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[U15-P50] 能登半島の地殻構造の特徴と地震前に構築した震源断層モデルについて
キーワード:2024能登半島地震、震源断層モデル、地殻構造、富山トラフ、中絶リフト
はじめに
上盤プレート内の地震よる災害を予測するためには、強震動・津波の計算を行うための震源断層モデルを構築する必要がある。能登半島周辺の海域の震源断層モデルについては、2013年から2021年まで実施された文部科学省の「日本海地震・津波プロジェクト」(代表 篠原雅尚)において地震学的なデータと構造探査データを元に作成された(佐藤ほか,2015; 2021)。2024年能登半島地震は、すでに断層モデルが構築されていた地域で発生した地震であり、震源断層の事前予測性を検討するための重要な機会となった。ここでは、震源断層モデルの構築の基礎となった構造探査の成果と、推定した震源断層モデルについて述べる。また、能登半島周辺の断層の形成史について簡単に紹介し、地殻深部の流体移動に重要な富山トラフと能登半島北岸の断層システムとの関連性を指摘したい。
地殻構造上の特徴
能登半島はその北方に広がる浅海域とともに大陸地殻から構成される。一方、能登半島と佐渡島の間に南北方向に位置し、富山湾にはいって東北東-西南西に延びる富山トラフでは上部地殻の薄化と下部地殻の顕著な高速度化が見られ(野ほか,2019; Matsubara et al., 2022)、日本海拡大期に形成された中絶リフトであると考えられている(Ishiyama et al., 2017)。とくに能登半島東部の南北方向をとる領域は、日本海の形成に伴う東北日本と西南日本を隔てる重要な構造境界となっている。能登半島は富山トラフの近傍に位置して、大きな沈降運動を免れた地域であった。今回の地震の震源となった能登半島北部沿岸の東北東-西南西方向の断層群は、富山湾域の富山トラフと平行し、富山トラフの形成と同時期に形成された可能性が高い。
反射法地震探査
能登半島周辺海域の沖合では海洋研究開発機構によって長大なケーブルを曳航した深部構造探査が実施された(野ほか,2019; 小平ほか,2015)。また、地震研究所によって2007年能登半島地震の震源断層周辺海域においては2船式の反射法地震探査(佐藤ほか,2007)、飛騨山脈から能登半島東岸沖までは海陸統合探査が実施された(佐藤ほか,2015)。能登半島の北部については水深200m以下の領域が広がり、多重反射などにより、深部のイメージが得られていない。
地震前に構築した断層モデル
2007年能登半島地震は、60度南に傾斜した断層面が横ずれと逆断層成分をもつすべりによって発生した(佐藤ほか,2007)。深さ3 kmまでの断層形状はおおむね地震発生層中で維持されていたことから、類似した走向の断層については、構造探査データを元に深さ3〜4km程度までの形状をそのまま地下に延長して形状を推定した。能登半島北岸から北方にかけての海域は、水深が浅く深さ2〜3kmのイメージングに限られた。断層の位置と長さについては、基本的に産総研の調査結果(岡村,2002; 井上ほか,2010)を参考にしたが、富山トラフ周辺など新しい探査データで追加した断層もある(佐藤ほか,2014)。国交省などの「日本海における大規模地震に関する調査検討会(2014)」では、日本海の広範な地域に影響を及ぼす津波を評価するために、長さが40 kmを越える断層を対象としたが、ここでは長さ20 km程度の断層についても対象とした。断層の名称は地域名称(NT)と番号の組み合わせで表現した(佐藤ほか,2016)。今回の地震ではNT5の西端付近で発生し、西側のNT6、東側のNT3・2に及んだ。能登半島北部沿岸のNT5・6については、地震後に明らかにされた震源分布は推定した傾斜よりも有意に浅くなっており(松原・佐藤,2024 JpGU)、60度という傾斜角の推定は過大であった。事前予測性を向上させるためには、反射法による海陸統合探査の実施と褶曲を伴う変形や陸域の変動地形を合わせた総合的な検討が必要であった。
震源断層の富山トラフ背弧リフトとの関係
今回の地震で活動した断層群は大局的には、富山湾域の富山トラフとほぼ平行して配置している。能登半島北部周辺では東北東-西南西方向の断層が分布し、沿岸部では活断層となっている。地震波トモグラフィから見ると、富山トラフではP波速度の高い速度域が形成されており、リフトの物質境界は軸部から外側に傾斜した「ハの字」型の境界を示す。こうした境界では流体が移動しやすい状況が推定される、2020年から発生した群発地震は地殻中部で開始されている(Yoshida et al., 2023)。2024年能登半島地震はこの群発地震に端を発しており、能登半島北部沿岸の断層群はいずれも南傾斜であり深部延長はリフト境界に近く、群発地震の原因となった流体は、リフト境界に沿って供給された可能性がある。
