日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS11] 大気化学

2025年5月26日(月) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (5) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:江波 進一(国立大学法人筑波大学)、入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、座長:松井 仁志(名古屋大学大学院環境学研究科)

09:00 〜 09:15

[AAS11-07] ベトナム北部における対流圏オゾン濃度増加要因とイネ収量減少の推定

Luong Huu Dung1、*北 和之1,2、Do Duy Tung1,2、小寺 明彦3,2 (1.茨城大学理学部、2.日越大学気候変動開発プログラム、3.茨城大学地球·地域環境共創機構)

キーワード:対流圏オゾン、イネ減収、ベトナム

対流圏オゾンは、量が少ないが、第三の温室効果ガスとして地球温暖化と気候変動に寄与しており、。また酸化力をもち直接地表の生物に接触するため、農作物、森林の生育や人体の健康に大きく影響を及ぼす。
2019∼2020年の期間に、茨城大学-日越大学のグループがベトナム北部のハノイにて対流圏オゾン(以降、オゾンと記す)の観測を行った結果、この地域でしばしばオゾン濃度が高くなることが分かった。ベトナムは世界第3位のコメ輸出国であり、北部での生産はベトナム全体の29.4%(2022年)を占めているが、この地域のコメ生産へのオゾンの影響についてまだ研究は行われていない。本研究では、観測とモデルデータに基づき、対流圏オゾンの季節的な増加の要因を明らかにし、それがベトナム北部のコメ生産に与える影響について定量的に評価することを目的とした。
 直接観測は2018年12月から開始され、ハノイ市街地西部の日越大学ミーディンキャンパス5階で、紫外吸光法(Dylec Model1100)により、黒色炭素エアロゾルおよびPM2.5観測とともに実施された。ただしCOVID-19などのためしばしば中断している。さらにベトナム北部の地域全体のオゾン濃度やオゾンの輸送について検討するため、NASAのGoddard Earth Observing System Composition Forecasts (GEOS-CF)モデルで計算された地表オゾン濃度・オゾン前駆気体分布も用いる。モデルデータを直接観測データと比較したところ、ハノイ市街地で局所的にNOx濃度が高いためと思われる直接観測の昼極大値が系統的に高く、夜間は系統的に低いという違いを除くとおおむねよく一致した。
 直接観測により、春や秋にオゾンの季節的増加が見られることが示された。これらの季節で、モデルで計算されたオゾン濃度およびオゾン前駆気体濃度の分布および風向風速の分布を調べた。結果、ベトナム北部においてハノイのあるホン河(紅河)デルタを中心にオゾンおよびオゾン前駆気体濃度が高く、基本的に地域的に光化学生成によりオゾンが増加していることがわかった。但し、春季前半には冬の北東モンスーンによる中国起源のオゾンがホン河デルタより北側に、また春季後半には夏の南西モンスーンによってタイおよびラオス山地からバイオマス燃焼起源のオゾンがホン河デルタより南側に輸送される影響もみられた。
 オゾンの農作物への影響評価において、AOT40値とM7値という2つのオゾン曝露指標とそれらを用いてイネ減収を推定する8研究の結果の推定式を用いた。イネ減収量は、イネの品種や土壌などの栽培条件によって変化するため、8推定式の結果はかなりばらつくが、ベトナム北部での品種のオゾン感受性や栽培条件がどれに近いかわからないため、本研究では8個の式で求められた減収率を平均した愛あと使用した。ベトナム北部では、主に冬春作(移植:12月~2月、収穫:4月~6月)とモンスーン作(移植:7月~9月、収穫:10月~12月)の2期作でイネを栽培している。各栽培作でMODIS衛星観測データを基に算出した植生指数から、Kotera et al.(2015)の手法を用いて栽培地点(水田)を特定し、各栽培地点でのイネ出穂日をそこでの植生指数が最大となる日として推定し、そこから栽培期間も推定した。冬春作とモンスーン作について、それぞれ各栽培地点における栽培期間中のAOT40値とM7値をモデルデータから求め、8推定式の平均値としてイネ減収率の推定を行った。
 全体的に冬春作期よりモンスーン作期で曝露指標が高い値になった。冬春作期では南東側に比べ西北側で高い傾向があり、北東モンスーンが卓越する冬から春前半において、北からの汚染空気の輸送および南側の東海上の比較的清浄な空気の流入の影響によると考えられる。モンスーン作期では、秋季の地域的なオゾン増加の影響で、ホン河デルタ、特にハノイがあるその中央部に近づくにつれて暴露指標が高くなる傾向があった。対象地域にある28省の収量減少率の平均値と標準偏差は、2019年のモンスーン作では16.2±3.0%、冬春作では11.8±2.1%となり、オゾンによる影響が無視できないことを示している。この各省における平均収量減少率とその省でのコメ生産量の積が、実際のコメ減収量となる。コメ生産量が多いホン河デルタおよびその南側でのオゾン暴露量が大きいモンスーン作で特に影響が大きいことがわかった。
さらに、森川他(1980)では、イネが実る期間である登熟期が、成長期の分げつ期および節間伸長期よりオゾンの影響を大きく受けることが示されており、この結果に基づいて、生育期によるオゾン影響の違いを取り入れた評価も行った。生育期間を考慮しない場合とは逆に、オゾンが登熟期に増加する冬春作の減収率は、オゾンが登熟期に減少するモンスーン作よりむしろやや高くなった。