日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC32] 雪氷学

2025年5月28日(水) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (4) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)、谷川 朋範(気象庁気象研究所)、渡邊 達也(北見工業大学)、波多 俊太郎(国立極地研究所先端研究推進系地圏研究グループ)、座長:大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)

14:00 〜 14:15

[ACC32-02] アラスカ,グルカナ氷河上に発生する赤雪中の雪氷藻類群集の時間変化

*薄羽 珠ノ介1村上 匠2大沼 友貴彦3小林 綺乃1阿部 稜平1赤林 哲也1竹間 遼太郎1竹内 望4 (1.千葉大学大学院 融合理工学府、2.東京科学大学 生命理工学院、3.宇宙航空研究開発機構(JAXA)地球観測研究センター、4.千葉大学大学院 理学研究院)


キーワード:雪氷藻類、赤雪

雪氷藻類は,氷河や積雪表面などの低温環境で繁殖する光合成微生物である.特に氷河や高山域では,雪氷藻類の大繁殖によって積雪が赤く着色される赤雪現象が見られる.これは,雪氷藻類が強い日射から細胞を守るため,赤色のアスタキサンチンという色素を生成し,細胞内に蓄積するためである.赤雪を発生させる代表的な藻類は,Sanguina属であり,世界各地の氷河で報告されている.近年,Sanguina属に加えて,Chlainomonas属,Rosseta属の藻類も赤雪を発生させることが明らかになってきた.しかしながら,これら複数の藻類による赤雪の形成過程は明らかになっていない.赤雪現象は,雪氷表面のアルベドを低下させ,雪氷の融解を加速する効果をもつ.そのため,赤雪現象のアルベド低下の影響を評価するには,赤雪を引き起こす藻類群集の繁殖過程を理解することが重要である.そこで,本研究では,アラスカ,グルカナ氷河の上流部で6月下旬から8月下旬にかけて発生する赤雪を採取し,赤雪中の藻類群集の時間変化を明らかにし,赤雪発生のプロセスを推定することを目的とした.
 調査は2023年8月28日および,2024年6月29日,7月4日,7月19日に,米国アラスカ州グルカナ氷河の標高約1680 mで行った.各調査で積雪深を測定し,表面の積雪を5サンプル採取した.採取したサンプルは,低温状態で保管し実験室に持ち帰った.顕微鏡観察により,サンプル中に含まれる藻類細胞の形態的分類,細胞濃度の計数を行い,藻類群集構造を求めた.また溶存化学成分分析を行い,藻類の栄養塩である窒素イオンとリン酸イオン濃度を測定した.
 調査の結果,6月29日,7月4日には,比較的色が薄い赤雪が肉眼で観察され,積雪深はそれぞれ60 cm,57 cmであった.7月19日,8月28日には,より濃い赤雪が観察され,積雪深はそれぞれ,25 cm,5 cmと低下した.顕微鏡観察の結果,試料中の雪氷藻類は次の4タイプに分類された.TypeA: Sanguina nivaloidesと考えられる赤色球形細胞. TypeB: Chlainomonas属と考えられる赤色楕円形の細胞.TypeC: Rosseta floraniveaと考えられる赤色花形の細胞.TypeD:未記載種と考えられる鞭毛が見られる赤色楕円形の細胞.各藻類タイプの細胞濃度と体積から藻類群集構造を求めた結果,6月下旬から7月上旬には, TypeA(Sanguina nivaloides)の藻類が全体の95 %以上を占めていた.7月下旬にはTypeB,C,Dの割合が合計約24 %に上昇し,8月下旬にはさらに87 %まで増加した.これにより,時間の経過とともに赤雪中の藻類群集が多様化したことが明らかになった.溶存化学成分分析の結果,調査期間を通して,栄養塩の濃度は低く,藻類群集の多様化との関係は見られなかった.これらの結果から,積雪深が比較的深い融雪初期にはSanguina属藻類が積雪表面に現れ繁殖し,その後さらに融雪が進み積雪深が低下するとChlainomonas属,Rosseta属などの藻類が表面に現れ,繁殖を始めることが分かった.藻類の出現・繁殖時期が種によって異なる要因の一つとして,積雪深の違いによる透過光量や含水率の変化が影響している可能性が考えられる.