日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS11] 大気化学

2025年5月26日(月) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (5) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:江波 進一(国立大学法人筑波大学)、入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、石戸谷 重之(産業技術総合研究所)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、座長:入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)

11:30 〜 11:45

[AAS11-15] 衛星画像を用いた森林火災によるSO2分布の時空間解析

*大島 七海1徳植 啓康2、吉川 絹佳2,3橋本 朝陽2柴田 眞子2,4川俣 大志2,5成瀬 延康6高橋 幸弘2,7 (1.市立札幌開成中等教育学校、2.NPO法人 スーパーサイエンティストプログラムプラス、3.九州大学 大学院工学府、4.エジンバラ大学、5.北海道大学 数理データサイエンス教育研究センター、6.滋賀医科大学 医学部医学科、7.北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)


キーワード:森林火災、二酸化硫黄、衛星リモートセンシング

森林火災の燃焼面積は2001年から2019年にかけて年間5.4%のペースで増加している。この拡大に伴い、大気への影響も深刻化している。森林火災は、PM2.5のような健康被害を引き起こす物質に加え、NOxやSOxなどの周囲の環境に悪影響を及ぼす有害物質を排出し、大気汚染をさらに悪化させる。特に、大気中に残留したSO2は酸性雨の原因となるとされる。また、森林火災ではNO2と同程度の量が排出されると推定されている。しかしながら、他の排出ガスの吸収スペクトルと重なることも相まって、NO2などに比べて森林火災後のSO2の濃度分布に関する研究は限られている。
過去には、アメリカ・カンザス州において、航空機に搭載したレーザーを用いて森林火災時のSO2濃度が推定された。しかし、この方法では飛行経路上のSO2濃度しか計測できず、森林火災全体におけるSO2の分布は依然として不明である。2022年には、TROPOMI衛星の画像を用いた研究により、トルコで発生した森林火災時の大気中のSO2濃度分布が推定された。この研究は、特定の地点や時期におけるSO2濃度を捉えた数少ない事例の一つである。しかし、森林火災発生前から存在していたSO2の影響を分離できておらず、火災によって新たに排出されたSO2の分布を直接的に評価しているわけではない。このように、森林火災に伴うSO2排出量だけでなく、その時系列変化や、気象条件・森林植生の違いによるSO2濃度分布の変動については、依然として十分な解明がなされていないのが現状である。
本研究では、大気中のSO2濃度を算出する手法として、Sentinel-5PのSO2 L2プロダクトに注目した。本プロダクトは、Differential Optical Absorption Spectroscopy法(SO2の特徴的な吸収スペクトルを解析することで濃度を推定する)を採用しており、複数のSO2吸収ピークを考慮した最適化フィッティングを行うため、従来のシングルバンド解析と比較して精度が高いことが知られている。一方で、単独の衛星画像では、森林火災発生前に既に存在していたSO2分布を分離することができないという課題がある。そこで本研究では、通常時のSO2分布と森林火災発生時のSO2分布の差を算出することで、森林火災によって排出されたSO2量の濃度マッピングおよびその時系列変化の解明を目的とした。
本解析では、Valparaíso州付近における2024年の森林火災発生日と、2020~2025年の森林火災が報告されていない日に撮影されたSentinel-5Pの衛星画像(計7枚)を用いてSO2濃度マッピングを行った。SO2濃度の算出には、Sentinel-5PのBand 3(310–405 nm)を基に生成されたCopernicus Sentinel-5PデータプロダクトのSentinel-5 Precursor Level 2 Sulphur Dioxideを使用した。解析対象としたのは、ホットスポット周辺の68km×17kmの範囲である。まず、森林火災が報告されていない複数の画像からピクセルごとの平均SO2濃度を算出し、これを基準値(通常時の濃度)とした。その後、森林火災発生時のSO2濃度との差を求めることで、火災によって排出されたSO2の分布を推定した。
解析の結果、通常時と比較してSO2濃度が0.002 mol/m²以上高い高濃度エリアが、北から南にかけて約50kmにわたって広がっていることが確認された。また、一部のSO2は発火地点から約35km北へ移動していることも明らかになった。さらに、火災発生後の3日間のデータを比較することで、SO2の濃度分布の時系列変化も解析した。加えて、別地域で発生した森林火災のSO2濃度分布とその時系列変化についても画像化・解析を行い、エアロゾルの影響などの要因について検討した。この結果をもとに、将来的な大気汚染や酸性雨のリスク評価についても議論を行った。
本研究の一部は、公益財団法人電気通信普及財団による「ICTとハンズオンを併用したSDGs課題解決能力を有する人材育成法の開発(滋賀医科大学、2024年度)」の助成および、NPO法人スーパーサイエンティストプログラムプラスによる支援を受けた。