日本地球惑星科学連合2024年大会

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[U-15] 2024年能登半島地震(1:J)

2024年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

座長:鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)、和田 章(東京工業大学)、宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

15:00 〜 15:15

[U15-06] 令和6年能登半島地震における木造住宅の被害と今後求められる事前対策

★招待講演

*山崎 義弘1 (1.東京工業大学)

キーワード:耐震補強、耐震診断、新耐震基準、耐震等級

令和6年1月1日に能登半島で発生した最大震度7の地震により、多くの木造住宅が倒壊などの甚大な被害を受けた。240名以上の尊い人命が失われてしまったが、その要因は家屋倒壊に伴うものがほとんどである。本来、人々の生活を守るはずである住宅が、地震の際には凶器となって人命を奪ってしまうと認識する必要がある。
日本は世界有数の地震国であり、過去の地震被害に対して反省を繰り返しながら、耐震基準の見直しが行われてきた。まず、日本の建築基準法(以下、基準法)の変遷をまとめる。
基準法は1950年に制定された。その後、1981年に大きな改正があり、以降は新耐震基準と言われる。また、1995年に兵庫県南部地震が発生し、この被害調査で得られた知見に基づく対策が2000年の改正で盛り込まれた。2000年以降、多少の改正はあるが、2024年現在の基準は2000年改正時のものと同水準である。したがって、木造住宅の地震被害を理解する上で、①1981年5月までに建設されたもの(旧耐震)、②1981年6月~2000年5月までに建設されたもの、③2000年6月以降に建設されたもの(現行基準)、にわけて考える必要がある。
日本建築学会による2016年熊本地震で木造住宅に生じた被害の調査報告では、被害の多くは①(倒壊率約27.9%)に集中し、②(倒壊率約8.7%)、③(倒壊率約2.2%)の順に減少したとされている。②は現行基準を満たさないが、旧基準でもない、曖昧な位置づけであり、専門家の間でも「グレーゾーン」などと呼ばれている。国土交通省によれば、平成30年時点で住宅の耐震化率は約87%とされ、令和12年におおむね解消することが目標とされている。ただし、このデータで②のグレーゾーンは「耐震性あり」に含まれていることに注意が必要である。
2000年の改正では、柱頭柱脚接合部の接合方法が明記された。これは、柱の端部を基礎や横架材から抜け落ちないように十分な強度の金物で緊結することを求めるものである。日本建築防災協会では、グレーゾーンの住宅の耐震性能を検証する方法として「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法」を用意している。この方法は、「所有者等による検証」と、「専門家による効率的な検証」の2段階構成となっている。2000年5月までに建設された住宅所有者にはぜひ実施していただきたい。
住宅の耐震補強工事の総額は100~200万円程度が多く、決して安い買い物ではないが、耐震診断および耐震補強の実施にあたり、自治体による助成が得られることがある。ただし、これは主に①を対象としており、②は含まれないことがある。近年の大地震による被害を鑑みて、②も助成対象とする動きがある。②のグレーゾーンの補強は今後早急に対応しなければならない課題と考えられる。
また、新築の住宅においても、住宅性能表示制度の「耐震等級」を取得することをすすめたい。2016年熊本地震においても、耐震等級3(最高ランク)を取得した住宅の被害は特に小さかったと報告されている。なお、住宅性能表示制度は2000年に施行され、現在の新築住宅における活用率は30%程度と言われており、着実に増え続けている。
令和6年能登半島地震による被害状況は、日本建築学会を中心として悉皆調査が行われており、その調査結果に注視していく必要がある。現段階では、2016年熊本地震のときと同様、旧耐震、あるいはグレーゾーンの住宅の被害がほとんどであるが、2000年以降に建設された住宅でも被害が生じたものがあるようである。一方で、激震地においても比較的新しい木造住宅は外観上無被害に留まったものもある(写真1)。的確な設計・施工がなされた住宅であれば、近年の大地震でも被害は生じていない。
能登半島では令和5年5月にも最大震度6強の地震が、平成19年3月にも最大震度6強の地震が発生しており、近年の地震活動が活発であった。基準法では過去の地震発生頻度、あるいは発生リスクに応じて、地震地域係数Zが定められており、リスクの小さい地域では強度を落とすことができる。一般地域はZ=1.0であるが、能登半島の輪島市、珠洲市などはZ=0.9である(基準法上はZ=0.7~1.0)。Zが小さいからといって地震が起きないという誤ったメッセージに受け取られないようにしなければならない。なお、南海トラフ地震の発生が危惧される静岡県では、自主的にZ=1.2(木造では1.32)とする基準を義務化している。
今回の能登半島地震で生じた木造住宅の被害からは、未だ古い木造住宅の耐震補強が進んでいない現状が浮き彫りになり、これまでの反省が十分に活かされたとは言えない。今回の地震をきっかけに、特にグレーゾーンの住宅に対する助成が手厚くなされ、耐震補強が活発になるとともに、新築の住宅においても高い耐震等級をもつ住宅が志向されることに期待したい。