学的特徴の整理は不十分であったと言え,Matsu'ura and Komatsubara(2024)はOn-Pm1テフラの広域対比に誤りがあった可能性を指摘した.テフロクロノロジーの手法によって各火山のテフラの特徴を整理し,正確・精密なテフラ対比を行うことは,複数の火山や地域にまたがってテフラ層序の網を構築していくことにつながり,噴火履歴復元や第四紀地質学に貢献する.そこで本研究では,新期御岳火山下部テフラ層の近傍地域における記載,および記載岩石学的特徴を改めて整理したのち,遠地の陸成・海成テフラ層の広域対比について再検討を行う.
野外において,御岳火山から40‒620 kmの範囲で18地点の露頭・ボーリングコアを対象に,御岳火山を給源とするテフラの記載・試料採取を行った.特に給源付近では,記載岩石学的特徴が各テフラ内のユニットごとで変化するかを検討するため,試料は細かく区分して採取された.各試料は洗浄・粉砕・ふるい分けされ,62‒120 µmの粒子を用いて鉱物組み合わせの記載,火山ガラスの屈折率測定(都立大所有のRIMS2000)および主成分化学組成分析(高知大学海洋コア国際研究所のJXA-8200)を行った.
本研究では竹本ほか(1987)に基づいて,新期御岳火山下部テフラの名称を下位から御岳上垂(On-Km),御岳第一(On-Pm1),御岳塩尻(On-So),御岳藪原(On-Yb),御岳潟町(On-Kt),御岳伊那(On-In),御岳王滝(On-Ot),御岳奈川(On-Ng),御岳辰野(On-Tt)として記載した.鉱物組み合わせでは,On-KmからOn-Ybにかけては黒雲母(bi)の存在が確認されたが,On-Ktより上位では認められなかった.多くのテフラで普通角閃石(ho)と直方輝石(opx)が認められたが,その組み合わせはテフラごとに異なる.一部テフラは単斜輝石(cpx)を含む場合もある.屈折率は,biが出現するOn-Ybの下位については1.500付近の低屈折率,On-Ktより上位では高屈折率化する傾向が認められる.火山ガラスの主成分化学組成を各テフラ間で比較すると,Al2O3,FeO,CaOを用いることで各テフラを明瞭に識別することが可能である.特に,SiO2-Al2O3図上にプロットすることで,On-Km~On-YbのHigh-Alトレンドと,On-Kt~On-TtのLow-Alトレンドの2つのトレンドが識別された.いずれのテフラも,ユニットごとの特徴の明瞭な変化は確認されなかったが,On-Pm1とOn-Ktでは火山ガラスの形態の変化が認められた.
上記の通り,本研究で御岳火山近傍の試料を用いて作成した新期御岳火山下部テフラの記載岩石学的特徴データベースに基づいて,遠地におけるテフラ対比の再検討を行った.その結果,神奈川県相模原市葛原付近で認められていたTz-3テフラ(皆川, 1969)はOn-Otテフラと対比されること,岩手県洋野町種市で新たに見いだされたテフラがOn-Ktテフラと対比されることが明らかとなった.また,Matsu'ura and Komatsubara(2024)が指摘した通り,宮城県大崎市鬼首および岩手県奥州市胆沢若郷愛宕で認められていたテフラも,On-Ktテフラと対比されることを追認した.今後,このデータベースを用いてより遠地や新たな露頭で御岳火山起源のテフラが対比・同定されることが期待される.
野外において,御岳火山から40‒620 kmの範囲で18地点の露頭・ボーリングコアを対象に,御岳火山を給源とするテフラの記載・試料採取を行った.特に給源付近では,記載岩石学的特徴が各テフラ内のユニットごとで変化するかを検討するため,試料は細かく区分して採取された.各試料は洗浄・粉砕・ふるい分けされ,62‒120 µmの粒子を用いて鉱物組み合わせの記載,火山ガラスの屈折率測定(都立大所有のRIMS2000)および主成分化学組成分析(高知大学海洋コア国際研究所のJXA-8200)を行った.
本研究では竹本ほか(1987)に基づいて,新期御岳火山下部テフラの名称を下位から御岳上垂(On-Km),御岳第一(On-Pm1),御岳塩尻(On-So),御岳藪原(On-Yb),御岳潟町(On-Kt),御岳伊那(On-In),御岳王滝(On-Ot),御岳奈川(On-Ng),御岳辰野(On-Tt)として記載した.鉱物組み合わせでは,On-KmからOn-Ybにかけては黒雲母(bi)の存在が確認されたが,On-Ktより上位では認められなかった.多くのテフラで普通角閃石(ho)と直方輝石(opx)が認められたが,その組み合わせはテフラごとに異なる.一部テフラは単斜輝石(cpx)を含む場合もある.屈折率は,biが出現するOn-Ybの下位については1.500付近の低屈折率,On-Ktより上位では高屈折率化する傾向が認められる.火山ガラスの主成分化学組成を各テフラ間で比較すると,Al2O3,FeO,CaOを用いることで各テフラを明瞭に識別することが可能である.特に,SiO2-Al2O3図上にプロットすることで,On-Km~On-YbのHigh-Alトレンドと,On-Kt~On-TtのLow-Alトレンドの2つのトレンドが識別された.いずれのテフラも,ユニットごとの特徴の明瞭な変化は確認されなかったが,On-Pm1とOn-Ktでは火山ガラスの形態の変化が認められた.
上記の通り,本研究で御岳火山近傍の試料を用いて作成した新期御岳火山下部テフラの記載岩石学的特徴データベースに基づいて,遠地におけるテフラ対比の再検討を行った.その結果,神奈川県相模原市葛原付近で認められていたTz-3テフラ(皆川, 1969)はOn-Otテフラと対比されること,岩手県洋野町種市で新たに見いだされたテフラがOn-Ktテフラと対比されることが明らかとなった.また,Matsu'ura and Komatsubara(2024)が指摘した通り,宮城県大崎市鬼首および岩手県奥州市胆沢若郷愛宕で認められていたテフラも,On-Ktテフラと対比されることを追認した.今後,このデータベースを用いてより遠地や新たな露頭で御岳火山起源のテフラが対比・同定されることが期待される.