日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

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[U-15] 2024年能登半島地震(1:J)

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

17:15 〜 18:45

[U15-P35] エンベロープインバージョン結果に基づく2024年能登半島地震の強震動生成域の推定

*友澤 裕介1、山口 純輝1、引田 智樹1、坂 敏秀1 (1.鹿島建設)

キーワード:2024年能登半島地震、GIT、cGAN、エンベロープインバージョン、強震動生成域

1.はじめに
周期1秒以下の短周期成分を対象とした震源モデルの推定として,時刻歴波形の包絡形状を用いたエンベロープインバージョン (Kakehi and Irikura, 1996; Nakahara, 1998) や,経験的グリーン関数を用いた強震動生成域 (Strong Motion Generation Areas; SMGA) の推定 (Miyake et al., 2003) が行われている。著者らは,スペクトルインバージョン (GIT) と機械学習の一種である条件付き敵対的生成ネットワーク (cGAN) を組み合わせ,Mw,距離,観測点を入力としてばらつきをもったSite-Specificな加速度時刻歴波形群を出力する手法 (SS-GMG) を開発している (Yamaguchi et al., 2024)。本検討ではSS-GMGで生成した加速度波形を小断層からの要素地震としてエンベロープインバージョンを用いて2024年能登半島地震の周期1秒以下の短周期放出領域を推定し,その結果をもとにSMGAの推定を行った。

2.時刻歴波形の地震動予測モデルの構築
GITではMj 4.0~6.5,震源距離150 km以下の記録を用い,伝播経路特性のQ値,観測点ごとの経験的サイト特性,各地震の震源スペクトルを評価した。全地震の平均応力降下量は3.1 MPaとなった。ω-2の震源スペクトルとGITの結果をもとにFourier Amplitude Spectrum (FAS) の平均と標準偏差を予測するモデルを構築した。経時特性は,観測記録の時刻歴波形をcGANにより学習し,乱数と条件(Mw,震源距離,震源深さ,観測点)を与えれば振幅が-1から1に基準化された時刻歴波形群を出力する経時特性モデルを構築した。この2つのモデルをもとに基準化時刻歴波形群に対して振幅方向に係数倍してFASの平均と標準偏差を同時に満たすような波形群を出力する時刻歴波形の地震動予測モデルを構築した。

3.エンベロープインバージョン
断層破壊過程の推定は,波形インバージョンで用いられるマルチタイムウィンドウ法(Hartzell and Heaton, 1983)を用いた。ただし,波形インバージョンでは速度波形を用いて破壊過程を推定するのに対し,本検討ではSS-GMGで生成した加速度波形の2乗振幅から求めた加速度エンベロープを用いた。そのため,各小断層からの波形がランダムに足し合わされると考えられる周期1秒以下が検討対象となる。
各小断層から各観測点への要素地震波はMw 5.0,応力降下量3.1 MPaを仮定して作成した。この要素地震波のフーリエ振幅スペクトルにはGITに基づく観測点ごとの経験的特性が反映されており,経時特性にはcGANに基づく経験的特性が反映されている。各小断層から各観測点への要素地震波は10ケース作成した。加速度エンベロープは,観測ではNS成分とEW成分の平均を用い,計算では水平1成分の出力結果を用いた。インバージョンに用いた観測点分布を図1に示す。
観測波形のエンベロープと計算波形のエンベロープの誤差を最小にするように非負拘束最小二乗法を用いてMw 5.0の要素地震のモーメントに対する各小断層のモーメント解放の時空間分布を推定した。時間方向には1秒間隔で10個のタイムウィンドウのインパルスを仮定した。時空間の平滑化のために離散ラプラシアンが最小になる条件を加え,平滑化の度合いはABICで決定した。破壊フロントが広がる速度はグリッドサーチにより3.0 km/sとした。
10ケースの要素地震波から推定した各ケースの最終すべり分布を図2に示す。Mwはそれぞれ6.9程度であり,F-netによるMw 7.5よりも小さい。本検討では短周期成分のみを対象としているため,トータルの地震モーメントが小さいと考えられる。長周期を対象とした波形インバージョン結果と比べて,周期1秒以下の短周期成分を放出した領域は離散的に存在しており,短周期地震波生成の複雑さを反映している可能性が考えられる。

4.SMGAの推定
エンベロープインバージョンにより推定した10ケースのすべり量を平均した結果は図1にも短周期放出強度として示している。ケースごとのすべり分布で見るよりも短周期成分の放出域の濃淡が表れ,短周期成分を相対的に大きく放出した領域は少なくとも4つ確認できる。SMGAの位置,サイズ,破壊開始点と破壊開始時刻は,エンベロープインバージョンの結果を参照し,各SMGAの応力降下量を未知数としてGAにより推定した。誤差関数は加速度エンベロープとした。SMGA内の破壊伝播速度は2.4 km/sで固定した。推定した各SMGAの応力降下量はそれぞれ,13.2,12.2,15.7,14.6 MPaとなった。短周期レベルは3.50×1019 Nm/s2となり藤堂・他 (2022, 2023) のスケーリングとも整合した。推定したSMGAを用いて評価した加速度波形の例を図3に,観測と計算のエンベロープの比較を図4に示す。最大加速度は概ね再現できている観測点が多いものの、エンベロープに乖離がある観測点もある。今後の課題は、SMGAの個数の再考や固定値としているパラメータも含めた推定などである。