日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[U-11] CO環境の生命惑星化学

2024年5月26日(日) 15:30 〜 16:45 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、北台 紀夫(海洋研究開発機構)、鈴木 志野(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)、尾崎 和海(東京工業大学)、座長:北台 紀夫(海洋研究開発機構)、鈴木 志野(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

15:45 〜 16:15

[U11-07] 不斉自己触媒(Soai)反応によるホモキラリティーの起源の研究

★招待講演

*硤合 憲三1 (1.東京理科大学)

キーワード:ホモキラリティー、Soai反応、不斉自己触媒反応、不斉の起源、水晶、円偏光

地球上の生命は,L-アミノ酸やD-糖質等に見られるように,実像と鏡像(右手と左手)の関係にあって重ね合わせることができない鏡像異性体[キラル(不斉)化合物]のうち(本質的に)一方のみから構成されており,これは生命のホモキラリティーと呼ばれて,その起源は長年の謎とされている。生命にとってホモキラリティーが必須であることは,以下の事実から明らかである:2人が同じ右手どうしで握手する場合と,1人が右手もう1人が左手で手を繋ぐ場合では意味が異なるように,本来L-アミノ酸から構成されるタンパク質にD-アミノ酸が不規則に混入するとコンフォメーションが変化して酵素作用等が発現できなくなり生命活動が維持できない。
では,そもそも生体関連化合物は,最初に如何にしてホモキラリティーに至ったのであろうか。その不斉の起源および化学過程の解明は,生命の起源解明にも関連する課題である。これまで,有機化合物の不斉起源として,円偏光や水晶等のキラル鉱物等が提唱されているが,有機化合物に誘導するキラリティーは微小であり,ホモキラリティーとの関連は不明であった。
Soaiらは,鏡像体過剰率(% ee, 右手と左手型の偏りの指標,例えば98:2は96% ee, 60:40は20% eeを表す)が向上する不斉自己触媒反応を見出した[1,2]。これは鏡像体過剰率(ee)が低いピリミジルアルカノール(含窒素アルコール)を不斉自己触媒として用い,ピリミジン-5-カルバルデヒド(含窒素アルデヒド)とジアルキル亜鉛(R2Zn)を作用させると,不斉自己触媒が自己増殖して自己と同一構造・同一絶対配置の高いeeのピリミジルアルカノールを与える(硤合反応)。極微小ca. 0.00005% eeの不斉自己触媒を用いて3回の連続的不斉自己触媒反応を行うと,63万倍増殖し,ほぼ純粋な99.5% ee以上のアルカノールに到達する。すなわち,最初に僅かでも不斉の偏りがあれば,やがては一方の純粋な鏡像異性体に到達する反応が存在することが明らかとなった。Ee向上の機構は,ピリミジルアルカノールの会合体(2または4量体等)が触媒作用を発現し,会合体の構成(SS, RR, RS, 4量体など)により活性が異なるものと考えられ現在研究が行われている。
ホモキラリティーの起源の研究:水晶(SiO2)[3],辰砂(HgS)などキラルな鉱物存在下で当該アルデヒドとR2Znを反応させると,鉱物の不斉に相関した絶対配置のピリミジルアルカノールが高いeeで生成する。また,石膏の表面もキラルであり,不斉自己触媒反応を誘導する。さらに,右および左円偏光が不斉自己触媒反応の不斉起源として作用することを明らかにした。硤合反応は,超高感度不斉識別能を持つ。多くのアキラル(不斉でない)な有機化合物でも,同位体置換を行うとキラル化合物になる。水素(H/D),炭素(12C/13C)[4], 窒素(14N/15N), 酸素(16O/18O)置換キラル化合物が不斉起源となる。グリシンはタンパク質構成アミノ酸のうち唯一アキラルであるが,安定な結晶多形であるガンマ-グリシン結晶はキラルであり,不斉自己触媒反応を誘導する[5]。
以上のとおり,不斉自己触媒反応は,キラル分子が生命の特質である自己増殖作用を発現するものであり,ホモキラリティーの起源と高いeeのキラル化合物の関連付けを可能にするものである[6]。

引用文献
[1] Soai, K. et al. (1995) Nature 378, 767-768.
[2] Soai, K. (2019) Proc. Jpn. Acad. Ser. B (2019) 95, 89-109.
[3] Soai, K. et al. (1999) J. Am. Chem. Soc. 121, 11235-11236.
[4] Kawasaki, T. et al. (2007) Science 324, 492-495.
[5] Matsumoto, A. et al. (2019) Org. Biomol. Chem. 17, 4200-4203.
[6] ”Asymmetric Autocatalysis: The Soai Reaction,” ed. Soai, K. et al., RSC Catalysis Ser. 43, 2023.