17:15 〜 18:45
[SVC31-P10] 桜島における爆発地震の発震機構のフォワードモデリング

1. 序論
桜島では爆発的噴火(ブルカノ式噴火)が年に数十から数百回の頻度で発生している.この噴火に伴い励起される爆発地震の震源分布や発震機構は,噴火時の火道内の火山灰やガスなどの流体挙動に関わる情報を有し,噴火メカニズムを理解するために重要である.
Tameguri et al. (2002)は,桜島の爆発地震の波形を,初動の押し波(P 相),直後の引き波(D 相),後続のレイリー波(LP 相)の 3 つの位相に分解し,半無限均質媒質を仮定した波形インバージョンによる発震機構解を,それぞれ深さ 2 km の球膨張,円筒収縮,ごく浅部の球膨張と水平収縮と推定した.最近,地形と人工地震探査により推定された地震波速度勾配をもつ構造(Miyamachi et al., 2013)を用いると,P 相の震源位置は火口直下の深さ 300 m 付近となることが報告され(西村,2022,火山学会),複数な波形がより単純な震源過程で説明される可能性が指摘された(長谷川・西村,2023,火山学会).
本研究では,桜島の爆発地震の主要動であるLP相の発震機構を,地形と速度構造を考慮した理論波形と比較するフォワードモデリングにより推定した.
2. データ・手法
2022年11月20日,11月21日,12月2日,12月5日に発生した爆発地震について,気象庁が地震計を設置している6点のうちS/N比の高い3点(赤生原,あみだ川,鍋山)の観測波形を使用する.LP相が0.5-2 Hzの範囲で卓越しているから,波形には地震計特性の除去を行い,0.2-2 Hzのバンドパスフィルタをかける.LP相はP相着震時から概ね3 sまでの時間帯に励起している.また,P相着震時から2-3 sまでの時間帯ではトランスバース成分がラディアル成分に比べて小さいので,火口の中心を通る鉛直軸についての対称性を仮定し,同時間帯の上下成分とラディアル成分だけを解析対象とする.
理論波形は有限差分法を用いて計算する.地形は,桜島の地形図をもとにして,高さ1 km,山頂からの広がり4 kmの滑らかな山体とし,山頂に直径500 m,深さ250 m(海抜750 m)の火口を与える.速度構造は,Miyamachi et al. (2013)を参考にして,各層が線形勾配を持つ水平4層構造とする.震源の水平位置は火口直下に固定し,深さは火口底から海水面までの範囲を100 m間隔で変えながら最適値を探す.震源時間関数はガウス関数で与える.発震機構については,球膨張(収縮),円筒膨張(収縮),上下に膨張(収縮)するクラック,下向きシングルフォースの4種類を考える.
3. 結果
4つのイベントのいずれにおいても,上下に膨張するクラックまたは下向きシングルフォースの場合の理論波形が観測波形によく一致し,球膨張(収縮)または円筒膨張(収縮)の場合の理論波形は観測波形と大きく異なる形状となった.震源時間関数のパルス幅が1.3 s以下であれば,観測波形を概ね説明できる.
クラックモデルの場合,最適な震源位置は海抜300 m(火口底からの深さ450 m)であり,パルス幅を1 sと仮定したときの地震モーメントは1011-1012 Nm程度である.この値はTameguri et al. (2002)が推定したLP相震源のモーメントに概ね一致する.下向きシングルフォースの場合,最適な震源位置は海抜700 m(火口底からの深さ50 m)であり,パルス幅1 sのときの力の大きさは108 N程度である.いずれの場合も,震源の深さには200 m 程度の不確定性がある.
LP相から推定された両モデルによる直達P波が観測波形のP相の0.5 s後に到達している.以上の結果から,桜島の爆発地震では,トリガーとなるP相震源の約0.5 s後に,鉛直方向に卓越する発震機構によってLP相が励起することがわかった.
