17:15 〜 18:45
[U11-P04] 水物性の温度・圧力依存性を取り入れた平衡同位体分別の計算
キーワード:平衡同位体分別、溶媒和、量子化学計算、窒素循環
元素の安定同位体存在度の物質間の違いは、分子生成のプロセスや古環境等を知る上で不可欠な知見である。この違いのうち、化学種AとBとの間で同位体交換が生じた結果である平衡同位体分別は、温度Tに依存する関数となる。BigeleisenとMayerらにより定義された換算分配関数比βは、同位体異性体分子AとA’間での同位体分別であり、同位体異性体分子の振動準位に基づき算出される。この振動準位は量子化学計算により電子状態を計算することで求まるが、水中での同位体効果を計測するためには水和効果を考慮した量子化学計算が必要となる。標準的な水和手法として、溶媒を連続誘電体として取り扱う分極連続体モデル(PCM)にて、対象分子の周りに数十個の水分子を配置し計算を行う水滴法と呼ばれるものである。水滴法は、PCMモデルにより静電場相互作用を、水分子により水素結合やファンデルワールス相互作用などの分子間力をそれぞれ取り入れることができるというメリットがある。水滴法では、水分子を含んだ系の構造最適化を行った後に、標準的な温度・圧力条件にて振動数計算を行い、βの式中に独立して含まれるTを変化させることで、βの温度依存性を算出する。水滴報の欠点としては、水分子の配置や構造の収束などが難しく、また計算コストも莫大になるという点が挙げられ、複雑な化合物に対する換算分配関数比の算出を阻んでいた。
我々は、水が沸騰した前後でもβが連続的なことや、沸点に大きく影響する圧力の依存性がβの算出に取り入れられないことに直感的な疑念を抱きこれを解消するための検討を行うとともに、水滴法の欠点である計算コストの削減に向けた改良を試みた。具体的には、水分子の水和状態や水分子の誘電率等の物性が温度・圧力に依存すること、また同位体異性体の振動数変化は同位体置換した原子周辺に偏ることに着目した。既報と比較するため、B3LYP汎関数と6-31G+(d,p)基底を用いた密度汎関数法(DFT)をGaussian16上にて行った。PCMモデルでは溶媒物性として誘電率と無限振動数での誘電率がパラメータとして用いられるが、これらの値を各温度、圧力条件にて国際水・蒸気性質協会(IAPWS)の相関式により算出し、各条件にて構造最適化および振動数計算を行った。水、硝酸イオンおよび亜硝酸イオンを例に取り、15Nおよび18O置換によるβの温度・圧力変化を、陽に配置した水和水の数を変化させて計算した。
その結果、溶媒水が気化する温度前後においてβに飛躍が見られた他、高温では水素結合の結合長および結合角に変化が見られた。このことは高温では水素結合する水分子数が高温で減少することと定性的に一致する。また、水のβ18O(H2O)や硝酸イオンのβ18O(NO3–)は水和による影響が顕著であった一方で、β15N(NO3–)は水和によりほとんど影響されなかった。既報の実験結果を説明するために必要な水和水は1–2分子であり、DFT計算では計算時間が基底数の約3.3条に比例することから、1点あたりの計算時間を約1/500に削減することができる。提案手法では複数温度・圧力での構造最適化が必要となるが、例えば50点の計算をする場合でも1/10以下の時間で計算が完了し、また温度圧力変化による構造変化量は少ないため構造収束は早く、より短時間での計算が見込まれる。
本研究は科研費 23K13211 の支援を受け、地球シミュレータ上で計算を実行した。
我々は、水が沸騰した前後でもβが連続的なことや、沸点に大きく影響する圧力の依存性がβの算出に取り入れられないことに直感的な疑念を抱きこれを解消するための検討を行うとともに、水滴法の欠点である計算コストの削減に向けた改良を試みた。具体的には、水分子の水和状態や水分子の誘電率等の物性が温度・圧力に依存すること、また同位体異性体の振動数変化は同位体置換した原子周辺に偏ることに着目した。既報と比較するため、B3LYP汎関数と6-31G+(d,p)基底を用いた密度汎関数法(DFT)をGaussian16上にて行った。PCMモデルでは溶媒物性として誘電率と無限振動数での誘電率がパラメータとして用いられるが、これらの値を各温度、圧力条件にて国際水・蒸気性質協会(IAPWS)の相関式により算出し、各条件にて構造最適化および振動数計算を行った。水、硝酸イオンおよび亜硝酸イオンを例に取り、15Nおよび18O置換によるβの温度・圧力変化を、陽に配置した水和水の数を変化させて計算した。
その結果、溶媒水が気化する温度前後においてβに飛躍が見られた他、高温では水素結合の結合長および結合角に変化が見られた。このことは高温では水素結合する水分子数が高温で減少することと定性的に一致する。また、水のβ18O(H2O)や硝酸イオンのβ18O(NO3–)は水和による影響が顕著であった一方で、β15N(NO3–)は水和によりほとんど影響されなかった。既報の実験結果を説明するために必要な水和水は1–2分子であり、DFT計算では計算時間が基底数の約3.3条に比例することから、1点あたりの計算時間を約1/500に削減することができる。提案手法では複数温度・圧力での構造最適化が必要となるが、例えば50点の計算をする場合でも1/10以下の時間で計算が完了し、また温度圧力変化による構造変化量は少ないため構造収束は早く、より短時間での計算が見込まれる。
本研究は科研費 23K13211 の支援を受け、地球シミュレータ上で計算を実行した。