日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS01] 気象の予測可能性から制御可能性へ

2025年5月30日(金) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (4) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:三好 建正(理化学研究所)、Nakazawa Tetsuo(AORI, The University of Tokyo)、高玉 孝平(科学技術振興機構)、座長:三好 建正(理化学研究所)、Tetsuo Nakazawa(AORI, The University of Tokyo)

16:30 〜 16:45

[AAS01-11] 台風制御技術に対する市民の認識の変容:情報提供と哲学対話がもたらす効果の検討

*蘇 雨青1松山 桃世1 (1.東京大学)

キーワード:台風制御、ELSI、哲学対話、リスク認知

背景
 1960年代から1970年代にかけて日本では、人工降雨や雹の除去技術の研究が行われ、ヨウ化銀の散布による気象制御の実験も実施された。しかし、否定的な報道等の理由により、これらの研究活動は大幅に失速した。しかし、事故への懸念等から、これらの技術開発は長期間中断されていた(Abe, Fudeyasu, & Sasaoka, 2025)。
 近年、地球温暖化の進行等による台風の激甚化に伴い、台風を制御する重要性が再評価されている。2022年には、気象制御技術の開発を主題とするムーンショット目標8プログラムが開始した。技術開発は再開されたものの、社会的側面の研究は進んでいない。台風制御技術の社会実装には、技術的実現可能性だけでなく、ELSI(Ethical, Legal, and Social Issues)への対応が不可欠である。特に、影響を受ける市民自身のELSIに対する認識や態度を明らかにすることが重要であるが、これまでに十分には検討されていない。
 そこで、本研究では、台風制御に関する情報提供と哲学対話形式での対話を行い、市民の認識や態度に与える影響を検討した。
方法
 参加者 山梨県内で実施したワークショップに参加した女子高校生70名のうち、研究の趣旨を理解し、参加に同意し、事前・途中・事後におけるすべての調査に回答した55名を対象とした(回収率78.57%)。
 調査項目 台風に対する危機感1項目と、台風制御技術に対する調整態度、知識、信頼感の3項目、計4項目を作成した。それぞれの項目について、5段階で評価した。
 手続き 本研究ではGoogleフォームを使用してオンライン調査を実施した。2025年1月14日に、ワークショップ参加予定者に対し、事前質問紙調査を実施した。2025年1月21日に、ワークショップを実施した。まず、台風制御技術に関する15分程度の情報提供を実施し、その後、各調査項目に対する変化を測定するための途中調査質問紙に回答を求めた。その後、グループに分かれて約60分の対話を行った。対話では、台風制御技術に関する様々な観点からの議論が展開された。対話終了後、途中調査と同様に事後質問紙調査を実施した。
結果
 時間(事前・途中・事後)における1要因分散分析を行った。まず、危機感については、時間の主効果は有意ではなかった(F(1, 54) = 2.55, p < .10)。調整態度に対しては、時間の主効果は有意であった(F(1, 54) = 21.11, p < .01)。分析結果から、事後は途中と事前と比較して、調整態度がよりネガティブな傾向性を示した。また、知識に対しては、時間の主効果が有意であった(F(1, 54) = 53.04, p < .01)。多重比較の結果、事前、途中、事後の順に、知識の自己評価が高くなった。最後に、信頼感に対しても時間別に分散分析を行った結果、時間の主効果が有意ではなかった(F(1, 54) = 2.60, p < .10)。
考察
 本研究の結果から、情報提供と対話が本技術に対する認識に与える影響について、以下の4つの知見が得られた。
 第一に、危機感については時間による有意な変化が見られなかった。これは、参加者が元々台風に対して一定レベルの危機意識を持っており、情報提供の中で触れた将来の台風激甚化の予測や他の参加者の台風体験談が、危機意識にほとんど影響を与えなかったことを示唆している。この結果は、台風被害の経験や報道が、すでに強い危機意識を形成している可能性を示している。
 第二に、調整態度が事後においてよりネガティブな傾向を示した。この変化は、対話を通じてメリットだけでなく、環境に及ぼす悪影響や責任帰属などのELSI問題点も共有された結果と解釈できる。この結果は、技術に対する市民の態度形成において、技術的な説明だけでなく、対話を通じた多角的な検討が重要な役割を果たすことを示唆している。
 第三に、知識の自己評価は、事前、途中、事後の順に高くなることが明らかとなった。この結果は、情報提示と対話という介入が知識の自己評価を向上させたことを示唆している。特に、事前から途中の上昇幅が大きく、技術的知識の伝達が初期認知プロセスの形成に重要である可能性が示された。一方、途中から事後の効果は、対話による知識の共有と再構成を促進したと解釈できる。
 第四に、信頼感に有意な変化が見られなかった。これは、技術への信頼が短期的な情報提供や対話だけでは容易に変化しない可能性を示している。
 これらの結果は、台風制御技術に対する市民の認識が、単純な知識提供だけでなく、対話を通じた認知プロセスによって形成されることを示唆している。特に、知識の増加が必ずしも技術への肯定的態度につながるわけではなく、より慎重な態度の形成を促す可能性が示された。今後の研究課題として、より長期的な認識の変化を追跡する縦断調査や異なる属性を持つ参加者群での検討を行い、結果の一般化可能性を検討する必要がある。