17:15 〜 19:15
[ACG48-P06] 広域河川モデルへの衛星観測浸水域のデータ同化による洪水予測シミュレーションの高度化

キーワード:洪水予測、データ同化、河川モデル、衛星
1. 導入
河川モデルによる浸水域予測は災害対策に必要な技術である。しかしモデル単独での完全な予測は難しいため,データ同化が研究されてきた.河川モデルは貯水量を初期値として計算を実行するため,観測データを介して貯水量が更新される必要がある.河道貯水量との相関が強い水面標高の同化研究が進展してきたのに比べ,浸水域は貯水量との関係が一意に定まらないため,浸水域データ同化は水位同化に比べ進展していない.そこで,本研究では衛星観測浸水域からモデルの初期値である貯水量を精度良く推定して広域河川モデルCaMa-Flood1)に同化する手法を提案した.さらに,2022年パキスタン洪水にて同化による洪水予測精度の向上効果を検証した.
2. 手法
2種類の貯水量推定手法を提案した.まず,集水域内の水面標高を一定だとするモデルの仮定に基づき,各集水域の貯水量-浸水面積曲線を用いて貯水量を逆推定する方法(逆関数法)を提案した.また,モデル物理に依拠しない手法として,近傍の浸水・非浸水境界の標高を用いて水面標高を推定するFLEXTH2)アルゴリズムを利用して衛星浸水域とデジタル標高モデルから浸水深を計算し,集水域ごとに積分して貯水量を得る方法も提案した.
同化手法としては局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)を用いて,推定貯水量を予測貯水量に同化した.同化実験は,観測システムシミュレーション実験(OSSE)と実観測同化実験の2つを実施した.OSSEでは強制力であるERA5流量データに摂動を加えることでアンサンブルを生成し,摂動なしのシミュレーションを現実系として観測浸水域を作成した.実観測同化ではGlobal Flood Monitoringから取得した合成開口レーダ(SAR)を元とする浸水域を同化した.洪水ピークである2022年8月30日のみに同化を行い,その後は予測モードとして計算し,観測浸水域と予測浸水域を比較することで同化の効果を検証した.
3. 結果
OSSEにおける貯水量推定については,両手法による推定貯水量がともに真値周りに分布しており(図1),同化する値として有効であると考察できる.逆関数法は特に真値との一対一直線に沿う.これはOSSEにおける現実系がCaMa-Floodの物理過程を真としているため想定通りの結果である.一方でFLEXTHでは,現実系において浸水深が不連続な集水域において浸水深を連続的に求めるため真値との乖離が見られた.
OSSEにおける同化では,両手法のどちらでも同化なしと比較した場合にF1スコアが10%以上向上した(図2).逆関数法では当然であるが,FLEXTHによる推定貯水量同化が有効であることが確認できた。
実観測衛星浸水域を用いた貯水量推定については,真値は不明だが,両手法の貯水量が概ね一対一になっており,どちらも妥当に貯水量を推定できていると考えられる.逆関数法では,内部の標高差が大きく浸水割合が大きい集水域において浸水深が過大に見積もられ(図3),貯水量もFLEXTHと比べて極端に大きくなる傾向があった.それに比べ,FLEXTHでは集水域を超えて浸水深が連続的に推定されるため極端な過大推定が発生しなかった。
実観測同化については,両手法による推定貯水量の同化直後に予測精度が向上した.同化後12日後には逆関数法において適合率が低下した(図4)が,これは前述した貯水量の過大推定の影響であると考えられる.FLEXTHでは逆関数法よりも適合率が高かった.しかし同化後24日目以降はOSSEと異なり再現率が単調に低下した.この予測精度低下はモデル物理が現実と一致していないことに起因すると考えられる。ICESat-2標高計データで確認すると水路や道路により水面標高が隔てられていることから集水域内でも水の移動が阻害されていることが推察できる(図5)。また,湖の水面標高が氾濫原よりも高くなっていることから,堤防により河道と氾濫原が接続性を失い排水が進んでいないと考えられる。同化により初期値を改善しても予測精度が時間経過とともに悪化することから,より正確な浸水域予測のためにはモデル物理自体の改善が必要であることが示唆された.
4. まとめと今後の展望
衛星取得浸水域から貯水量を推定して同化することでモデル予測が改善されることを確認した.誤差共分散行列の定め方や同化タイミングといった同化手法の改良,光学衛星やSAR衛星を組み合わせた高頻度な同化の実現が今後の展望として挙げられる.
参考文献:
(1) Yamazaki, D., Kanae, S., Kim, H., & Oki, T. (2011). A physically based description of floodplain inundation dynamics in a global river routing model. Water Resources Research, 47(4).
