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[U15-P93] 令和６年能登半島地震に伴い珠洲市若山川沿いとその西延長部に現れた地表変状の調査結果
キーワード：令和６年能登半島地震、若山川、地表変状、地形計測
令和６年１月１日マグニチュード（M）7.6の地震が石川県能登地方の深さ約15 kmで発生した．合成開口レーダー画像の解析によると，地震に伴う隆起量は輪島市西部で最大4 m程度，珠洲市北部で最大2 m程度が検出された（国土地理院，2024）．地震に伴い能登半島内陸部に生じた地表変状について確認するため，国土地理院が公開した１月２日に撮影された珠洲地区の垂直画像および正射画像を使用し，写真判読を行ったところ，珠洲市若山川沿いに明瞭な崖地形が連続的に表れていることを確認した．その崖地形について１月27日に現地調査を実施した結果，若山川沿いの東西約2 kmにわたって，最大上下変位量約2 m，左横ずれ変位量約1.2 mを示す地表変状が認められた（白濱ほか，2024）．同変状について国土地理院は空中写真から作成した数値表層モデル（DSM）と地震前のDSMを比較し，延武地区から上黒丸地区にかけての若山川沿いの谷底平野沿いに，線状の地表変状と幅100－200 mの隆起帯が出現していることを報告している（吉田，2024）．本地表変状はさらに東西に延長する可能性があること，１月27日時点では積雪のために地表面の詳細な観察が難しかったことから，２月から３月末にかけて３回の現地調査を実施した．現地調査では地表変状沿いを踏査し，変状の分布，変位の状態を観察するとともに，撓曲変形を含む変位量を把握するための地形断面測量を30地点で実施した．
地表変状は若山川沿いに発達する河成段丘面および現河床を横断して断続的に分布しており，田畑や道路の破断，波状変形が生じていた．若山川沿いで変状が連続する地点は，東から若山町火宮（ひみや）～延武（のぶたけ）（長さ約1.3 km，ENE－WSW走向），若山町中（なか）（長さ約2 km，ENE－WSW走向），若山町宗末（むねすえ）（長さ約0.8 km，NE－SW走向）,若山町上山（かみやま）（長さ約0.3 km，ENE－WSW走向）である．延武地点と中地点の間で約1 km，宗末地点と上山地点の間で約1.3 kmの間隙はあるものの，火宮地点から若山町上山地点までの直線距離は約6.8 kmにわたる．
火宮～延武地点では4～5条のENE－WSW走向を示す北上がりの崖と南上がりの撓曲崖が並走して認められた．北上がりの崖は北傾動を伴っており，南上がりの撓曲崖の落差約55 cmを合わせると北上がりの落差はほぼ解消されている可能性がある．中地点では最大で約240 cmの落差を示す南上がりの崖が連続して認められた．最大の落差を示した地点における地形断面測量によると，隆起側は南への傾動を示しており，幅約100 mの範囲で落差が解消されている様子が認められた．地表変状は擁壁や道路において多数のバックリングが生じていることから，短縮変形によって生じたと考えられる．宗末地点では，北側では落差1 m以上の北上がりの崖が認められ，南側では河川に沿った背斜状の変形が認められた．地表変状沿いでは，地溝状の変形を示す箇所も認められるが，崖はすべて隆起側が低下側にのし上がるような変形を示しており，逆断層性の変位によって形成されたと推定される．また，延武地点や中地点で生じた地表変状は既存の崖に沿って出現し，落差を成長させるような変状を示していることから，過去に繰り返し活動していた可能性がある．
若山川沿いからさらに西側の延長を確認するため，写真判読および踏査を実施した結果，上山地点から約10 km西方の輪島市里町において南西上がりの崖地形（長さ約0.4 km，NW－SE走向）が認められた．走向が異なっていることと若山川沿いの変状から離れていることから，一連の構造であるとは断言できないものの，変位形状が類似することに加え，若山川沿いを含め，すべての地点が珪質シルト岩分布域かつ若山川向斜沿いに位置することから（吉川ほか，2002），同一の成因によって形成された可能性がある．
調査は現在（2024年４月）も継続しており，発表時には最新の調査結果も含めて報告する予定である．
参考文献
国土地理院（2024）「「だいち２号」観測データの解析による令和６年能登半島地震に伴う地殻変動（2024年1月19日更新）」，https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto_insar.html（2024年4月9日閲覧）
