日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG50] 海洋表層-大気間の生物地球化学

2025年5月29日(木) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (6) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:亀山 宗彦(北海道大学)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)、野口 真希(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球表層システム研究センター)、小杉 如央(気象研究所)、座長:亀山 宗彦(北海道大学)、岩本 洋子(広島大学大学院統合生命科学研究科)

14:45 〜 15:00

[ACG50-04] 表層海水中の過剰メタンの起源:炭素‧水素安定同位体組成を指標に用いた解析

*中川 書子1角皆 潤1、高田 幸太郎1、伊藤 昌稚1、佐藤 晋太郎2亀山 宗彦3 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.北海道大学大学院理学院、3.北海道大学大学院地球環境科学院)

キーワード:メタン、海洋、水素同位体比、炭素同位体比

海洋や湖沼などの水環境は、温室効果気体であるメタン (CH4)の主要発生源の一つである。従って水環境におけるCH4の起源や動態を理解することは重要である。一般にCH4は嫌気的環境で生成され、好気的環境で酸化されるという特徴をもつ。したがって水環境においてCH4は堆積物中で生成されるが、水柱中では速やかに酸化されると考えられてきた。しかし表層海水中には、好気的環境にもかかわらず大気平衡よりもCH4が過剰に溶存しており、古くからこの矛盾は「メタンパラドックス」と呼ばれてきた。Sasakawa et al. (2008) はCH4のδ¹³Cを指標に用いて、この過剰CH4の主要起源は沈降粒子と結論づけた。一方、Klintzsch et al. (2023) は室内培養した植物プランクトンからCH4が放出されることを確認するとともに、そのδ¹³CがSasakawa et al. (2008) が報告した海水中の過剰CH4のδ¹³Cと概ね一致することを見出した。そこでKlintzsch et al. (2023) は、植物プランクトンを海水中の過剰CH4の主要起源として提案している。
そこで本研究では、海水中の過剰CH4のδ¹³C値に加えてδ²H値も測定することによって表層海水中の過剰CH4の起源を解明することに挑戦した。海洋観測と試料採水は、白鳳丸KH23-3次航海において西部北太平洋亜寒帯域と亜熱帯域で、新青丸KS24-12次航海において北緯35度付近の日本近海域で、MR24-07次航海において西部北太平洋亜熱帯域で実施し、表層海水中のCH4濃度とそのδ¹³C値・δ²H値を測定した。海水中の過剰CH4のδ²H値が明らかになるのは本研究が初めてである。
その結果、表層海水試料の多くは大気平衡状態と比べてCH4が過飽和となっていることを確認した。また海水中の過剰CH4の平均δ¹³C値を求めたところ、−40.2 ± 2.4 ‰であった。一方、過剰CH4の平均δ²H値は−42.3 ± 4.7 ‰となり、海洋環境における一般的な有機物のδ²H 値 (−118.23 ± 35 ‰ ; Lecuyer, et al., 1998) と比べて有意に高い値で特徴づけられることが明らかになった。Sasakawa et al. (2008) は、過剰CH4に見られた高いδ¹³C値(−33 ‰) は、沈降粒子内の還元環境下で生成したCH4 (δ¹³C値は−60 ‰から−80 ‰前後) が酸化的な海水中に放出される過程で進行する酸化分解に起因すると解釈している。本研究で観測した高いδ²H値はこの解釈と整合的である。一方で植物プランクトンが生成したCH4の場合、ここで見られたような高いδ²H値を説明するのは難しい。表層海水中の過剰CH4は、沈降粒子中の微小還元環境下における生成・放出に起源をもつ可能性が高いことが、δ²H値からも支持された。