日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS10] 気象学一般

2025年5月26日(月) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (4) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:清水 慎吾(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、久保田 尚之(北海道大学)、杉本 志織(海洋研究開発機構)、那須野 智江(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:杉本 志織(海洋研究開発機構)、清水 慎吾(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、久保田 尚之(北海道大学)、那須野 智江(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

09:30 〜 09:45

[AAS10-03] ALOS-2/PALSAR-2のFull-Polarimetryによる海上豪雨の高空間分解能観測

★招待講演

*安藤 愛1古屋 正人1 (1.北海道大学)

キーワード:多偏波、Lバンド、海上の降水観測、高空間分解能

従来の降雨レーダーは雨滴によるマイクロ波の散乱過程そのものを測定しており,国内の陸域と周辺海域では気象庁のレーダーが中心的な役割を担う.一方全球規模の海域の観測では,熱帯降雨観測衛星TRMMを契機に現在は全球降水観測計画GPMとして複数の衛星データによるグローバルな雨の観測が進んでいるが,それでも海上の降水観測はまだ不十分である(e.g., Sun et al. 2017). 本研究は,既存の降水観測専用レーダーとは全く異なるL-band合成開口レーダー(SAR)によって,従来の降雨レーダーでは不可能な高空間分解能で海域の豪雨をマッピングできる複数の事例を示す.先行研究のMelsheimer et al(1998)はShuttle Imaging Radarによる複数周波数(L, C, X - band)かつ複数偏波を用いた海域の降雨域の実験的観測データを元に,海域の降水セルに対してL, C, X - bandの各偏波に対する散乱強度画像とL, C-bandのHH-VVの位相差を比較した.L-band SARでは降水粒子による体積散乱と減衰はほぼ無視できるため,降雨の有無によらず基本的に海水面の凸凹を見ることになる.降水強度が高いほど海水面の凸凹は平坦化するという理論的研究(Manton, 1973; Le Mehaute and Khangaonkar, 1990)を裏付けるように,Melsheimer et al(1998)はLバンドでは散乱強度が低下することを示した.しかしそれ以来,L-band SARの複数偏波で海上豪雨を追認する研究はなく,偏波情報も活用されていない. 我々の用いるL-band SARデータは,JAXAが2014年に打上げたALOS-2(だいち2号)に搭載されたPALSAR-2によるフルポラリメトリ(HH, VV, HV, VHの4偏波;以下FPと略す)データであり6 m以下の高空間分解能をもつ.解析に用いるPALSAR-2データはJAXA地球観測衛星データ提供システム「G-Portal」で検索した.比較のために気象庁が作成する全国合成レーダーエコー強度GPV(250m分解能)も用いる.Melsheimer et al(1998)は強度画像と位相差プロファイルを示したが, 本研究では強度画像の他に, 位相の干渉性の程度を画像に反映するCoherence画像を用いる. 一例として, 2017年8月18日14:44 UTCの愛知県沖での海上豪雨時の結果について述べる. HH偏波, VV偏波の強度画像とHH-VVのCoherence画像を組み合わせると, 降水強度の違いが反映されていると考えられるレーダーシグネチャーが検出できた. Coherence画像については, およそ18 m四方で平均した場合(3 × 3ピクセルでの平均)は強度画像よりも明確に強い降水領域を捉えていると示唆される. 海は基本的に強度が弱いので, 強度画像のみからは降水による強度の弱化が読み取りにくい事例があるが, Coherence画像を共に用いることで, 降水によるレーダーシグネチャーを明確に検出できる可能性がある. L-band SARデータで散乱強度が弱い箇所およびCoherenceが低い箇所が必ずしも降水領域を示すわけではない事例(False Positive)があることや, 台風のような強風時は海水面において風による凹凸の効果が大きいことにより, L-バンドFPデータが海域の降水検出に万能というわけではない.しかし,ある程度風速が弱ければ降水域を10 m以下の空間分解能で捉えられる可能性がある. 定量的な降水強度分布を推定することおよび深層学習の活用が今後の課題である.