日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG51] 沿岸海洋生態系-2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2025年5月28日(水) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、樋口 富彦(京都大学 人間・環境学研究科)、中村 隆志(東京科学大学 環境・社会理工学院)、渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)、座長:梅澤 有(東京農工大学)、渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)、中村 隆志(東京科学大学 環境・社会理工学院)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)

14:15 〜 14:30

[ACG51-03] 酸性化環境におけるアカモクの応答実験とそのモデル構築

*折田 まりな1、鈴木 彩1、小林 高士1、久田 正樹1 (1.NTT宇宙環境エネルギー研究所)

キーワード:大型藻類、海洋酸性化、生態系モデル、炭素循環

海洋酸性化は、殻を持つ生物をはじめとする海洋生物へ様々な影響をもたらす。海洋生態系を保全するためには、酸性化影響を考慮した海洋生態系モデルを構築し、将来の変化を予測することが重要である。しかし、海洋酸性化が生物に与える影響には未解明な点が多く、既存の海洋生態系モデルでは一部の生物を除きほとんど考慮されていない。また、炭素固定能力により海洋酸性化の抑制効果を持つとされる大型藻類についても、様々な酸性化応答実験が行なわれてきたものの、種ごとに異なる結果が得られており、依然として未解明な部分が多い。例えばワカメの幼生は、CO2濃度が高いほど成長率が高くなる(Leal, P. et al., 2017) 。一方でアカモクの発芽体や幼体は、低pH環境では成長阻害が見られるという結果もある (深美ら, 2021) 。さらにマコンブの胞子体は、CO2濃度が高い環境の方が相対成長率や純光合成速度が低下する (Chu, Y. et al., 2019) 。このように、大型藻類にはCO2濃度が高い場合に光合成機能が活性化され成長が促進される種も存在すれば、高CO2濃度により酸性化が進むと一部の機能が抑制・促進され成長阻害を受ける種も存在する。このことから、私たちは大型藻類の種ごとに生息に最適なpH範囲が異なるという仮説を立て、海洋生態系モデルへ新たにpH依存関数(図参照)を組み込むことにより、海洋酸性化を考慮可能なモデルを提案する。
本研究では、上述の提案モデルに必要な大型藻類への酸性化影響のデータを取得するため、アカモクを用いて水槽実験を行なった。アカモクを選定した理由は、大型藻類の中でも体長が数十cm程度の期間が長く水槽実験に適しているためである。さらに、本実験の水槽モデルを構築することで、新たに考案したpH依存関数の有効性について検証した。
まず水槽実験では、pHを8.2、7.5、6.0に制御し酸性化を模擬した3つの水槽を用意した。pH8.2は現在の海程度、pH7.5は実海域で局所的に起こる酸性化程度を想定しており、pH6.0に関しては酸性化の影響を明確に見るために極端に低い値を設定した。実験期間は深美ら,2021を参照し22日間とし、測定項目はアカモクの生物量、水温、光量、pH、栄養塩濃度、光合成効率とした。実験の結果、pH6.0の水槽ではアカモクの成長阻害と光合成・枯死への影響が見られた。茎長の成長は、pH7.5とpH8.2の水槽では21日後約1.3~1.4倍であったのに対し、pH6.0の場合は約1.1倍となった。実験期間中の光合成効率の平均値は、pH7.5 で0.650、pH8.2で0.656であったのに対し、pH6.0の場合は0.448であった。また、pH6.0の水槽では葉の根本が脆くなり剥がれ落ちる現象が確認された。このことにより、アカモクはpH7.5程度であれば単一種の生育に影響はないが、それ以上の酸性化が進むと光合成機能の抑制や枯死の促進が起き、成長阻害につながる可能性があることが分かった。
次に、pH依存関数の有効性を検証するため、本水槽実験のモデルを作成した。本モデルでは、水温、光量、pH、栄養塩の添加量、実験初期における各生物量や各物質濃度を入力値とし、アカモク、植物プランクトンの生物量、有機態リン、有機態窒素、無機態リン、無機態窒素の濃度に関して時間ごとに解く微分方程式を設定した。さらにガウス関数の組み合わせからなるpH依存関数の係数を実験結果から同定し、仮説に基づきモデルに組み込んだ結果、酸性化影響を考慮したモデルを構築することができた。
以上のように、私たちは大型藻類の一種であるアカモクへの酸性化影響に関するデータ取得と、そのモデル構築を行なった。今回はアカモク単一種を用いた実験を行ったため、アカモクへの直接的な酸性化影響のみを検討した。一方で自然界では様々な生物が共生しており、着目生物が酸性化影響を受けない場合でも、他の生物が酸性化影響を受けることで、生態系バランスの崩れや生息環境の変化により、間接的な影響を受ける可能性がある。したがって、今後の課題は、植物プランクトンや別の大型藻類などと酸性化環境で競合させる追加実験を行ない、海洋生態系の中での大型藻類への酸性化影響を考慮したモデルを構築することである。また、今回構築したアカモク水槽の酸性化モデルは、実海域の一部を切り取ったモデルである。将来的には、酸性化した海域における海洋生態系のシミュレーションに本結果を役立てていきたい。