吉田一希（2024）「石川県珠洲市若山町に出現した上下変位を伴う線状の地表変状（速報）」，https://www.gsi.go.jp/common/000254854.pdf（2024年4月9日閲覧）
白濱吉起・石山達也・立石 良・安江健一（2024）「令和６年能登半島地震（M7.6）に伴い若山川沿いに生じた地表地震断層【速報】」，https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/news/20465/（2024年4月9日閲覧）
吉川敏之・鹿野和彦・柳沢幸夫・駒澤正夫・上嶋正人・木川栄一（2002）「珠洲岬，能登飯田及び宝立山地域の地質」，地域地質研究報告（5万分の1地質図幅），産総研地質調査総合センター，76 p．
地表変状は若山川沿いに発達する河成段丘面および現河床を横断して断続的に分布しており，田畑や道路の破断，波状変形が生じていた．若山川沿いで変状が連続する地点は，東から若山町火宮（ひみや）～延武（のぶたけ）（長さ約1.3 km，ENE－WSW走向），若山町中（なか）（長さ約2 km，ENE－WSW走向），若山町宗末（むねすえ）（長さ約0.8 km，NE－SW走向）,若山町上山（かみやま）（長さ約0.3 km，ENE－WSW走向）である．延武地点と中地点の間で約1 km，宗末地点と上山地点の間で約1.3 kmの間隙はあるものの，火宮地点から若山町上山地点までの直線距離は約6.8 kmにわたる．
火宮～延武地点では4～5条のENE－WSW走向を示す北上がりの崖と南上がりの撓曲崖が並走して認められた．北上がりの崖は北傾動を伴っており，南上がりの撓曲崖の落差約55 cmを合わせると北上がりの落差はほぼ解消されている可能性がある．中地点では最大で約240 cmの落差を示す南上がりの崖が連続して認められた．最大の落差を示した地点における地形断面測量によると，隆起側は南への傾動を示しており，幅約100 mの範囲で落差が解消されている様子が認められた．地表変状は擁壁や道路において多数のバックリングが生じていることから，短縮変形によって生じたと考えられる．宗末地点では，北側では落差1 m以上の北上がりの崖が認められ，南側では河川に沿った背斜状の変形が認められた．地表変状沿いでは，地溝状の変形を示す箇所も認められるが，崖はすべて隆起側が低下側にのし上がるような変形を示しており，逆断層性の変位によって形成されたと推定される．また，延武地点や中地点で生じた地表変状は既存の崖に沿って出現し，落差を成長させるような変状を示していることから，過去に繰り返し活動していた可能性がある．
若山川沿いからさらに西側の延長を確認するため，写真判読および踏査を実施した結果，上山地点から約10 km西方の輪島市里町において南西上がりの崖地形（長さ約0.4 km，NW－SE走向）が認められた．走向が異なっていることと若山川沿いの変状から離れていることから，一連の構造であるとは断言できないものの，変位形状が類似することに加え，若山川沿いを含め，すべての地点が珪質シルト岩分布域かつ若山川向斜沿いに位置することから（吉川ほか，2002），同一の成因によって形成された可能性がある．
調査は現在（2024年４月）も継続しており，発表時には最新の調査結果も含めて報告する予定である．
参考文献
国土地理院（2024）「「だいち２号」観測データの解析による令和６年能登半島地震に伴う地殻変動（2024年1月19日更新）」，https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto_insar.html（2024年4月9日閲覧）
吉田一希（2024）「石川県珠洲市若山町に出現した上下変位を伴う線状の地表変状（速報）」，https://www.gsi.go.jp/common/000254854.pdf（2024年4月9日閲覧）
白濱吉起・石山達也・立石 良・安江健一（2024）「令和６年能登半島地震（M7.6）に伴い若山川沿いに生じた地表地震断層【速報】」，https://www.eri.u-tokyo.ac.jp/news/20465/（2024年4月9日閲覧）
吉川敏之・鹿野和彦・柳沢幸夫・駒澤正夫・上嶋正人・木川栄一（2002）「珠洲岬，能登飯田及び宝立山地域の地質」，地域地質研究報告（5万分の1地質図幅），産総研地質調査総合センター，76 p．