日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG46] 陸域生態系の物質循環

2025年5月27日(火) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:寺本 宗正(鳥取大学乾燥地研究センター)、加藤 知道(北海道大学農学研究院)、市井 和仁(千葉大学)、伊勢 武史(京都大学フィールド科学教育研究センター)、座長:伊勢 武史(京都大学フィールド科学教育研究センター)

12:00 〜 12:15

[ACG46-11] 陸域植生の呼吸によるCO2放出量の全球モデル評価

*伊藤 昭彦1,2,3 (1.東京大学、2.海洋研究開発機構、3.国立環境研究所)

キーワード:陸域炭素収支、呼吸、植生モデル

陸域植生はグローバルな炭素循環を駆動する役割を果たしている。光合成によるCO2固定は生理的機構と環境応答が詳細に解明され、複数手法によって全球の総量が評価されているのに対し、呼吸による放出量に関する研究は少ない。土壌を含む生態系呼吸はフラックス観測によってデータが蓄積されているが、植生自体から放出されるCO2を樹冠から根圏まで包括的に測定することは技術的に困難である。そのため、グローバルな植生モデルにおいても植生CO2放出(独立栄養的呼吸)は、半経験的なモデルで推定が行われており、大きな推定不確実性が残されていると考えられる。本発表では、グローバルな植生モデルにおける呼吸量評価について検討を行う。従来多く採られてきた方法は、独立栄養的呼吸を既存生物体による維持呼吸と、新たな生物体の生成に伴う成長(構成)呼吸に分割し、それらの合計として求めるものである(土壌窒素獲得に伴う成分を加える場合もある)。維持呼吸は現存量と温度への指数関数的応答から求められ、成長呼吸は光合成生産量にコスト係数を乗じて求められる。この方法は簡便である反面、呼吸の生理的メカニズムはほとんど考慮されていないため環境変化への応答予測に不確実性が大きい可能性がある。植生の呼吸に関しては、個体レベルの現存量と呼吸量の間を関係づける代謝スケーリングの研究も盛んに行われている。Ito (2020)では、自己間引きの法則を応用して生態系レベルのバイオマスと植生群落の平均個体サイズ・密度を関係付け、さらに代謝スケーリング則を組み合わせて植生呼吸量を推定する方法を提案した。この方法では、植生群落バイオマスと呼吸量の間は非線形な関係となるため、空間分解能が低い平均バイオマスを用いると呼吸量が過小推定されるが、高分解能なデータを用いるほど精度が高まる。一方で、求められるのは植生呼吸の総量であり、維持・成長呼吸に基づく方法と同じく生理的メカニズムは考慮されていない。一般に、呼吸(ここでは主にミトコンドリアで行われる暗呼吸)は解糖系、クエン酸回路、電子伝達系から構成されるが、植物はalternative pathwayと呼ばれる特有の過程を持つことなどが知られており、光合成に比べて生理レベルでの環境応答のモデル化は進んでいない。指数関数的な温度応答に関しても、Q10=2程度の感度とされているが、長期観測によると季節的スパンで順化が起こるため高温条件で感度が低下する傾向がある。既存の植生モデルでは、この呼吸の温度順化は経験的な方法で導入されているが、長期的な気候変動への応答が同様に推定可能かは不明である。最後に、既存モデルで推定された植生呼吸の推定例を示し、プロキシ(フラックス観測による生態系呼吸から土壌CO2放出に基づいて推定した微生物呼吸を差し引いた)植生呼吸との比較を行う。以上を踏まえて、グローバルな植生による呼吸CO2放出量の推定方法高度化について議論を行う。