上盤プレート内の地震よる災害を予測するためには、強震動・津波の計算を行うための震源断層モデルを構築する必要がある。能登半島周辺の海域の震源断層モデルについては、2013年から2021年まで実施された文部科学省の「日本海地震・津波プロジェクト」(代表 篠原雅尚)において地震学的なデータと構造探査データを元に作成された(佐藤ほか,2015; 2021)。2024年能登半島地震は、すでに断層モデルが構築されていた地域で発生した地震であり、震源断層の事前予測性を検討するための重要な機会となった。ここでは、震源断層モデルの構築の基礎となった構造探査の成果と、推定した震源断層モデルについて述べる。また、能登半島周辺の断層の形成史について簡単に紹介し、地殻深部の流体移動に重要な富山トラフと能登半島北岸の断層システムとの関連性を指摘したい。
地殻構造上の特徴
能登半島はその北方に広がる浅海域とともに大陸地殻から構成される。一方、能登半島と佐渡島の間に南北方向に位置し、富山湾にはいって東北東-西南西に延びる富山トラフでは上部地殻の薄化と下部地殻の顕著な高速度化が見られ(野ほか,2019; Matsubara et al., 2022)、日本海拡大期に形成された中絶リフトであると考えられている(Ishiyama et al., 2017)。とくに能登半島東部の南北方向をとる領域は、日本海の形成に伴う東北日本と西南日本を隔てる重要な構造境界となっている。能登半島は富山トラフの近傍に位置して、大きな沈降運動を免れた地域であった。今回の地震の震源となった能登半島北部沿岸の東北東-西南西方向の断層群は、富山湾域の富山トラフと平行し、富山トラフの形成と同時期に形成された可能性が高い。
反射法地震探査
能登半島周辺海域の沖合では海洋研究開発機構によって長大なケーブルを曳航した深部構造探査が実施された(野ほか,2019; 小平ほか,2015)。また、地震研究所によって2007年能登半島地震の震源断層周辺海域においては2船式の反射法地震探査(佐藤ほか,2007)、飛騨山脈から能登半島東岸沖までは海陸統合探査が実施された(佐藤ほか,2015)。能登半島の北部については水深200m以下の領域が広がり、多重反射などにより、深部のイメージが得られていない。
地震前に構築した断層モデル
2007年能登半島地震は、60度南に傾斜した断層面が横ずれと逆断層成分をもつすべりによって発生した(佐藤ほか,2007)。深さ3 kmまでの断層形状はおおむね地震発生層中で維持されていたことから、類似した走向の断層については、構造探査データを元に深さ3〜4km程度までの形状をそのまま地下に延長して形状を推定した。能登半島北岸から北方にかけての海域は、水深が浅く深さ2〜3kmのイメージングに限られた。断層の位置と長さについては、基本的に産総研の調査結果(岡村,2002; 井上ほか,2010)を参考にしたが、富山トラフ周辺など新しい探査データで追加した断層もある(佐藤ほか,2014)。国交省などの「日本海における大規模地震に関する調査検討会(2014)」では、日本海の広範な地域に影響を及ぼす津波を評価するために、長さが40 kmを越える断層を対象としたが、ここでは長さ20 km程度の断層についても対象とした。断層の名称は地域名称(NT)と番号の組み合わせで表現した(佐藤ほか,2016)。今回の地震ではNT5の西端付近で発生し、西側のNT6、東側のNT3・2に及んだ。能登半島北部沿岸のNT5・6については、地震後に明らかにされた震源分布は推定した傾斜よりも有意に浅くなっており(松原・佐藤,2024 JpGU)、60度という傾斜角の推定は過大であった。事前予測性を向上させるためには、反射法による海陸統合探査の実施と褶曲を伴う変形や陸域の変動地形を合わせた総合的な検討が必要であった。
震源断層の富山トラフ背弧リフトとの関係
今回の地震で活動した断層群は大局的には、富山湾域の富山トラフとほぼ平行して配置している。能登半島北部周辺では東北東-西南西方向の断層が分布し、沿岸部では活断層となっている。地震波トモグラフィから見ると、富山トラフではP波速度の高い速度域が形成されており、リフトの物質境界は軸部から外側に傾斜した「ハの字」型の境界を示す。こうした境界では流体が移動しやすい状況が推定される、2020年から発生した群発地震は地殻中部で開始されている(Yoshida et al., 2023)。2024年能登半島地震はこの群発地震に端を発しており、能登半島北部沿岸の断層群はいずれも南傾斜であり深部延長はリフト境界に近く、群発地震の原因となった流体は、リフト境界に沿って供給された可能性がある。