日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG52] 北極域の科学

2025年5月29日(木) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:川上 達也(北海道大学)、堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、柳谷 一輝(宇宙航空研究開発機構)、佐藤 洋太(海洋研究開発機構)、座長:島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、柳谷 一輝(宇宙航空研究開発機構)、佐藤 洋太(海洋研究開発機構)

10:45 〜 11:00

[ACG52-07] グリーンランド北西部カナック氷河における雪氷藻類に寄生するツボカビの感染率

*小林 綺乃1島田 利元2西村 基志3有江 賢志朗2鈴木 拓海2小野 誠仁4竹内 望1 (1.千葉大学、2.宇宙航空研究開発機構、3.信州大学、4.京都大学)


キーワード:ツボカビ、菌類、雪氷藻類、氷河、カナック、グリーンランド

北極圏の氷河では,氷河表面の暗色化による氷河の融解が加速している.この原因の一つが,雪氷藻類という暗色の色素をもつ光合成微生物である.雪氷藻類が繁殖すると,雪氷面が色づき表面のアルベドを下げるため,氷河の融解が加速することが明らかになっている.さらにこの藻類には,ツボカビと呼ばれる菌類が寄生することがある.ツボカビは,遊走子という細胞をつくる菌類の仲間で,寄生性のツボカビは,寄主の個体群の季節変動や寄主の種の絶滅の要因になることが報告されている.そのため,雪氷藻類に寄生するツボカビは,藻類の繁殖を抑制し氷河の暗色化を抑える可能性がある.グリーンランドは,雪氷藻類の繁殖による氷河の暗色化が報告されており,特にグリーンランド北西部のカナック氷河では,雪氷藻類などの微生物に関する研究が数多く行われているが,雪氷藻類に寄生するツボカビに関する研究はこれまで行われていない.本研究では,グリーンランド北西部カナック氷河における雪氷藻類に寄生するツボカビに注目し,ツボカビの形態や藻類への感染率を明らかにすることを目的としている.
グリーンランド北西部カナック氷河で2024年7月18日から8月17日にかけて採取された氷表面のサンプルの分析を行った.サンプルは,菌類(キチン質)を特異的に染色する蛍光試薬カルコフロールホワイトを加え,蛍光顕微鏡で雪氷藻類に寄生しているツボカビの形態的特徴を観察した.さらに,雪氷藻類の寄生の有無をカウントして藻類への感染率を算出した.
顕微鏡観察の結果,氷表面で繁殖する雪氷藻類,Ancylonema属に寄生する多数のツボカビが確認された.ツボカビから藻類細胞に伸びる仮根の形態に注目して分類すると,雪氷藻類に寄生するツボカビには3つのタイプが観察された.氷表面におけるツボカビの藻類への感染率を求めた結果,Ancylonema属への感染率は約5%となり,Ancylonema属のうち異なる2種間では感染率に差が見られた.これらのツボカビの形態や氷表面における感染率の結果は,すでにアラスカの氷河で行われている先行研究と同様の結果を示していた.以上の結果から,グリーンランド北西部カナック氷河の表面には多数のツボカビが存在し,藻類へのツボカビ感染が藻類の繁殖量にも影響する可能性があることが示された.