17:15 〜 18:45
[U15-P34] 近地強震波形インバージョンに基づく2024年能登半島地震 (MJ 7.6) の断層傾斜変化を考慮した震源過程
キーワード:2024年能登半島地震、震源インバージョン、曲面断層、近地強震波形、3ステージ震源スケーリング則モデル、震源再決定
2024年1月1日に発生した能登半島地震 (MJ 7.6) はその余震分布から長さ150 km程度に及ぶ,近海域で発生した逆断層型の内陸地殻内地震であり,内陸地殻内地震の震源スケーリング則 (Irikura and Miyake, 2011) の第3ステージの地震に対応する.第3ステージの地震は国内では,高密度な地震観測網が整備された1996年以降は発生しておらず,その震源特性については第1, 2ステージの地震に比べてまだ不明確な部分が多い.そのため,近地の高密度な観測記録を用いて今回の地震の震源像を詳細に解明することにより,第3ステージの地震の震源や強震動に対する今後の予測手法に多くの知見を得ることができ,意義が大きい.本研究では,防災科学技術研究所 (K-NET, KiK-net, F-net) および気象庁の観測網で記録された近地の強震波形 (0.05-0.25 Hz) を用いたインバージョン解析を行い,この地震の震源破壊過程を暫定的に推定した.
震源インバージョンに用いる断層面を設定するため,気象庁一元化処理の検測値を用いてHirata and Matsu’ura (1987) およびWaldhauser and Ellsworth (2000) のプログラムで前震(1月1日16時10分9秒)・本震(1月1日16時10分22秒頃)・本震発生から1週間以内の余震 (M >1) の震源位置の再決定を行った.再決定された余震はおおむね深さ5-15 kmの範囲内に分布しているが,断層走向方向で深さ分布の違いが認められる.また,余震分布は大局的に低角で南東方向に傾き下がっているように見え,これらの低角な余震分布の並びを海底の活断層トレース(井上・岡村,2010)へ繋げるには,高角な断層面が浅部において必要である.これらのことから,本研究は,深部から浅部へなるにつれて低角 (20-25°) から高角 (65°) に屈曲した南東傾斜落ちの断層面を5枚設定した.これらの断層面の傾斜角の変化および走向角は断層セグメントごとに異なる.上端深さは水深を考慮して,もっとも北東側にある海域セグメントは1.0 km,それ以外の4セグメントは0.1 kmとした.一方,下端深さは11.5-14.5 kmの間でセグメントの傾斜角によって異なる.5セグメントの全長は南西側の志賀町沖から猿山沖・珠洲沖を経て能登半島東方沖の富山トラフに至るまでの144 kmで,各セグメントの断層幅は22.5 kmである.
震源インバージョンはマルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン法 (Hartzell and Heaton, 1983) を使用し,前震と本震を一つの連続したイベントとして扱い解析を行った.設定した断層面を長さ4 km・幅2.5 kmの小断層に分割し,各小断層ではパルス幅2.8秒のsmoothed ramp関数のタイムウィンドウを1.4秒間隔に4個並べてすべりを表現した.珠洲市の観測点ISK001(K-NET大谷)およびISKH01(KiK-net珠洲)に見られる時間差を持って到達する2つの波群に着目し,破壊開始時刻から十分な解析時間長の設定に留意した.具体的には,破壊開始点のセグメント内において,1回目の破壊開始時刻は16時10分9秒で固定する一方,2回目の破壊開始時刻は16時10分9秒から25秒までの間で波形残差に基づいて探索し,2回目の破壊が他のセグメントに進展できると仮定した.解析に用いるグリーン関数は全国1次地下構造モデル (Koketsu et al., 2012) から各観測点直下の1次元速度構造を抽出し,水平成層構造を仮定して離散化波数法 (Bouchon, 1981) および反射・透過係数行列法 (Kennett and Kerry, 1979) で計算した.ただし,ISK002(K-NET正院)など一部の観測点の速度構造モデルは小地震の波形記録を用いて試行錯誤的に調整し,また,新潟県佐渡や上越地方の観測点の速度構造モデルは伝播経路にあたる海域の厚い堆積層の影響を考慮した.
0.05-0.25 Hzの周波数帯域(周期4-20秒)での暫定的な解析の結果,地震モーメントは3.89×1020 Nm (MW 7.66) と推定された.破壊フロントの伝播速度は1.4-3.2 km/sの間を探索した結果,波形残差がもっとも小さくなる値は1.8 km/sであった.ここで得られた伝播速度は,横ずれ型の第3ステージの地震(例えば,2002年アラスカDenali地震 (MW 7.9) や2023年トルコ―シリア地震 (MW 7.8, 7.5))で指摘されているsupershearのような速い速度ではなかった.断層全体の平均すべり量は4.1 mであり,この値はMurotani et al. (2015) が提案する第3ステージの地震の平均すべり量 (3.3 m) に比べてやや大きい.ISK001に見られる2つ目の波群を説明するためのすべりは,1回目のすべり(16時10分9秒の震源付近)の少し西側に約10秒遅れて推定され,一方,ISKH01に見られる特徴的な波群を説明するためのすべりは,1回目のすべりの少し東側に約15秒遅れて推定されている.断層全体に目を向けると,大きく(約6 m以上)すべった領域は大まかに見ると計3ヶ所に推定されており,それぞれ輪島市街以西,輪島と珠洲の中間付近,および能登半島東方沖の海域(東経137.5°付近)である.このうち,能登半島東方沖の海域の大すべり域は今回の解析結果からは海底付近の断層浅部に到達していないことが示唆されるが,海域部分に推定されるすべり分布は仮定する速度構造モデルによって大きく変わりうるため,海域すべりの妥当性に関しては今後さらに検証することが重要である.
