17:15 〜 18:45
[U15-P26] AN-netアレイを用いた2024年能登半島地震のバックプロジェクション解析:縦ずれ断層におけるsupershear破壊の可能性
キーワード:2024年能登半島地震、バックプロジェクション、supershear破壊、AN-net
2024年1月1日16時10分に、石川県能登地方でMw7.6の地震が発生した。本研究では近地のアレイデータにバックプロジェクション法(Ishii et al., 2005)を適用し、この地震の震源過程を調べた。バックプロジェクション法は観測波形から直接エネルギー放射強度の時空間分布を推定することが可能であり、通常の波形インバージョンのように理論波形の計算や破壊伝搬速度などの仮定が不要である大きな利点がある。
本研究では、地震予知総合研究振興会が新潟県に展開しているアレイ観測網(AN-net)のデータを使った。AN-netは能登半島地震の本震からおよそ100km東側に位置しており、50 km×30 kmの範囲に40点の観測点が存在する。それぞれの観測点には地表に強震計が設置されているとともに、ボアホールに高感度地震計と強震計が設置されている。本研究ではデータ品質を考慮し、ボアホールの強震計データを解析に使用した。実際の解析では、加速度記録を積分して速度波形にし、0.2-1.0 Hzの帯域のバンドパスフィルターを掛けたデータを使用した。
バックプロジェクション法では断層面を仮定する必要は無いが、ここでは余震分布を参考にしながら、余震域をカバーするような走向55°、傾斜角40°の南東傾斜の面を仮定した。バックプロジェクション法により推定された震源過程の特徴は以下の通りである。
1) 破壊は能登半島の北東部で開始し、エネルギー放射は小さいものの、深さ10kmあたりの深さを破壊しながら15秒間ほどかけて余震域の南西端まで進展した。
2) その後、破壊は進展方向を北東に変え、10km以浅の浅い領域を破壊していった。この時の破壊伝搬速度はP波速度に近い5km/s(supershear)に達し、supershear破壊は約20秒間続いた(破壊開始から15~35秒)。この段階で、この地震の大部分のエネルギーが放射された。
3) その後も北東方向への破壊は余震域の北東端まで続くが、破壊伝搬速度はS波速度にまで減速した。全体の破壊継続時間は約60秒であった。
浅部における大きなエネルギー放射は、最大4mほどの海岸隆起の出現や津波の発生と調和的である。また、まだ定性的な考察の段階であるが、近地強震波形に見られる顕著な波群や継続時間の特徴は、北東方向に伝搬するsupershear破壊により概ね説明できそうである。
逆断層においてこれだけ顕著なsupershear破壊が確認できたのは、おそらく初めての事例と思われる。このようなsupershear破壊が起こる物理条件の解明や、能登半島地震における甚大な被害との関係を明らかにしていくことは、将来の地震災害軽減に向けて重要な課題であろう。
謝辞:解析には気象庁一元化カタログを使用しました。記して感謝いたします。
本研究では、地震予知総合研究振興会が新潟県に展開しているアレイ観測網(AN-net)のデータを使った。AN-netは能登半島地震の本震からおよそ100km東側に位置しており、50 km×30 kmの範囲に40点の観測点が存在する。それぞれの観測点には地表に強震計が設置されているとともに、ボアホールに高感度地震計と強震計が設置されている。本研究ではデータ品質を考慮し、ボアホールの強震計データを解析に使用した。実際の解析では、加速度記録を積分して速度波形にし、0.2-1.0 Hzの帯域のバンドパスフィルターを掛けたデータを使用した。
バックプロジェクション法では断層面を仮定する必要は無いが、ここでは余震分布を参考にしながら、余震域をカバーするような走向55°、傾斜角40°の南東傾斜の面を仮定した。バックプロジェクション法により推定された震源過程の特徴は以下の通りである。
1) 破壊は能登半島の北東部で開始し、エネルギー放射は小さいものの、深さ10kmあたりの深さを破壊しながら15秒間ほどかけて余震域の南西端まで進展した。
2) その後、破壊は進展方向を北東に変え、10km以浅の浅い領域を破壊していった。この時の破壊伝搬速度はP波速度に近い5km/s(supershear)に達し、supershear破壊は約20秒間続いた(破壊開始から15~35秒)。この段階で、この地震の大部分のエネルギーが放射された。
3) その後も北東方向への破壊は余震域の北東端まで続くが、破壊伝搬速度はS波速度にまで減速した。全体の破壊継続時間は約60秒であった。
浅部における大きなエネルギー放射は、最大4mほどの海岸隆起の出現や津波の発生と調和的である。また、まだ定性的な考察の段階であるが、近地強震波形に見られる顕著な波群や継続時間の特徴は、北東方向に伝搬するsupershear破壊により概ね説明できそうである。
逆断層においてこれだけ顕著なsupershear破壊が確認できたのは、おそらく初めての事例と思われる。このようなsupershear破壊が起こる物理条件の解明や、能登半島地震における甚大な被害との関係を明らかにしていくことは、将来の地震災害軽減に向けて重要な課題であろう。
謝辞:解析には気象庁一元化カタログを使用しました。記して感謝いたします。