日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG49] 黒潮大蛇行

2025年5月26日(月) 09:00 〜 10:30 101 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:平田 英隆(立正大学)、西川 はつみ(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、川上 雄真(気象庁気象研究所)、伊藤 大樹(国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産資源研究所)、座長:川上 雄真(気象庁気象研究所)、平田 英隆(立正大学)

09:45 〜 10:00

[ACG49-04] 黒潮と湾流における海洋から大気への水蒸気フラックス強化と大気への影響の特性

*菅原 茉穂1小松 幸生1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:水蒸気(潜熱)フラックス、西岸境界流、黒潮、湾流、蛇行

1 背景・目的
 黒潮や湾流に代表される西岸境界流は亜熱帯から亜寒帯の海域へ大量の熱と海水を輸送している。流路上の高い海面水温が蒸発を促進し、海洋から大気へ膨大な水蒸気が供給され、集中豪雨がもたらされることが近年指摘されている(e.g., Sasaki et al., 2012; Manda et al., 2014; Sekizawa et al., 2019)。一方で、海洋から大気への水蒸気供給の起点として、海上風乱流による海面から大気境界層内への水蒸気(潜熱)フラックスに着目すると、西岸境界流における水蒸気フラックスの詳細については不明な点が多い。研究室では、梅雨期の四国沖の黒潮流路上で水蒸気フラックスが周辺海域に比べて強化されている実態を直接観測により明らかにしたが (富田, 2023)、一度の観測結果に基づくため、流路上でのフラックス強化の普遍性、要因、気象への影響については未解明である。
 また、黒潮は、2023年から2024年にかけて、例年のようには房総半島沖で東方に向けて離岸せず、三陸沖まで北上し、鋭く蛇行して流れていた。この北偏現象は、黒潮流路の記録の残る過去70年の中でも特異的なものであり、それが水蒸気フラックスや気象に与える影響も未解明である。
 そこで本研究では、西岸境界流を代表する黒潮と湾流を対象とし、流路上での海洋から大気への水蒸気フラックスの強化に関して、水平分布と季節変動の実態、生成要因、気象への影響を解明することを目的とする。特に黒潮については、2023-2024年に生じた異常北偏の影響解明も目指した。

2 方法
 黒潮と湾流周辺の水蒸気(潜熱)フラックスについて、その実態、及び上空の風や降水量との関係を解析するため、黒潮域では気象庁のメソ数値予報モデル (MSM) の大気データ、NOAAの海面水温データ (OI SST)、海上保安庁の黒潮流路データ (海洋速報) を使用した。湾流域では、ECMWFのERA5 再解析値の大気・海面水温データを使用し、湾流の流路推定には衛星海面高度データ (AVISO) を使用した。潜熱フラックスは、上記の大気・海面水温データに対して代表的なバルク法であるCOARE 3.5 algorithm (Fairall et al., 2003; Edson et al., 2013) を適用して推定した。なお、バルク法による推定値については、2024年6月に三陸沖で実施した新青丸KS-24-9航海で渦相関法により直接観測した潜熱フラックスと比較検証することで再現性に問題がないことを確認した。

3 結果・考察
 黒潮と湾流の双方において、季節に関係なく流路上で潜熱フラックスの強化が確認され、流路上の高い海面水温による比湿差が主な要因であると分かった。2023-2024年の黒潮の異常北偏時には、三陸沖の黒潮続流の流路上で前例の無い昇温が生じたことで、局所的に潜熱フラックスの強い正偏差が生じた。
 潜熱フラックスが強化された黒潮と湾流の流路周辺では、降水量が周囲に比べて多いことも確認された。その要因として、高水温の流路上では、潜熱フラックスの強化に伴う蒸発の促進に加えて、水蒸気の水平収束が生じることで降水量が増加する可能性が示された。2023-2024年の黒潮の異常北偏時には、例年とは大きく異なり、黒潮続流が西風卓越時に風が強く吹く三陸沖まで北偏し、緩やかに蛇行せず、ヘアピン状に蛇行した。この北偏と蛇行によって、西風が卓越している状況では、続流第一の峰の西側で強い水平発散、東側で強い水平収束が生じた。そして、このことが、続流第一の峰の西側よりも東側で局所的に降水量が多いことに影響している可能性が示唆された。
 流路上での潜熱フラックスの強化に関して黒潮と湾流を比較すると、水平分布や季節変動の実態、生成要因、周辺の降水への影響は共通しており、西岸境界流におけるこの現象の普遍性を確認することができた。一方、黒潮と湾流の相違点として、黒潮は湾流に比べて流路の変動が大きいため、2023-2024年における黒潮の異常北偏時の事例のように、潜熱フラックス正偏差の強化、蛇行の東側での水平収束・降水量の強化を誘発する可能性が高いことも示唆された。