震源インバージョンに用いる断層面を設定するため,気象庁一元化処理の検測値を用いてHirata and Matsu’ura (1987) およびWaldhauser and Ellsworth (2000) のプログラムで前震(1月1日16時10分9秒)・本震(1月1日16時10分22秒頃)・本震発生から1週間以内の余震 (M >1) の震源位置の再決定を行った.再決定された余震はおおむね深さ5-15 kmの範囲内に分布しているが,断層走向方向で深さ分布の違いが認められる.また,余震分布は大局的に低角で南東方向に傾き下がっているように見え,これらの低角な余震分布の並びを海底の活断層トレース(井上・岡村,2010)へ繋げるには,高角な断層面が浅部において必要である.これらのことから,本研究は,深部から浅部へなるにつれて低角 (20-25°) から高角 (65°) に屈曲した南東傾斜落ちの断層面を5枚設定した.これらの断層面の傾斜角の変化および走向角は断層セグメントごとに異なる.上端深さは水深を考慮して,もっとも北東側にある海域セグメントは1.0 km,それ以外の4セグメントは0.1 kmとした.一方,下端深さは11.5-14.5 kmの間でセグメントの傾斜角によって異なる.5セグメントの全長は南西側の志賀町沖から猿山沖・珠洲沖を経て能登半島東方沖の富山トラフに至るまでの144 kmで,各セグメントの断層幅は22.5 kmである.
震源インバージョンはマルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン法 (Hartzell and Heaton, 1983) を使用し,前震と本震を一つの連続したイベントとして扱い解析を行った.設定した断層面を長さ4 km・幅2.5 kmの小断層に分割し,各小断層ではパルス幅2.8秒のsmoothed ramp関数のタイムウィンドウを1.4秒間隔に4個並べてすべりを表現した.珠洲市の観測点ISK001(K-NET大谷)およびISKH01(KiK-net珠洲)に見られる時間差を持って到達する2つの波群に着目し,破壊開始時刻から十分な解析時間長の設定に留意した.具体的には,破壊開始点のセグメント内において,1回目の破壊開始時刻は16時10分9秒で固定する一方,2回目の破壊開始時刻は16時10分9秒から25秒までの間で波形残差に基づいて探索し,2回目の破壊が他のセグメントに進展できると仮定した.解析に用いるグリーン関数は全国1次地下構造モデル (Koketsu et al., 2012) から各観測点直下の1次元速度構造を抽出し,水平成層構造を仮定して離散化波数法 (Bouchon, 1981) および反射・透過係数行列法 (Kennett and Kerry, 1979) で計算した.ただし,ISK002(K-NET正院)など一部の観測点の速度構造モデルは小地震の波形記録を用いて試行錯誤的に調整し,また,新潟県佐渡や上越地方の観測点の速度構造モデルは伝播経路にあたる海域の厚い堆積層の影響を考慮した.
0.05-0.25 Hzの周波数帯域(周期4-20秒)での暫定的な解析の結果,地震モーメントは3.89×1020 Nm (MW 7.66) と推定された.破壊フロントの伝播速度は1.4-3.2 km/sの間を探索した結果,波形残差がもっとも小さくなる値は1.8 km/sであった.ここで得られた伝播速度は,横ずれ型の第3ステージの地震(例えば,2002年アラスカDenali地震 (MW 7.9) や2023年トルコ―シリア地震 (MW 7.8, 7.5))で指摘されているsupershearのような速い速度ではなかった.断層全体の平均すべり量は4.1 mであり,この値はMurotani et al. (2015) が提案する第3ステージの地震の平均すべり量 (3.3 m) に比べてやや大きい.ISK001に見られる2つ目の波群を説明するためのすべりは,1回目のすべり(16時10分9秒の震源付近)の少し西側に約10秒遅れて推定され,一方,ISKH01に見られる特徴的な波群を説明するためのすべりは,1回目のすべりの少し東側に約15秒遅れて推定されている.断層全体に目を向けると,大きく(約6 m以上)すべった領域は大まかに見ると計3ヶ所に推定されており,それぞれ輪島市街以西,輪島と珠洲の中間付近,および能登半島東方沖の海域(東経137.5°付近)である.このうち,能登半島東方沖の海域の大すべり域は今回の解析結果からは海底付近の断層浅部に到達していないことが示唆されるが,海域部分に推定されるすべり分布は仮定する速度構造モデルによって大きく変わりうるため,海域すべりの妥当性に関しては今後さらに検証することが重要である.