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[U15-P31] 経験的グリーン関数を用いた令和6年(2024年)能登半島地震の震源インバージョン解析
キーワード:2024年能登半島地震、震源インバージョン解析、経験的グリーン関数、強震動
2024年1月1日に発生した能登半島地震(Mj 7.6)は、国内の内陸地震としては1891年濃尾地震(M 8.0)に次ぐ規模であり、能登半島北部の複数の地点で計測震度7を記録したほか、震源域の直上では斜面崩壊等の土砂災害や地震動による家屋倒壊、津波被害等が多発した。また半島という地理的制約や、断層運動に伴う地盤の隆起により港湾の使用が制限されたことなどから、被災地への人員や物資の輸送が滞り、復旧、復興の遅れをもたらした。震源域である能登半島北部では、過去数年にわたり局所的に活発な群発地震活動が続いていたが、今回の地震は余震域の長さがおよそ150 kmと、群発地震の活動域をはるかに超える広がりを示しており、また既知の海底活断層との関連も指摘されている。本検討では経験的グリーン関数を用いた震源インバージョン手法を震源域周辺の強震観測記録に適用し、震源すべり分布モデルの推定を試みた。
本震発生後24時間の余震分布から本震の断層面モデルを設定した。ここでは、余震分布の走向方向のトレンドの変化や、既存の海底断層トレースなどを参考に、計4枚の断層面を想定した。このうち東端の断層のみ他と共役の関係になる北西傾斜の逆断層とし、残る3枚の断層面はいずれも南東傾斜の逆断層を仮定した。西端の断層面は2007年能登半島地震(Mj 6.9)の震源断層に比定されている笹波沖断層帯とは走向の異なる海士岬沖断層帯に近いモデルとした。なお、本震発生の直前にMj 5.9の前震が本震の震源近傍で起きており、震源域直上にあたる能登半島北部の強震観測記録には、明らかに本震の破壊開始時刻からS波速度で伝播するよりも早い時刻に大振幅の波群が観測されている。ただし、同時にこれらの波群は前震の破壊開始時刻から推定されるS波速度到達時刻に比べると有意な時間遅れがみられる。また先行研究(浅野・岩田, 2024)では、断層西側のすべりを前震からの破壊伝播とすることで観測波形が説明できるとしている。これらの先見情報から、破壊開始点近傍に深さと傾斜角の異なる前震の断層面を別途設定し、前震の発震時刻で破壊を開始させた。残りの断層面については、破壊伝播の因果律を確保しつつ、本震の発震時刻を包含する幅の広い時間遅れを許す条件でインバージョン解析を実施した。経験的グリーン関数(EGF)には、Mj 4.9から5.3の4個の小地震記録を断層面ごとに採用した。これらには今回の地震の余震のみならず群発地震のイベントや、2007年能登半島地震の余震記録も含まれている。解析には、震源域周辺のK-NET、KiK-netから、0.1‐1Hzの解析周波数帯域で著しい地盤非線形性の影響が見られないことを条件に、24観測点の水平2成分記録を速度波形に変換して用いた。なお4つのEGFの記録が全て得られていない観測点もあり、その場合は隣接する断層面のEGF記録を、震源スペクトルと距離を補正して代用している。インバージョン解析にはShiba and Irikura (2005)の高速焼きなまし法による最適化手法を用いた。
検討の結果得られたすべり分布モデルを図に示す。推定された地震モーメントは2.01E20 Nmで、Mw 7.5となった。最大すべり量は7.0 mである。北東端の共役断層と南西端の海士岬沖断層帯南部のすべりは相対的に小さく、強震動にはほとんど寄与していないと考えられる。また破壊時刻の分布をみると、本震破壊開始点を含む断層面では、前震発生から約13秒後の、本震発震時に近い時刻から破壊が始まっている一方で、西側の隣接する断層面では、本震断層の破壊フロントが到達するよりも前に、前震の破壊伝播を受ける形で破壊が始まっている。このことからこれらの破壊運動は前震の一部とも解釈できるが、一方で前震断層の破壊が終了してから10秒程度の時間遅れが見られることから、本震の破壊伝播推定の揺らぎとも考えられる。インバージョン結果に基づく計算波形は、多くの観測点で観測記録をよく説明するが、震源近傍の観測点で早い時刻に観測されている波群は十分に再現できておらず、破壊伝播のモデル化には未だ改善の余地がある。
本震発生後24時間の余震分布から本震の断層面モデルを設定した。ここでは、余震分布の走向方向のトレンドの変化や、既存の海底断層トレースなどを参考に、計4枚の断層面を想定した。このうち東端の断層のみ他と共役の関係になる北西傾斜の逆断層とし、残る3枚の断層面はいずれも南東傾斜の逆断層を仮定した。西端の断層面は2007年能登半島地震(Mj 6.9)の震源断層に比定されている笹波沖断層帯とは走向の異なる海士岬沖断層帯に近いモデルとした。なお、本震発生の直前にMj 5.9の前震が本震の震源近傍で起きており、震源域直上にあたる能登半島北部の強震観測記録には、明らかに本震の破壊開始時刻からS波速度で伝播するよりも早い時刻に大振幅の波群が観測されている。ただし、同時にこれらの波群は前震の破壊開始時刻から推定されるS波速度到達時刻に比べると有意な時間遅れがみられる。また先行研究(浅野・岩田, 2024)では、断層西側のすべりを前震からの破壊伝播とすることで観測波形が説明できるとしている。これらの先見情報から、破壊開始点近傍に深さと傾斜角の異なる前震の断層面を別途設定し、前震の発震時刻で破壊を開始させた。残りの断層面については、破壊伝播の因果律を確保しつつ、本震の発震時刻を包含する幅の広い時間遅れを許す条件でインバージョン解析を実施した。経験的グリーン関数(EGF)には、Mj 4.9から5.3の4個の小地震記録を断層面ごとに採用した。これらには今回の地震の余震のみならず群発地震のイベントや、2007年能登半島地震の余震記録も含まれている。解析には、震源域周辺のK-NET、KiK-netから、0.1‐1Hzの解析周波数帯域で著しい地盤非線形性の影響が見られないことを条件に、24観測点の水平2成分記録を速度波形に変換して用いた。なお4つのEGFの記録が全て得られていない観測点もあり、その場合は隣接する断層面のEGF記録を、震源スペクトルと距離を補正して代用している。インバージョン解析にはShiba and Irikura (2005)の高速焼きなまし法による最適化手法を用いた。
検討の結果得られたすべり分布モデルを図に示す。推定された地震モーメントは2.01E20 Nmで、Mw 7.5となった。最大すべり量は7.0 mである。北東端の共役断層と南西端の海士岬沖断層帯南部のすべりは相対的に小さく、強震動にはほとんど寄与していないと考えられる。また破壊時刻の分布をみると、本震破壊開始点を含む断層面では、前震発生から約13秒後の、本震発震時に近い時刻から破壊が始まっている一方で、西側の隣接する断層面では、本震断層の破壊フロントが到達するよりも前に、前震の破壊伝播を受ける形で破壊が始まっている。このことからこれらの破壊運動は前震の一部とも解釈できるが、一方で前震断層の破壊が終了してから10秒程度の時間遅れが見られることから、本震の破壊伝播推定の揺らぎとも考えられる。インバージョン結果に基づく計算波形は、多くの観測点で観測記録をよく説明するが、震源近傍の観測点で早い時刻に観測されている波群は十分に再現できておらず、破壊伝播のモデル化には未だ改善の余地がある。