17:15 〜 18:45
[U15-P89] 水中ドローン(ROV)を用いた2024年能登半島地震に伴う富山湾内の海底地すべり探査
キーワード:能登半島地震、富山湾、海底地すべり、水中ドローン(ROV)、滑落崖
2024年1月1日に能登半島で発生したマグニチュード7.6の地震による津波は,能登半島沿岸だけでなく,富山湾にも伝播した(地震調査研究推進本部,2024).この中で,富山湾奥の震源から南に90km離れた地点に位置する富山港における第一波は,地震発生後約3分で到達している(地震調査研究推進本部,2024).この到達時刻は震源域により近い七尾港よりも30分以上早く,本震を起こした断層運動による水位変化によるものとは考えにくい.富山港の津波到達が早かった原因として,近傍に津波波源が存在する可能性が指摘されている(地震調査研究推進本部,2024).
これを受け,海上保安庁は地震後の1月15日から17日にかけて,また2月27日から28日にかけて,測量船による海底地形調査を行い,神通川沖の海底谷斜面が広い範囲で崩壊していたことを報告した(海上保安庁,2024a,2024b).特に神通川沖約4kmの地点(水深260〜330m)では,長さ約500m,幅約80mの範囲が2010年時点と比べて40m程度深くなっていることが明らかになった(海上保安庁,2024a).しかし,比較対象が2010年の測量結果であることから,海底谷の崩壊と今回の地震との関連は不明であった.そこで本調査では,この崩壊跡を確認することを目的として,水中ドローンでの探査を行った.
探査に用いた水中ドローンは,FullDepth社のDiveUnit300である.この機体は水深300mまで潜行可能で,Full HD, 30fpsの動画が撮影でき,水深・水温・方位などの情報が記録される.さらにオプションとしてGoProが取り付けてあり,高画質(4K)な映像が記録できる.
調査の結果,水深約250mの西向きの斜面において,滑落崖および後背亀裂と考えられる崖や割れ目が確認され,その下方(水深約270m)では斜面構成層と思われる地層がブロック状・破片状に散らばる様子が観察された.このような様子は,川村ほか(2017)やBull et al. (2009)で述べられている,海底地すべりの特徴と一致する.「地層」のブロックは角ばっており,表面に海綿動物や刺胞動物,藻類などの固着性生物の生息は確認されないことから,ブロック化はごく最近に生じたものであることが伺えた.また多くの場合,地層の断面に観察される層が海底面に直接露出していることから,海底表面の堆積物は,存在したにしても,かなり薄いように思われる.さらに,「地層」のブロックが散在する場所では,地震前に行われた,調査地域近傍の富山湾の海底の水中ドローン調査(佐野ほか,2022)で多数観察された,クモヒトデや不正形ウニ類など,移動能力の低い底生生物は認められなかった.これらのことは,今回観察された海底地すべりと思われる崩壊が最近発生したことを示しており,2024年能登半島地震によるものであることが強く示唆される.
今回,水中ドローン探査で得られた映像から,堆積物の性状と底生生物相が確認され,海底地形の崩壊の種類とその新旧が識別できることが示された.水中ドローンは有人潜水調査船よりも短期間・低コストで運用でき,また,有人潜水調査船と同様に,海底の詳細な映像を記録できる.今後,測深機による海底地形探査と,水中ドローンによる,海底地形や堆積物の直接観察を組み合わせることで,従来は有人潜水調査船の利用によってでしか実現できなかった,海底における地形・地質・生物相の変化を,より手軽で,かつ詳細にとらえることが可能となり,海洋調査にブレイクスルーをもたらしうる研究手法としてさらなる発展が期待される.
これを受け,海上保安庁は地震後の1月15日から17日にかけて,また2月27日から28日にかけて,測量船による海底地形調査を行い,神通川沖の海底谷斜面が広い範囲で崩壊していたことを報告した(海上保安庁,2024a,2024b).特に神通川沖約4kmの地点(水深260〜330m)では,長さ約500m,幅約80mの範囲が2010年時点と比べて40m程度深くなっていることが明らかになった(海上保安庁,2024a).しかし,比較対象が2010年の測量結果であることから,海底谷の崩壊と今回の地震との関連は不明であった.そこで本調査では,この崩壊跡を確認することを目的として,水中ドローンでの探査を行った.
探査に用いた水中ドローンは,FullDepth社のDiveUnit300である.この機体は水深300mまで潜行可能で,Full HD, 30fpsの動画が撮影でき,水深・水温・方位などの情報が記録される.さらにオプションとしてGoProが取り付けてあり,高画質(4K)な映像が記録できる.
調査の結果,水深約250mの西向きの斜面において,滑落崖および後背亀裂と考えられる崖や割れ目が確認され,その下方(水深約270m)では斜面構成層と思われる地層がブロック状・破片状に散らばる様子が観察された.このような様子は,川村ほか(2017)やBull et al. (2009)で述べられている,海底地すべりの特徴と一致する.「地層」のブロックは角ばっており,表面に海綿動物や刺胞動物,藻類などの固着性生物の生息は確認されないことから,ブロック化はごく最近に生じたものであることが伺えた.また多くの場合,地層の断面に観察される層が海底面に直接露出していることから,海底表面の堆積物は,存在したにしても,かなり薄いように思われる.さらに,「地層」のブロックが散在する場所では,地震前に行われた,調査地域近傍の富山湾の海底の水中ドローン調査(佐野ほか,2022)で多数観察された,クモヒトデや不正形ウニ類など,移動能力の低い底生生物は認められなかった.これらのことは,今回観察された海底地すべりと思われる崩壊が最近発生したことを示しており,2024年能登半島地震によるものであることが強く示唆される.
今回,水中ドローン探査で得られた映像から,堆積物の性状と底生生物相が確認され,海底地形の崩壊の種類とその新旧が識別できることが示された.水中ドローンは有人潜水調査船よりも短期間・低コストで運用でき,また,有人潜水調査船と同様に,海底の詳細な映像を記録できる.今後,測深機による海底地形探査と,水中ドローンによる,海底地形や堆積物の直接観察を組み合わせることで,従来は有人潜水調査船の利用によってでしか実現できなかった,海底における地形・地質・生物相の変化を,より手軽で,かつ詳細にとらえることが可能となり,海洋調査にブレイクスルーをもたらしうる研究手法としてさらなる発展が期待される.