謝辞
気象庁火山観測網の地震波形データを利用しました.
桜島では爆発的噴火(ブルカノ式噴火)が年に数十から数百回の頻度で発生している.この噴火に伴い励起される爆発地震の震源分布や発震機構は,噴火時の火道内の火山灰やガスなどの流体挙動に関わる情報を有し,噴火メカニズムを理解するために重要である.
Tameguri et al. (2002)は,桜島の爆発地震の波形を,初動の押し波(P 相),直後の引き波(D 相),後続のレイリー波(LP 相)の 3 つの位相に分解し,半無限均質媒質を仮定した波形インバージョンによる発震機構解を,それぞれ深さ 2 km の球膨張,円筒収縮,ごく浅部の球膨張と水平収縮と推定した.最近,地形と人工地震探査により推定された地震波速度勾配をもつ構造(Miyamachi et al., 2013)を用いると,P 相の震源位置は火口直下の深さ 300 m 付近となることが報告され(西村,2022,火山学会),複数な波形がより単純な震源過程で説明される可能性が指摘された(長谷川・西村,2023,火山学会).
本研究では,桜島の爆発地震の主要動であるLP相の発震機構を,地形と速度構造を考慮した理論波形と比較するフォワードモデリングにより推定した.
2. データ・手法
2022年11月20日,11月21日,12月2日,12月5日に発生した爆発地震について,気象庁が地震計を設置している6点のうちS/N比の高い3点(赤生原,あみだ川,鍋山)の観測波形を使用する.LP相が0.5-2 Hzの範囲で卓越しているから,波形には地震計特性の除去を行い,0.2-2 Hzのバンドパスフィルタをかける.LP相はP相着震時から概ね3 sまでの時間帯に励起している.また,P相着震時から2-3 sまでの時間帯ではトランスバース成分がラディアル成分に比べて小さいので,火口の中心を通る鉛直軸についての対称性を仮定し,同時間帯の上下成分とラディアル成分だけを解析対象とする.
理論波形は有限差分法を用いて計算する.地形は,桜島の地形図をもとにして,高さ1 km,山頂からの広がり4 kmの滑らかな山体とし,山頂に直径500 m,深さ250 m(海抜750 m)の火口を与える.速度構造は,Miyamachi et al. (2013)を参考にして,各層が線形勾配を持つ水平4層構造とする.震源の水平位置は火口直下に固定し,深さは火口底から海水面までの範囲を100 m間隔で変えながら最適値を探す.震源時間関数はガウス関数で与える.発震機構については,球膨張(収縮),円筒膨張(収縮),上下に膨張(収縮)するクラック,下向きシングルフォースの4種類を考える.
3. 結果
4つのイベントのいずれにおいても,上下に膨張するクラックまたは下向きシングルフォースの場合の理論波形が観測波形によく一致し,球膨張(収縮)または円筒膨張(収縮)の場合の理論波形は観測波形と大きく異なる形状となった.震源時間関数のパルス幅が1.3 s以下であれば,観測波形を概ね説明できる.
クラックモデルの場合,最適な震源位置は海抜300 m(火口底からの深さ450 m)であり,パルス幅を1 sと仮定したときの地震モーメントは1011-1012 Nm程度である.この値はTameguri et al. (2002)が推定したLP相震源のモーメントに概ね一致する.下向きシングルフォースの場合,最適な震源位置は海抜700 m(火口底からの深さ50 m)であり,パルス幅1 sのときの力の大きさは108 N程度である.いずれの場合も,震源の深さには200 m 程度の不確定性がある.
LP相から推定された両モデルによる直達P波が観測波形のP相の0.5 s後に到達している.以上の結果から,桜島の爆発地震では,トリガーとなるP相震源の約0.5 s後に,鉛直方向に卓越する発震機構によってLP相が励起することがわかった.
謝辞
気象庁火山観測網の地震波形データを利用しました.