(2) Betterle, A., & Salamon, P. (2024). Water depth estimate and flood extent enhancement for satellite-based inundation maps. Natural Hazards and Earth System Sciences, 24(8), 2817–2836.
河川モデルによる浸水域予測は災害対策に必要な技術である。しかしモデル単独での完全な予測は難しいため,データ同化が研究されてきた.河川モデルは貯水量を初期値として計算を実行するため,観測データを介して貯水量が更新される必要がある.河道貯水量との相関が強い水面標高の同化研究が進展してきたのに比べ,浸水域は貯水量との関係が一意に定まらないため,浸水域データ同化は水位同化に比べ進展していない.そこで,本研究では衛星観測浸水域からモデルの初期値である貯水量を精度良く推定して広域河川モデルCaMa-Flood1)に同化する手法を提案した.さらに,2022年パキスタン洪水にて同化による洪水予測精度の向上効果を検証した.
2. 手法
2種類の貯水量推定手法を提案した.まず,集水域内の水面標高を一定だとするモデルの仮定に基づき,各集水域の貯水量-浸水面積曲線を用いて貯水量を逆推定する方法(逆関数法)を提案した.また,モデル物理に依拠しない手法として,近傍の浸水・非浸水境界の標高を用いて水面標高を推定するFLEXTH2)アルゴリズムを利用して衛星浸水域とデジタル標高モデルから浸水深を計算し,集水域ごとに積分して貯水量を得る方法も提案した.
同化手法としては局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)を用いて,推定貯水量を予測貯水量に同化した.同化実験は,観測システムシミュレーション実験(OSSE)と実観測同化実験の2つを実施した.OSSEでは強制力であるERA5流量データに摂動を加えることでアンサンブルを生成し,摂動なしのシミュレーションを現実系として観測浸水域を作成した.実観測同化ではGlobal Flood Monitoringから取得した合成開口レーダ(SAR)を元とする浸水域を同化した.洪水ピークである2022年8月30日のみに同化を行い,その後は予測モードとして計算し,観測浸水域と予測浸水域を比較することで同化の効果を検証した.
3. 結果
OSSEにおける貯水量推定については,両手法による推定貯水量がともに真値周りに分布しており(図1),同化する値として有効であると考察できる.逆関数法は特に真値との一対一直線に沿う.これはOSSEにおける現実系がCaMa-Floodの物理過程を真としているため想定通りの結果である.一方でFLEXTHでは,現実系において浸水深が不連続な集水域において浸水深を連続的に求めるため真値との乖離が見られた.
OSSEにおける同化では,両手法のどちらでも同化なしと比較した場合にF1スコアが10%以上向上した(図2).逆関数法では当然であるが,FLEXTHによる推定貯水量同化が有効であることが確認できた。
実観測衛星浸水域を用いた貯水量推定については,真値は不明だが,両手法の貯水量が概ね一対一になっており,どちらも妥当に貯水量を推定できていると考えられる.逆関数法では,内部の標高差が大きく浸水割合が大きい集水域において浸水深が過大に見積もられ(図3),貯水量もFLEXTHと比べて極端に大きくなる傾向があった.それに比べ,FLEXTHでは集水域を超えて浸水深が連続的に推定されるため極端な過大推定が発生しなかった。
実観測同化については,両手法による推定貯水量の同化直後に予測精度が向上した.同化後12日後には逆関数法において適合率が低下した(図4)が,これは前述した貯水量の過大推定の影響であると考えられる.FLEXTHでは逆関数法よりも適合率が高かった.しかし同化後24日目以降はOSSEと異なり再現率が単調に低下した.この予測精度低下はモデル物理が現実と一致していないことに起因すると考えられる。ICESat-2標高計データで確認すると水路や道路により水面標高が隔てられていることから集水域内でも水の移動が阻害されていることが推察できる(図5)。また,湖の水面標高が氾濫原よりも高くなっていることから,堤防により河道と氾濫原が接続性を失い排水が進んでいないと考えられる。同化により初期値を改善しても予測精度が時間経過とともに悪化することから,より正確な浸水域予測のためにはモデル物理自体の改善が必要であることが示唆された.
4. まとめと今後の展望
衛星取得浸水域から貯水量を推定して同化することでモデル予測が改善されることを確認した.誤差共分散行列の定め方や同化タイミングといった同化手法の改良,光学衛星やSAR衛星を組み合わせた高頻度な同化の実現が今後の展望として挙げられる.
参考文献:
(1) Yamazaki, D., Kanae, S., Kim, H., & Oki, T. (2011). A physically based description of floodplain inundation dynamics in a global river routing model. Water Resources Research, 47(4).
(2) Betterle, A., & Salamon, P. (2024). Water depth estimate and flood extent enhancement for satellite-based inundation maps. Natural Hazards and Earth System Sciences, 24(8), 2817–2836.