日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG46] 陸域生態系の物質循環

2025年5月27日(火) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:寺本 宗正(鳥取大学乾燥地研究センター)、加藤 知道(北海道大学農学研究院)、市井 和仁(千葉大学)、伊勢 武史(京都大学フィールド科学教育研究センター)、座長:伊勢 武史(京都大学フィールド科学教育研究センター)

11:00 〜 11:15

[ACG46-07] 乾燥土壌の再湿潤と温室効果ガス動態:国内土壌を使った影響評価と応用

*永野 博彦1、鈴木 優里1、平舘 俊太郎2、安藤 麻里子3、小嵐 淳3 (1.新潟大学、2.九州大学、3.日本原子力研究開発機構)

キーワード:土壌炭素、有機物分解、気象激甚化、将来予測

全球規模の人為的二酸化炭素(CO2)排出量の5~10倍規模にも達する土壌炭素動態の変動は大気CO2濃度や地球環境の変化に重大な影響を与えうるが、未だ解明に至っていない事象も多い。本発表では、乾燥土壌の再湿潤とその繰り返し(DWC, Drying and reWetting Cycles)に着目し、地球温暖化に伴う環境変化としても危惧されるDWCが土壌有機物由来のCO2放出やCO2以外の温室効果ガスの動態に及ぼす影響の解明、またDWCを利用した土壌炭素動態推定手法の確立について、我々が実施してきた研究を中心に紹介する。DWCが土壌CO2放出に及ぼす影響を検証するため、北茨城の落葉広葉樹林で採取した2土壌を使い実施した培養実験(Nagano et al., 2019 SSPN)では、DWC条件のCO2放出量は、水分量を培養中一定に維持した対照区よりも最大49%多かった。さらに国内の計7か所の森林・草地で採取した10土壌を使った培養実験(Suzuki et al., 2025 SOIL)では、DWC条件のCO2放出量は水分一定の対照区よりも1.3から3.7倍多く、土壌間でのCO2放出増大率の変動はピロリン酸で抽出される土壌のAl+0.5Fe量(Alp+0.5Fep)と正の相関を示した。Alp+0.5Fep量は活性の高いAlやFeと有機物との複合体(金属―有機物複合体)存在量の指標であるとされ、日本に広く分布する火山灰土壌の高い炭素貯留能力の一端を担うとされてきた。これらの結果は、金属―有機物複合体の炭素保護能力がDWCのような水分環境の急激な変化に対しては脆弱である可能性を示唆した。また、DWCを利用し土壌の炭素動態を推定する手法の開発においては、乾燥土壌の再湿潤に伴う微生物細胞の破壊と有機物放出に着目し、土壌の一般的な長期保管形態である風乾土の水抽出有機物から微生物バイオマスを推定する試みを実施している。北茨城の落葉広葉樹の森林集水域の表層(深さ0-10cm)で採取した42土壌を使用した研究(Nagano et al., 2023 FFGC)では、これらの土壌の風乾土から水抽出した溶存有機物の炭素および窒素の安定同位体存在比(δ13Cおよびδ15N)を分析することで、土壌間での土壌有機物特性の変動を推定できる可能性を提示した。さらに、国内の計10か所の森林・草地で採取した50土壌を使った研究(Nagano et al., under review)では、これらの土壌の風乾土から水抽出した溶存有機物の炭素量が生土を使う従来法であるクロロホルム燻蒸—抽出法で測定された微生物バイオマス炭素と非常に強い正の相関(R2 = 0.94, p < 0.01)を示すことを明らかにした。これらの結果は、新たな土壌採取をせずとも、既に研究室に保管されている風乾土を適切に分析することで、土壌炭素動態および温室効果ガス動態を直接駆動している土壌微生物のバイオマスやその有機物利用特性を推定できる可能性を提示している。今後、これらの研究をさらに進めていくことで、陸域炭素循環および温室効果ガス動態の更なる解明と将来予測モデルの高度化につながることが期待される。