17:15 〜 18:45
[U15-P65] 稠密測地観測データにもとづく2024年能登半島地震におけるすべり分布とその断層幾何の関係
キーワード:2024年能登半島地震、GNSS、SAR、すべり分布推定、ベイズ逆解析、ハミルトニアンモンテカルロ
2024年1月1日能登半島地震は,北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型の地震であり,GEONETにより最大で水平・上下2 m 程度の大きな地殻変動が確認されている.震源近傍では2020年末頃より活発な群発地震活動が確認されており,その観測のためにGEONETおよびソフトバンク株式会社による携帯基地局のGNSS観測点に加えて,京都大学,金沢大学による臨時観測点でのデータが得られている.
本発表では震源近傍に展開されたそれら観測網によって取得された地表変位データから,同地震の静的すべり分布モデルを構築し議論を行う.推定にはマルコフ連鎖モンテカルロ法の1種であるHamiltonian Monte Carlo法を使用し,ラプラシアン平滑化の強度パラメータを同時に推定した.
まずDouble-difference法により再決定した余震の震源分布に合致するよう2枚の矩形断層を配置した.両者はそれぞれおよそ猿山沖・輪島沖セグメントおよび珠洲沖セグメントに対応する.同設定をもとに,両断層の傾斜角を20-70°で変えた複数の推定を並列して実施した.推定の際には,強震動の影響でピラーが傾斜した可能性やグリーン関数の不確定性を考慮に入れ,尤度関数の標準偏差を通常よりも大きく設定した.同解析の結果,いずれの傾斜角の場合でも4-7 m のすべりのピークを2ないし3個持つすべり分布が推定された.ピークのうち2つは南西側の断層に見られ,それぞれSAR解析等で示唆される珠洲市および輪島市の北側沿岸部での顕著な隆起に対応する.北東側の断層では2断層の接続部にすべりが推定された.また両断層が低角である場合のみ北東側に2-3 m の小さなすべりのピークが現れた.ただし,同領域は陸上観測網との位置関係に起因してすべり量の事後分布の信用区間が大きく (60%信用区間で5 m 以上),実際に同領域にまで破壊が進展したかどうか現状は判別が困難である.
特に南西側の断層の傾斜角の変化は,変位データの再現度に強く影響した.南西側断層を低角とした場合には近傍の水平変位をよく説明する一方,高角の場合には上下変位を再現し易い傾向が見られた.また高角(~50°)の場合には,より遠方の富山県や新潟県の観測点で見られる北西向き変位をわずかに過大評価した.これらの結果は同地震の震源断層が単純な幾何を持たず,より複雑な断層モデルの仮定 (例えば浅部ほど大きい傾斜角をもつリストリックなモデル) が必要であることを示唆している.加えて本発表では,特に半島北西部のデータ分解能向上のために,Pixel Offset法を適用することで取得したSARによる地表変位データも併用した推定も実施し,断層モデルに関してより詳細な議論を行う.
謝辞: 本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは,「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じて,ソフトバンク株式会社および ALES株式会社より提供を受けたものを使用しました. 本研究に使用したALOS-2データは,JAXAの無償公開データを利用しました.またALOS-2データの解析には,SAR研究グループPIXELを通じて得られた,小澤拓博士の開発したInSAR解析ソフトウェアRINCを使用しました.
本発表では震源近傍に展開されたそれら観測網によって取得された地表変位データから,同地震の静的すべり分布モデルを構築し議論を行う.推定にはマルコフ連鎖モンテカルロ法の1種であるHamiltonian Monte Carlo法を使用し,ラプラシアン平滑化の強度パラメータを同時に推定した.
まずDouble-difference法により再決定した余震の震源分布に合致するよう2枚の矩形断層を配置した.両者はそれぞれおよそ猿山沖・輪島沖セグメントおよび珠洲沖セグメントに対応する.同設定をもとに,両断層の傾斜角を20-70°で変えた複数の推定を並列して実施した.推定の際には,強震動の影響でピラーが傾斜した可能性やグリーン関数の不確定性を考慮に入れ,尤度関数の標準偏差を通常よりも大きく設定した.同解析の結果,いずれの傾斜角の場合でも4-7 m のすべりのピークを2ないし3個持つすべり分布が推定された.ピークのうち2つは南西側の断層に見られ,それぞれSAR解析等で示唆される珠洲市および輪島市の北側沿岸部での顕著な隆起に対応する.北東側の断層では2断層の接続部にすべりが推定された.また両断層が低角である場合のみ北東側に2-3 m の小さなすべりのピークが現れた.ただし,同領域は陸上観測網との位置関係に起因してすべり量の事後分布の信用区間が大きく (60%信用区間で5 m 以上),実際に同領域にまで破壊が進展したかどうか現状は判別が困難である.
特に南西側の断層の傾斜角の変化は,変位データの再現度に強く影響した.南西側断層を低角とした場合には近傍の水平変位をよく説明する一方,高角の場合には上下変位を再現し易い傾向が見られた.また高角(~50°)の場合には,より遠方の富山県や新潟県の観測点で見られる北西向き変位をわずかに過大評価した.これらの結果は同地震の震源断層が単純な幾何を持たず,より複雑な断層モデルの仮定 (例えば浅部ほど大きい傾斜角をもつリストリックなモデル) が必要であることを示唆している.加えて本発表では,特に半島北西部のデータ分解能向上のために,Pixel Offset法を適用することで取得したSARによる地表変位データも併用した推定も実施し,断層モデルに関してより詳細な議論を行う.
謝辞: 本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは,「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じて,ソフトバンク株式会社および ALES株式会社より提供を受けたものを使用しました. 本研究に使用したALOS-2データは,JAXAの無償公開データを利用しました.またALOS-2データの解析には,SAR研究グループPIXELを通じて得られた,小澤拓博士の開発したInSAR解析ソフトウェアRINCを使用しました.