09:10 〜 09:30
[U09-01] 市民が作り共有する災害地図
★招待講演
キーワード:クライシスマッピング、オープンストリートマップ、自然災害伝承碑、オープンデータ
災害予防、準備、緊急対応、復旧の災害サイクルのあらゆるステージにおいて、地理空間情報は不可欠な情報である。従来、防災のための地理空間情報の整備、提供は、主に公的機関やその依頼を受けた民間団体が担ってきたが、近年の新技術により、アノニマスな多数の一般市民がボランタリーに地理空間情報の整備に参加する活動が広がりつつある。特に、大規模な災害の発生時など、公的機関のリソースが十分でない場合に、このようなボランタリーに作成されたオープンな地理空間情報が災害対応に大きな役割が期待されている。ここでは、災害発生時に世界中の市民が被災地の地図を作成するプロジェクトである「クライシスマッピング」と、市民が街歩きの中で先人の残した自然災害の証しを見つけだす「みんなの自然災害伝承碑」の活動について紹介する。
1.クライシスマッピング
クライシスマッピングの着想のもととなったのは、2010年1月12日に発生したハイチ地震の際のオープンストリートマップの活動である。オープンストリートマップは、だれもがその作成に参加でき、だれでも自由に利用できるオープンな地図データで、2004年に英国で創設された。参加者は、公開されている衛星画像や空中写真、紙地図などをもとに、地図データを作成し、インターネット上の既存の地図データを更新していく。参加者が多ければ多いほど、より詳細な地図データが整備されていく。2010年のハイチ地震で大きな被害を受けたハイチ共和国の首都、ポルトープランスは、政府の体制が不安定で国家財政が乏しく、十分な地図データが存在しなかったため、救援、復旧活動に大きな支障を来たしていた。地震発生後すぐに世界中の多数のボランティアによりオープンストリートマップのデータが更新され始め、数時間のうちに詳細な地図データが創り上げられ、NGOや支援団体の活動に活用された。その後の世界の様々な災害において、このような世界中の市民による地図データの構築が行われ、災害対応活動に大きな役割を果たした。
日本においても、2011年の東日本大震災や2013年の伊豆大島の土石流災害などでの活動の経験を経て、2015年にNPO法人クライシスマッパーズジャパンが設立された。日本では、公的機関や民間企業により正確な基本的地図データが整備されているが、災害時の活動のためには解像度が十分でなかったり、データが更新されていないなどの問題がある場合がある。また、既存のデータは場合によってはデータの自由な利用に制限がかかるなどの課題があるが、オープンストリートマップはオープンデータであり、もととなる衛星画像や空中写真、紙地図等のソースデータもオープンデータを利用することが原則とされており、オフライン利用や商用利用など、だれでも自由に利用することができるデータとなっている。さらに、クライシスマッパーズジャパンでは、ドローンによるデータを自発的に取得し、これを用いた詳細な地図データの整備についても取り組みを進めている。2024年能登半島地震に際しても、国内外から約2000人の地図編集ボランティアが参加し、詳細な地図データの整備に貢献している。
2.みんなの自然災害伝承碑
先人が自然災害の教訓を後世に伝えるために残した災害伝承碑は、住民の災害リスクに対する意識を高めるための重要な資産であるが、多くの場合、地元の住民にもその存在が忘れさられてしまっている。このため、国土地理院では、2019年から、自然災害伝承碑の地図記号を新たに創設し、地理院地図に自然災害伝承碑の位置と碑に刻まれた内容要約を掲載する活動を行っている。しかし、自然災害伝承碑の登録は市町村からの申請に基づき国土地理院が行うこととなっており、碑文に災害の内容や発生時期が明示されていること、といった基準が定められているほか、碑文の全文が記載されず要約のみという課題が指摘されている。
日本地図学会防災と地図専門部会では、このような公的な活動による自然災害伝承碑の登録を補うとともに、市民が地元の資産を直接発掘することで、地域の災害リスクに関心を持ってもらうことを目的として、2023年に「みんなの自然災害伝承碑」のプロジェクトを開始した。日本地図学会のホームページに自然災害伝承碑を登録するためのページを用意し、だれでも自分が見つけた伝承碑をスマホの写真で簡単に登録することができるようにした。スマホで伝承碑の碑面の写真を撮影するだけで、OCRにより碑文を読み下すとともに写真に記録された位置情報を取得して伝承碑の位置を地図上に示すシステムとなっている。市民に先人の教えに関心を持ってもらうこと、及び碑文の全文アーカイブを目的としており、登録にはあえて厳密な基準を設けず、登録者が自然災害を記録する碑と判断したものを自由に登録できるようにした。加えて、公共財としてパブリックドメインライセンス(CC0)を選択可能にし、後世に残すオープンデータとしての価値を高めた。まだ多くの参加が得られているとはいえないが、日本地図学会からの防災への重要な貢献と位置付けて活動を進めていきたいと考えている。
