日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

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[U-15] 2024年能登半島地震(1:J)

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

17:15 〜 18:45

[U15-P91] 低価格モバイルLiDARとCLAS-GNSSを用いた令和6年能登半島地震に伴う地形変化の調査

*岩佐 佳哉1濱 侃2、杉田 暁3Luca Malatesta4石村 大輔5中田 高6 (1.大分大学、2.千葉大学、3.中部大学、4.GFZ German Research Center for Geosciences、5.東京都立大学、6.広島大学・名誉)

キーワード:令和6年能登半島地震、モバイルLiDAR、CLAS-GNSS、海岸隆起、地表変位

1.はじめに
地形変化に起因する災害が発生すると,その原因を解明するために地形変化の特徴が速やかに調査される。現地調査では簡易な計測機器(巻き尺・箱尺・ハンディーGNSSなど)を用いた踏査により,分布や変位量などが記録される。また,ドローンを用いたUAV-SfMやUAV-LiDARによって,面的な地形変化が捉えられている(内山ほか,2014岩佐ほか,2020など)。しかし,ドローンに関わる規制や災害発生時の空域制限など,ドローンを用いた地形計測には障壁が多い。近年,十数万円で購入できる安価で軽量なハンドヘルド型モバイルLiDARが登場し,広範囲の地形計測に適用できるようになった(岩佐ほか,2022)。また,数万円で購入できる安価かつ単独でセンチメートルオーダーの測位が可能なCLAS対応GNSS受信機が普及し,より簡便に高精度なGNSS測量(以下,CLAS-GNSS測量という)ができるようになった(Namie and Kubo, 2021)。これらの機器を活用することで,災害時に高精度な面的データを効率的に取得することができると考えられる。
2024年1月1日16時10分,石川県能登地方においてマグニチュード7.6の地震が発生し,気象庁によって令和6年能登半島地震と命名された(気象庁,2024)。令和6年能登半島地震では能登半島北岸を中心とした顕著な海岸隆起や内陸部における地表変位など,各地で地形変化が生じた(吉田,2024;Fukushima et al., 2024)。海岸隆起については生物指標と現在の平均潮位に基づいて隆起量が測定されているが,生物指標と平均潮位はそれぞれ多少の幅を持ちうる。また,地表変位については簡易な計測機器を用いた現地測量や空中写真を用いたSfM-MVSによるDSM生成と差分解析が行われているが,前者は広範囲における変位の特徴を捉えることが難しく,後者は林地の下の変位量を捉えることが難しい。
本発表では,モバイルLiDARやCLAS-GNSS測量を用いた計測に基づいて,海岸隆起や地表変位の特徴について報告する。

2.調査方法
能登半島北岸で生じた海岸隆起量を計測するため,複数のモジュール(ジオセンス社製M5F9P,M5D9C,M5Stack社製Basic)を組み合わせたCLAS-GNSS受信機を用いて9地点でCLAS-GNSS測量を行った。得られた標高値と地震前の標高データを差分解析することで海岸隆起量を求めた。差分解析に使用した標高データは,2020年および2022年に取得され,石川県が公開した1 m間隔の数値標高モデル(1 m DEM )である。
珠洲市若山川沿いに生じた地表変位を計測するため,SLAM技術(自己位置の推定と地図作成を同時に行う技術)を用いたモバイルLiDAR(Livox社製Avia)を用いて点群データを取得した。また,取得した点群データに地理情報を与えるため,GCP用のマーカーを地表に設置して,CLAS-GNSS測量によってマーカーの位置を求めた。取得した点群データから地表面のデータを抽出し,10 cm間隔のDEMを生成した。DEMを生成した範囲は60,635 m2の範囲である。データを取得する際には,5枚程度の水田ごとにデータの取得とGCPの設置を行なった。モバイルLiDARを用いて生成したDEMと1 m DEMを差分解析することで,地震時の地表変位量を求めた。

3.能登半島北岸における海岸隆起量
CLAS-GNSS測量と1 m DEMとの差分解析の結果,隆起量は能登半島北西岸で最も大きく,皆月漁港および五十洲漁港で3.9 m,鹿磯漁港で3.8 mであった。北岸では,西から上大沢漁港で2.6 m,白米千枚田で1.2 m,大谷漁港で2 m,大谷東漁港で1.7 m,高屋漁港で1.6 mであった。西岸では笹波漁港で0.5 mであった。これらの値と現地における生物指標による計測値との差は最大で約0.4 m,平均で約0.2 mと,実測における海面の決定誤差(波の影響),生物指標の不確実さ(生息深度幅),日本海側の潮位差を考慮すると整合的である。

4.珠洲市若山川沿いの地表変位
約700 mにわたって連続する北落ちの崖が認められた。崖の走向は西側で北東-南西であるが,東側では東南東-西北西に変化する。変位量は西側で約1.9 mと最も大きく,東ほど小さい。一部では崖の南側(隆起側)に0.2–0.4 mの北落ち低崖と約1.8 mの変位量で南側に撓み下がる変形が認められた。これらは逆断層性の短縮変位に伴う副次的な変形と解釈できる。ただし,若山川に沿って出現した地表変位は変位量に対して分布域が限られることから,活断層が地表に出現した地表地震断層とは考えにくく,Fukushima et al. (2024) が指摘するように大規模な斜面変動の末端部が崖として生じたものと考えられる。

謝辞:本研究の一部は科学研究費基金研究活動スタート支援「モバイルLiDARを用いた突発的地形災害への革新的な調査手法の開発」(課題番号:23K18735,研究代表者:岩佐佳哉)および中部大学問題複合体を対象とするデジタルアース共同利用・共同研究(IDEAS202307)の助成により実施した.
文献:内山ほか(2014)防災科学技術研究所研究報告,81,37–60.岩佐ほか(2020)活断層研究,52,1–8.岩佐ほか(2022)活断層研究,57,1–13.Namie and Kubo (2021) IEEJ Journal of Industry Applications, 10, 27–35. 気象庁(2024)https://www.jma.go.jp/jma/press/2401/01b/kaisetsu202401011810_2.pdf.吉田(2024)2024年日本地理学会春季学術大会.Fukushima et al. (2024) JpGU2024, STT35-P02.