日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC33] アイスコアと古環境モデリング

2025年5月28日(水) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:竹内 望(千葉大学)、植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、齋藤 冬樹(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

17:15 〜 19:15

[ACC33-P04] グリーンランドSE-Dome IIアイスコアを用いた産業革命以降のCH4濃度復元

*鈴木 舞生1大藪 幾美2,1川村 賢二2,1、飯塚 芳徳3 (1.総合研究大学院大学、2.国立極地研究所、3.北海道大学低温科学研究所)


キーワード:CH4、アイスコア、グリーンランド、フィルン

メタン(CH4)は水蒸気と二酸化炭素に次ぐ重要な温室効果ガスである。大気メタンの直接観測は北極、南極ともに1983年から始められた。そのため、メタン濃度の急激な変化が起こった産業革命以降のデータはアイスコアから復元する必要がある。南極Law Domeコアは高涵養量域(年間約1 m)で掘削されたため、最近の空気まで気泡中に閉じ込められており1800年代以降の高精度かつ高分解能なデータが復元されている(Rubino et al.,2019)。しかし、不純物による氷床内生成メタンなどの問題で、グリーンランドコアからは高精度なデータが得られていない。北半球はメタンの放出源が多く、大気中の濃度も高いため、いつ・なぜ濃度が増加したかを知る上では北半球の濃度データが必要不可欠である。そこで本研究では、グリーンランド南東部の高涵養量域(年間約1 m)で掘削されたSE-Dome IIアイスコアを分析し(Iizuka et al.,2021)、産業革命以降のメタン濃度を復元することを目的とした。
融解抽出法を用いて(Oyabu et al.,2020)、170サンプルを分析した(氷年代:1800〜1969年,深度:250〜78 m)。フィルン底部での不均一な空気の取り込み過程による空気年代の逆転や不連続性の影響を最小限に抑えるために、1回の分析で1年分の長さのサンプル(約1 m)を用いた。これにより、世界で初めて1年分解能で170年を連続的に分析することができた。
空気は、フィルン底部で開空隙が閉じる際に気泡の中に取り込まれるため、常に空気の年代は同深度の氷の年代よりも若くなる。この年代差をΔageという。メタン濃度を復元するためには、アイスコアの氷年代に加えてΔageを推定する必要がある。SE-Dome IIコアの氷年代はH2O2濃度の季節変動を用いた年層カウントにより決められた(Kawakami et al.,2023)。今回はSE-Dome IIコアと直接観測(アラスカ)のデータが重複する期間について両者の相関と比をとり、Δageを推定した。その結果、SE-Dome IIコアのΔageは40年で一定であると推定した。ところが、実際の氷床では温度と涵養量ともに時間変化していることから、Δageも変化している可能性がある。Δageの計算には、氷と空気がそれぞれ何年かけてクローズオフ深度(全ての気泡が閉じる深度)に到達するかを計算する必要がある。そこで、フィルンの圧密モデル(Community Firn Model,Stevens et al.,2020)を使ってクローズオフ深度における氷年代の時間変化を計算した。入力データは再解析データからの温度(ERA5と20CRv3)とアイスコアから復元された涵養量(Kawakami et al.,2023)である。モデルを実行した結果、クローズオフ深度における氷年代は1840年代から1980年代まで小さくなる傾向にあったが、その後現在に向かって大きくなったことが示された。
分析の結果、北極域のメタン濃度は1840年代から2000年代にかけて約830 ppbから18000 ppbまで上昇し、特に1950年代以降急上昇したことが分かった。グリーンランドNEEMコアのメタン濃度データには10年移動平均値よりも100 ppb以上高い異常値が見られたが(Rhodes et al.,2013)、SE-Dome IIコアには見られなかった。SE-Dome IIコアは不純物濃度が低いため(Amino et al.,2020)、氷床内でメタンが生成されにくく異常値が検出されなかったと考えられる。1840年代以降のメタン濃度の年増加率は約10 ppb/yrであったが、直接観測が始まるすぐ前の1970年代後半から1980年代前半にかけては40 ppb/yrを超える増加率を示した。この値は直接観測データの最大値の約2倍である。

Rubino et al., Earth Syst. Sci. Data, 11, 2019.
Iizuka et al., Bulletin of Glaciological Research., 39, 2021.
Kawakami et al., J. Geophys. Res., 128, 2023.
Oyabu et al., Atmos. Meas. Tech., 13, 2020.
Rhodes et al., Earth and Planetary Science Letters, 368, 2013.
Stevens et al., Geosci. Model Dev., 13, 2020.
Amino et al., Polar Science, 27, 2020.