日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[U-12] 人工知能が拓く地球惑星科学の将来

2024年5月26日(日) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (2) (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:長尾 大道(東京大学地震研究所)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、飯田 佑輔(新潟大学)、中野 満寿男(海洋研究開発機構)、座長:長尾 大道(東京大学地震研究所)、飯田 佑輔(新潟大学)、中野 満寿男(海洋研究開発機構)、加納 将行(東北大学理学研究科)


11:35 〜 11:55

[U12-03] 人工知能に基づく衛星からの気象状態の推定と不確定性の定量化

★招待講演

*岩渕 弘信1山下 尭也1 (1.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:機械学習、気温、湿度、静止気象衛星、不確定性の定量化

人工知能/機械学習(AI/ML)の利用により、時空間について高次元のマルチスペクトル衛星画像に含まれる豊富な情報を抽出することができる。特に、静止気象衛星による観測は時空間的に均一で高頻度であることから、AI/MLを応用することで豪雨をもたらす気象状態の把握や監視、予報の改善が期待される。ここでは、現在のAI/ML技術が気象状態の把握にどのように役立つかを報告し、その可能性と制約を示す。
 沿岸域での大雨は、海洋上の対流圏中層・下層での大量の水蒸気輸送と関連していることが多いため、海洋域での水蒸気の観測の強化が望まれている。AIRSなどのハイパースペクトル赤外サウンダーによる気温と湿度の3次元プロファイルは、主に晴天大気の部分に限定されてきた。我々は最近、静止気象衛星ひまわり8号に搭載されたマルチスペクトルイメージャの観測から気温と湿度の3次元プロファイルを推定する、畳み込み深層ニューラルネットワーク(DNN)に基づく全天候型大気サウンディング手法(以下、HimMet)を提案した。HimMetはスペクトル特徴に加えて画像中の(2次元)空間的特徴を利用するため、これはイメージャによるサウンディングと呼べる手法である。自己教師あり学習によってDNNを事前学習させた後、不確定性の推定値を診断するために誤差の確率分布をガウス分布と仮定し、2年間について取得されたラジオゾンデ測定値に対して最尤法でDNNを学習させた。ラジオゾンデ観測点は疎かつ不均一に分布しているため、ラジオゾンデ観測点周辺に大きな重みを持つ加重平均損失関数を用いてDNNの学習を行った。空間的特徴量とマルチスペクトル特徴量の両方を利用することで、全天候条件下で高精度な気温と湿度の推定が可能であることが示された。ERA5再解析を真値とみなした検証では、全体の平方二乗平均誤差 (RMSE) は、海洋(陸上)の気温について1.2(1.6)K、相対湿度については同じく10.2%(10.4%)であった。ほぼ晴天の場合について比較検証すると、HimMetによる湿度の推定はAIRSの標準プロダクトよりも高精度であった。2年間のラジオゾンデ測定値を真値とみなした検証では、全天候下での気温のRMSEは1.43K、相対湿度は11.8%であった。また、検証の結果、推定された不確定性は定量的に妥当であることが示された。誤差の標準偏差はわずかに過小評価されているが、雲の影響、陸地/海洋の別、気圧レベルを含む様々な条件下での実際の誤差の大きさを診断する良い診断値が得られていた。気温が異常に低い/高い場合には高温/低温バイアス、相対湿度が0%/100%に近い場合には湿潤/乾燥バイアスが見られた。これらのバイアスは、現在の不確定性の定量化方法では捉えることができない(見逃している)ことには注意が必要である。
 AI/ML手法は高速処理が可能であり、静止気象衛星観測特有の時間的・空間的連続性を活かすことで大気リモートセンシングのいくつかの問題の解決に有用と考えられる。大気安定性の診断、対流発生の早期検知、悪天候の検知や予測、数値気象予測への同化等の応用可能性が考えられる。