日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG48] 陸域から沿岸域における水・土砂動態

2025年5月27日(火) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、浅野 友子(東京大学大学院農学生命科学研究科)、有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)

17:15 〜 19:15

[ACG48-P07] 衛星観測を用いたキャリブレーション不要な河川浮遊土砂濃度推定

*山崎 大1、石田 紘大1、Sehgal Dhruv1 (1.東京大学生産技術研究所)

キーワード:浮遊土砂、衛星観測

全球河川から海洋への土砂流出量を把握することは,陸域と沿岸域の土砂収支の把握,土砂に付随する栄養塩動態の解明にとって重要である.また,河川から流出する栄養塩は二酸化炭素の吸収源として期待される海洋生物の主要な供給源となるため,気候変動の予測に重要である.しかし,継続的に浮遊土砂濃度観測が行われている河川は全球で1割にも満たず,地球全体での土砂動態の把握は進んでいない.そのため,全球を観測する衛星を用いた未観測流域にも適用できる浮遊土砂濃度の推定手法の構築が求められている.
既往の衛星反射率を用いた全球規模での陸水の土砂濃度推計研究は経験式,機械学習,物理法則に基づくものに大別される.経験式・機械学習では衛星が観測する波長ごとの水面反射率のスペクトルと現地観測された浮遊土砂濃度の関係を構築するが,限られた土地での観測に基づいており未観測地域への適用根拠がない.物理法則に基づく手法は,粒径分布やミネラル組成といった物性の時空間変動が大きくない湖沼・沿岸域のデータを主にしており,物性を表すパラメータは固定されるか数種類の分類に留まっている.そのため,物性の時空間変動が激しい河川では正しく推定できないという課題が存在する.
そこで,本研究では以下を達成することを目的とした:(1)物性を考慮した浮遊土砂濃度推定アルゴリズムの構築,(2)実際の衛星観測・現地観測データを用いたアルゴリズムの検証.
(1)アルゴリズム構築:物性を考慮して濃度と反射率の関係を表すフォワードモデルを作り,観測反射率とモデル反射率の誤差が最小になる濃度を最適化手法によって逆推定した.
フォワードモデルでは,浮遊土砂,水,CDOM,植物プランクトンの濃度に比例する吸収・後方散乱係数を波長ごとに反射率を求める生物光学モデル(Lee et al. 2011)をコアとした.これを用いて浮遊土砂濃度を逆推定するために,以下の工夫を行った.a)浮遊土砂以外の影響の除去:665nm以降の波長を用いCDOMの影響を無視し,植物プランクトンの影響は経験モデルにより推定し,水の吸収係数は水温の関数として表した.b)粒径分布を用いた浮遊土砂の後方散乱係数の拘束:Mie散乱理論により計算された単一の球体粒子の後方散乱を積分することで粒径分布と波長の関数とした.粒径分布は,1μm以下の粒子数を表現できる2C-model (Peng and Effer 2007)を採用した.c)浮遊土砂の吸収係数の推定:浮遊土砂の吸収係数は近赤外で波長方向に変化しないと仮定した.また,783nmと865nmの水面反射率の関係が地点で一定になることを発見し,これが後方散乱係数と吸収係数の比を一定に保つことで再現できることがわかったので,この関係により吸収係数を求めた.
これらの工夫により,波長ごとの衛星反射率を粒径分布と土砂濃度のみの二変数関数として表現し,観測反射率とモデル反射率の誤差が最小になるような物質濃度と粒径分布を探索する最適化アルゴリズムが適用可能になり,土砂濃度の逆推定を実現した.
(2)検証:Sentinel-2 MSIを用いて,アメリカ全土の浮遊土砂濃度の観測データ(2019-2023年,57地点,1.0 mg/Lから2894 mg/Lまでの635データ)に対応する濃度を推定した.アルゴリズムの推定精度はMAE=138 mg/L, RMSE=303 mg/L, MAPE94%であった.観測値の1/3から3倍以内に存在するデータは70%で,3倍以上の誤差があった191データのうち127データがミズーリ川に存在した.ミズーリ川では水深が浅いときに大きく過小評価する傾向が確認され,底質の反射の影響を含めることで精度が向上すると考えられる.

本研究では物理法則に基づき,衛星反射率から濃度だけでなく物性を同時に推定するアルゴリズムを構築することで未観測地域でも根拠を持って浮遊土砂濃度を推定できるようになった.今後はこのアルゴリズムにより,全球の土砂動態の把握が進み陸域と沿岸域の土砂収支の把握や栄養塩動態の解明に貢献することが期待される.