17:15 〜 18:45
[U15-P53] 2024年能登半島地震によるS波偏向異方性の変動
キーワード：S波偏向異方性、方位統計
2024/1/1に能登半島北部でMj7.6の大地震が発生し，大きな被害をもたらした．能登半島の北東部では，この地震の前の約3年以上にわたって群発地震が発生しており，この領域における地震活動度は依然として高いままである．これまで，深部流体の移行経路を推定する手法の開発を目的として，この群発地震を用いてS波スプリッティング解析により能登半島北東部におけるS波偏向異方性を調べてきた（Murakami, 2022; 2023）．2024/1/1のMj7.6の大地震により，S波偏向異方性が変化したのかどうかを調べるべく，能登半島内の常設地震観測点による地震波形を用いてS波スプリッティング解析を行った．
解析にあたっては，2004/4/1から2024/1/31までのおよそ20年間の，解析対象領域をカバーする領域内で発生した地震を用いた（気象庁一元化震源カタログによる）．S波スプリッティング解析を行うにあたって，S波ウィンドウ（e.g., Gao and Crampin, 2008）である入射角35˚未満の震源-観測点ペアを選ぶ必要がある．これは，入射する波のSP変換波などの反射フェーズを抑制するためである．入射角の計算には，Matsubara et al. (2019)の日本全国地震波速度構造モデルを各観測点直下の座標について補間することで，各観測点直下の1次元速度構造を構築し，この速度構造を用いて入射角を求めた．S波スプリッティング解析については，Silver and Chan (1990)の共分散行列法に基づいたSaiga et al. (2013)による半自動解析法を用い，共分散行列法を適用した後にさらに2つのS波の間の相関係数が0.90以上となる震源-観測点ペアの直達S波のみを用いた．入射角の制限のために，各観測点で利用可能な地震の数は異なるが，最も利用可能な地震の多かった観測点（N.SUZH）では，6569個の震源-観測点ペアについて，S波スプリッティングパラメータ（phiとdt）が推定された．
2024年能登半島地震（Mj7.6）の震源域直上に位置する観測点（N.WMZH, N.TGIH, N.SUZH）での速いS波の偏向方向は，北東–南西方向を向いていた一方，能登半島北東部のうち東部の位置する観測点（SUZU）では北西–南東方向であった．これらの速いS波の偏向方向を，2024/1/1のMj7.6の地震発生前後で比較すると，大半の観測点で速いS波の偏向方向に顕著な変化は見られなかった．しかし，Mj7.6の大地震発生前の群発地震の震源域直上に位置する観測点（N.SUZH）では，Mj7.6の地震発生前の速いS波の偏向方向は北東–南西方向であった一方，Mj7.6の地震後の速いS波の偏向方向は，東西方向が卓越しており，Mj7.6の地震による変動が見られた．この違いの原因は依然として明らかではない．しかしながら，速いS波の偏向方向の変化が見られた観測点の周辺では，大地震発生以前から地震活動が活発で，地殻流体の影響が指摘されていた（e.g., Nishimura et al., 2023; Kato et al., 2024）．このことから，Mj7.6発生以前では，速いS波の偏向方向に変化が見られた観測点の直下では，活断層の走向方向と平行な方向を向いたクラック内に地殻流体が豊富であったと考えられる．この断層と平行なクラック内の地殻流体が，本震や余震の活動により押し出され，様々な方向を向いたクラックに流体が貫入したことで，開口クラックの卓越方向が変化したのかもしれない．
謝辞: 本研究には，経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業（JPJ007597）（地質環境長期安定性総合評価技術開発）」の成果の一部を利用した．
解析にあたっては，2004/4/1から2024/1/31までのおよそ20年間の，解析対象領域をカバーする領域内で発生した地震を用いた（気象庁一元化震源カタログによる）．S波スプリッティング解析を行うにあたって，S波ウィンドウ（e.g., Gao and Crampin, 2008）である入射角35˚未満の震源-観測点ペアを選ぶ必要がある．これは，入射する波のSP変換波などの反射フェーズを抑制するためである．入射角の計算には，Matsubara et al. (2019)の日本全国地震波速度構造モデルを各観測点直下の座標について補間することで，各観測点直下の1次元速度構造を構築し，この速度構造を用いて入射角を求めた．S波スプリッティング解析については，Silver and Chan (1990)の共分散行列法に基づいたSaiga et al. (2013)による半自動解析法を用い，共分散行列法を適用した後にさらに2つのS波の間の相関係数が0.90以上となる震源-観測点ペアの直達S波のみを用いた．入射角の制限のために，各観測点で利用可能な地震の数は異なるが，最も利用可能な地震の多かった観測点（N.SUZH）では，6569個の震源-観測点ペアについて，S波スプリッティングパラメータ（phiとdt）が推定された．
2024年能登半島地震（Mj7.6）の震源域直上に位置する観測点（N.WMZH, N.TGIH, N.SUZH）での速いS波の偏向方向は，北東–南西方向を向いていた一方，能登半島北東部のうち東部の位置する観測点（SUZU）では北西–南東方向であった．これらの速いS波の偏向方向を，2024/1/1のMj7.6の地震発生前後で比較すると，大半の観測点で速いS波の偏向方向に顕著な変化は見られなかった．しかし，Mj7.6の大地震発生前の群発地震の震源域直上に位置する観測点（N.SUZH）では，Mj7.6の地震発生前の速いS波の偏向方向は北東–南西方向であった一方，Mj7.6の地震後の速いS波の偏向方向は，東西方向が卓越しており，Mj7.6の地震による変動が見られた．この違いの原因は依然として明らかではない．しかしながら，速いS波の偏向方向の変化が見られた観測点の周辺では，大地震発生以前から地震活動が活発で，地殻流体の影響が指摘されていた（e.g., Nishimura et al., 2023; Kato et al., 2024）．このことから，Mj7.6発生以前では，速いS波の偏向方向に変化が見られた観測点の直下では，活断層の走向方向と平行な方向を向いたクラック内に地殻流体が豊富であったと考えられる．この断層と平行なクラック内の地殻流体が，本震や余震の活動により押し出され，様々な方向を向いたクラックに流体が貫入したことで，開口クラックの卓越方向が変化したのかもしれない．
謝辞: 本研究には，経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業（JPJ007597）（地質環境長期安定性総合評価技術開発）」の成果の一部を利用した．