日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG41] 衛星による地球環境観測

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:沖 理子(宇宙航空研究開発機構)、本多 嘉明(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、松永 恒雄(国立環境研究所地球環境研究センター/衛星観測センター)、高橋 暢宏(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

17:15 〜 19:15

[ACG41-P25] 地球大気観測にむけた光線追跡計算によるイメージングフーリエ変換分光計の性能評価

*朝倉 一統1、佐藤 世智1、橋本 真喜子1木村 俊義1、今井 正1 (1.国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)

キーワード:赤外サウンダ、フーリエ変換分光計、分光撮像、光線追跡計算

観測対象の詳細な波長情報を得る精密分光観測(ハイパースペクトル)は、大気中の温度・水蒸気や微量気体成分の時空間分布測定、地表面物質の検出・識別等に有用な手段である。地球観測分野でもこれまで観測目的に応じて様々な分光方式が採用されてきたが、幅広い波長帯域で高波長分解能と S/N を両立したい場合に有力となるのが Fourier Transform Spectrometer (FTS) である。特に赤外線帯域の観測では回折格子等の分散型だと分光系が大型化してしまうこともあり、長波長赤外線帯域の吸収線を観測対象とする気象・温室効果ガス観測用赤外サウンダには、主にFTS が採用されてきた。GOSAT, GOSAT-2に搭載された TANSO-FTS や MetOp シリーズに搭載された IASI はその代表例である。近年では時間分解能を更に向上させたいという狙いから静止軌道衛星による観測も発展しているが、その場合には各地点の波長情報を同時取得する「分光撮像」が可能な imaging FTS (iFTS) で観測領域を走査する手法が望ましいと考えられる。実際、気象観測分野では2016年に中国の FY-4A が静止軌道赤外サウンダとして iFTS を採用したほか、2025年打上げ予定の MTG、2028年打上げ予定のひまわり10号も同様に iFTS を搭載する予定である[1-2]。温室効果ガス観測分野では未だ実現例がないものの、静止軌道観測の計画事例はあり、その必要性は以前から提唱されている[3-4]。

FTS は光路差変化によって生じる光強度の変調を測定し、それをフーリエ変換することでスペクトルを算出する分光装置である。基本的には平行化した入射光をビームスプリッターで分岐させて固定鏡・可動鏡へと導き、各鏡からの反射光が干渉するように重複させる構成であり、可動鏡を移動させながらデータを取得することで横軸を光路差、縦軸を光強度の変調成分とした interferogram を取得する。この時、光軸方向のみの観測であれば画素内はほぼ一様に明滅が繰り返され変調効率は100%に近い値となるが、iFTS では画角中心から離れるにつれ光路差が大きくなり、次第に一画素内でも干渉で強め合う箇所と弱め合う箇所が生じてしまうようになる。その結果、画角端で得られる interferogram は画角中心と比較して変調効率が低下することになり、分光性能に変化が生じてしまう(その他、画角端では算出されるスペクトルが長波長側にずれる事象も発生する)。したがって、将来の地球観測ミッションの検討にむけて iFTS の有用性を評価するには、様々な光学設計・観測条件(視野、観測波長、最大光路差等)に対してこれらの効果が分光性能に及ぼす影響を正確に算出する必要がある。

そこで、本研究では基本的なマイケルソン干渉計型の iFTS の光学モデル設計を行い、位相を考慮した光線追跡計算により各画素に入射する光強度を算出した。可動鏡位置を少しずつ変えながらこの操作を繰り返すことで、任意の画素での interferogram、及びスペクトルを推算することができる。実際の可動鏡移動範囲全体で計算を行うと処理が膨大になることから、特定の可動鏡位置でのみ光強度の算出を行い、それらのデータ点から Model Fitting により任意の位置での変調・波長ずれを推算することで計算量を削減する等の工夫により、様々な観測条件下での画角端のスペクトルを評価できる基盤を構築した。また、実際に iFTS 実験系を構築して光路差の増加によって生じる干渉縞の測定を行い、実験系を模した光学モデルによる光線追跡計算結果との比較を実施した。今後は今回構築した評価基盤を活用して、各分野の観測性能要求と、それを実現するのに必要となる光学系の諸元を結び付け、将来の地球観測ミッションの議論・検討に繋げていく予定である。

【参考文献】
[1] J. Yang et al., 2017, BAMS, Vol. 98, pp. 1637--1658
[2] K. Holmlund et al., 2021, BAMS, Vol. 102, p. E990--E1015
[3] W. L. Smith et al., 2006, Proc. SPIE, Vol. 6405, p. 64050E
[4] B. Moore III et al., 2018, Front. Environ. Sci., Vol. 6, pp. 1--13