1.クライシスマッピング
クライシスマッピングの着想のもととなったのは、2010年1月12日に発生したハイチ地震の際のオープンストリートマップの活動である。オープンストリートマップは、だれもがその作成に参加でき、だれでも自由に利用できるオープンな地図データで、2004年に英国で創設された。参加者は、公開されている衛星画像や空中写真、紙地図などをもとに、地図データを作成し、インターネット上の既存の地図データを更新していく。参加者が多ければ多いほど、より詳細な地図データが整備されていく。2010年のハイチ地震で大きな被害を受けたハイチ共和国の首都、ポルトープランスは、政府の体制が不安定で国家財政が乏しく、十分な地図データが存在しなかったため、救援、復旧活動に大きな支障を来たしていた。地震発生後すぐに世界中の多数のボランティアによりオープンストリートマップのデータが更新され始め、数時間のうちに詳細な地図データが創り上げられ、NGOや支援団体の活動に活用された。その後の世界の様々な災害において、このような世界中の市民による地図データの構築が行われ、災害対応活動に大きな役割を果たした。
日本においても、2011年の東日本大震災や2013年の伊豆大島の土石流災害などでの活動の経験を経て、2015年にNPO法人クライシスマッパーズジャパンが設立された。日本では、公的機関や民間企業により正確な基本的地図データが整備されているが、災害時の活動のためには解像度が十分でなかったり、データが更新されていないなどの問題がある場合がある。また、既存のデータは場合によってはデータの自由な利用に制限がかかるなどの課題があるが、オープンストリートマップはオープンデータであり、もととなる衛星画像や空中写真、紙地図等のソースデータもオープンデータを利用することが原則とされており、オフライン利用や商用利用など、だれでも自由に利用することができるデータとなっている。さらに、クライシスマッパーズジャパンでは、ドローンによるデータを自発的に取得し、これを用いた詳細な地図データの整備についても取り組みを進めている。2024年能登半島地震に際しても、国内外から約2000人の地図編集ボランティアが参加し、詳細な地図データの整備に貢献している。
2.みんなの自然災害伝承碑
先人が自然災害の教訓を後世に伝えるために残した災害伝承碑は、住民の災害リスクに対する意識を高めるための重要な資産であるが、多くの場合、地元の住民にもその存在が忘れさられてしまっている。このため、国土地理院では、2019年から、自然災害伝承碑の地図記号を新たに創設し、地理院地図に自然災害伝承碑の位置と碑に刻まれた内容要約を掲載する活動を行っている。しかし、自然災害伝承碑の登録は市町村からの申請に基づき国土地理院が行うこととなっており、碑文に災害の内容や発生時期が明示されていること、といった基準が定められているほか、碑文の全文が記載されず要約のみという課題が指摘されている。
日本地図学会防災と地図専門部会では、このような公的な活動による自然災害伝承碑の登録を補うとともに、市民が地元の資産を直接発掘することで、地域の災害リスクに関心を持ってもらうことを目的として、2023年に「みんなの自然災害伝承碑」のプロジェクトを開始した。日本地図学会のホームページに自然災害伝承碑を登録するためのページを用意し、だれでも自分が見つけた伝承碑をスマホの写真で簡単に登録することができるようにした。スマホで伝承碑の碑面の写真を撮影するだけで、OCRにより碑文を読み下すとともに写真に記録された位置情報を取得して伝承碑の位置を地図上に示すシステムとなっている。市民に先人の教えに関心を持ってもらうこと、及び碑文の全文アーカイブを目的としており、登録にはあえて厳密な基準を設けず、登録者が自然災害を記録する碑と判断したものを自由に登録できるようにした。加えて、公共財としてパブリックドメインライセンス(CC0)を選択可能にし、後世に残すオープンデータとしての価値を高めた。まだ多くの参加が得られているとはいえないが、日本地図学会からの防災への重要な貢献と位置付けて活動を進めていきたいと考えている。