日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG47] 海洋と大気の波動・渦・循環の力学

2025年5月25日(日) 15:30 〜 17:00 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大貫 陽平(九州大学 応用力学研究所)、久木 幸治(琉球大学)、杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、松田 拓朗(北海道大学地球環境科学研究院)、座長:大貫 陽平(九州大学 応用力学研究所)、久木 幸治(琉球大学)、杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、松田 拓朗(北海道大学地球環境科学研究院)

16:15 〜 16:30

[ACG47-16] 粗面上へと移動する竜巻状渦に見られる多段階の強度・構造変化

*佐藤 宏樹1竹見 哲也2 (1.京都大学理学研究科、2.京都大学防災研究所)


キーワード:竜巻、粗度、数値流体解析、渦、微気象学、風災害

弱い水上竜巻が上陸し市街地に侵入する場合、上陸後すぐに衰弱し消滅してしまうということを示唆する報告がある(Bech et al. (2005), 宮城、佐々(2019)など)。本研究では、特に地表面による摩擦的な効果が竜巻渦本体の強度と構造に及ぼしうる影響について調べるため、竜巻状の渦が滑面上から粗面上へと移動する系を模した理想的な数値模擬実験を行った。

数値計算には、有限体積法計算プログラムであるOpenFOAM v2006の非圧縮流れソルバ(pimpleFoam)を用いた。Wang (2022)を参考に、添付の図のような計算領域を作成した。計算領域は、空中に静止した半径544 mの円筒形領域と、地表面近傍を表す板状の可動域の二部で構成した。円筒形領域は、Ward型の竜巻実験装置を模した設計とした。ここでは、円筒形領域の下部側面にある流入部に与えた旋回気流を収束させることにより、竜巻状の渦を作り出した。流入風に与える循環の大きさにより、渦核半径と強度の異なる2種類の渦を作成した。可動域の図中左側は、平坦な底面を持つ滑面領域とし、右側は底面に粗度構造物を一定間隔で格子状に配置した粗面領域とした。実在都市程度の粗度を模擬するため、粗度構造物は、底面積16 m × 16 m、高さ8 mまたは16 mの直方体とした。また比較のため、底面に粗度構造物を全く配置しない実験も行った。底面に対する竜巻状渦の相対運動については、可動域を円筒形領域に対して一定速度で水平移動させることで表現した。可動域の移動速度として、移動速度の遅い海上竜巻を模した1.6 m/s、北米大陸の平野部で見られる竜巻の典型的な移動速度に近い16 m/s、
およびそれらの中間として8 m/sの3通りの設定を行った。はじめ、円筒域の直下に滑面領域が位置する状態で計算領域を固定し、この状態で準定常な竜巻状渦を作成した後、可動域を図中の右から左へと水平移動させた。

以下、実験結果について述べる。渦の強度と構造について、三段階の変化が見られた。

第一段階の強度変化として、竜巻状渦の相対運動を開始してから渦が粗面上に到達するまでの期間に、渦中心軸に平行な風速成分の強化が見られた。この強度変化は、可動域の移動速度が8 m/s以上の実験について、粗度構造物の有無によらず見られた。このことから、第一段階の変化は、Liu and Ishihara (2016)などにおいて報告された、竜巻状渦と底面の間に相対速度があることによって生じる強度変化に対応しているものと考えられる。

第二段階の強度変化として、流入風の循環の小さな実験においては、渦が粗面上に到達した直後に渦の最大接線風速の低下が見られた。一方、流入風の循環の大きな実験においては、渦の最大接線風速および渦中心軸に平行な風速成分の強化が見られた。この変化に伴い、渦の気流構造を特徴づける量である「局所コーナー流スワール比」が変化することも確認された。また、こうした変化は、可動域の移動速度によらず、竜巻状渦が粗面上に到達した直後に見られた。よって第二段階の変化は、竜巻状渦が底面の局所的な粗度変化に反応して構造遷移することに対応しているものと考えられる。

第三段界の強度変化として、渦と可動域の移動速度が16 m/sの実験では、竜巻状渦が粗面上をしばらく移動した後に、竜巻状渦の接線風速および渦軸に平行な風速が突然低下することが確認された。この変化の際、竜巻状渦の中心軸上の低圧部が折れ曲がるとともに衰弱する様子が見られた。このことから、第三段界の変化は、竜巻状渦が粗面上を移動する際に剪断変形を受けて破壊されることを表しているものと考えられる。この変化は、流入風に与えた循環が小さい場合に生じた細く弱い渦について、特に顕著にみられた。

本研究より、滑面上で発生した竜巻状渦が粗面上へと移動する際に生じうる多段階の変化の詳細が示された。現実の水上竜巻上陸事例に対して、比較的弱い水上竜巻については、本研究に見られたような強度・構造変化が上陸後に起きることにより、長距離を移動できずに消滅してしまうという可能性が示唆される。