日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-07] 地球システム変動と海洋生態系との関わり

2024年5月27日(月) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:須賀 利雄(東北大学 大学院理学研究科)、安中 さやか(東北大学)、王 童(海洋研究開発機構)、座長:須賀 利雄(東北大学 大学院理学研究科)、安中 さやか(東北大学)、王 童(海洋研究開発機構)


10:00 〜 10:15

[U07-05] 人工衛星による全球海洋物理・生物環境の時系列観測

★招待講演

*村上 浩1可知 美佐子1沖 理子1 (1.宇宙航空研究開発機構地球観測研究センター)

キーワード:リモートセンシング、GCOM-C、GCOM-W、SGLI、AMSR

衛星リモートセンシングは、生態系が複雑で直接測定が困難な場合もあるが、地球物理学的・生物学的変数、その時間的変化、地球規模の環境条件との関係を推定するための有効な手段である。例えば海色観測は直接的には分光反射率(色)を見ているが、植物プランクトン中の色素等による各波長の光吸収の情報を持っているため、その分布や変動は海洋の広域観測に貢献できる。また、生態系に影響しうる環境場として衛星から海面水温、海上風速、熱フラックス、降水、海流場などが推定できる。
温暖化が進む中で長期的な環境変化をモニタリングするためには、数十年以上にわたって観測を続ける必要がある。特に近年20~25年でSGLI[1]、MODIS、AMSR-E、AMSR-2[2]など多チャンネルの衛星センサが運用され多様な全球環境変動に関するデータが蓄積されつつある。ここでは、光学センサとしては一番長期のデータがあるMODISデータを基準として、SGLIを始めとした他のセンサデータとの重複期間のデータで単純に画素毎のバイアスを補正することで過去20~25年間の月平均時系列を作成した。データ複合のメリットとしては、長期の変化を見られるだけでなくそのデータが示す変動の信頼性が上がるという点がある。例えば、全球(60°N-60°S)のChlの時系列でセンサ毎に異なる変動を示している場合(2005-2008年のMODISとSeaWiFS、2012年のMODISとVIIRS、2023年のMODISとそれ以外)があり、どれかのセンサでの誤差(校正、アルゴリズム、観測地方時変化等による)によるものと推測できる。逆に特異的に見える2020年初めのChlのピークは、SGLI、MODIS、VIIRS、OLCIいずれのデータでも同様に表れており、実際にChlが増加したものと推測される(増加域は南半球中高緯度海洋域で2019年末~2020年初のオーストラリア森林火災エアロゾルの影響が推測される[3][4])。
この25年間の衛星時系列データを俯瞰すると、1997-1998、2015-2016、2023-2024に強いEl Niñoへの遷移に伴うSSTの大きな上昇が表れている。特に2023年の期間最高になったSST偏差は、この期間の上昇トレンド(約+0.02度/年)に加え、El Niñoに伴う短期的な上昇(SST約+0.3度)が重なることで生じたと推測される。一方、Chlはここ数十年でわずかに減少し、全球平均では海面水温と負の相関を示している可能性があるが、センサの較正や推定過程への感度が高いことによるセンサ間の違いが生じうるため、その結果は慎重に調査する必要がある。
リモートセンシングは、生物関係の観測においては困難と限界があるものの、地球規模までスケールアップするための貴重な方法である。今後の全球規模の生物・物理環境変動の監視と理解に向け、この衛星観測のメリットを活かし、地球規模で海洋生物・物理環境に関する数十年以上にわたる長期時系列の開発と解析を継続していくことが重要である。

[1] GOCM-C homepage: https://suzaku.eorc.jaxa.jp/GCOM_C/data/product_std.html.
[2] AMSRs homepage: https://www.eorc.jaxa.jp/AMSR/index_en.html
[3] Tang et al., 2021, Widespread phytoplankton blooms triggered by 2019-2020 Australian wildfires.
[4] Li et al., 2021, 2019-2020 Australian bushfire air particulate pollution and impact on the South Pacific Ocean.