日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG52] 北極域の科学

2025年5月29日(木) 13:45 〜 15:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:川上 達也(北海道大学)、堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、柳谷 一輝(宇宙航空研究開発機構)、佐藤 洋太(海洋研究開発機構)、座長:堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、川上 達也(北海道大学)

15:00 〜 15:15

[ACG52-18] MOSAiCで観測された北極混合相雲の形態と環境場の特徴

*濱田 龍斗1端野 典平1 (1.高知工科大学)

キーワード:混合相雲、形態、MOSAiC

温暖化が急速に起こっている北極では、雲が時空間的に広く分布しており、地表面のエネルギー収支に影響を与えている。また、混合相の雲が高頻度で発生している。しかし、混合相状態は液相と固相の飽和水蒸気圧の違いから雲が消滅しやすいため、予測が困難となっている。本研究では、北極の長寿命の混合相雲(P-MPCs)に着目し、その中でも地表面とのエネルギー収支の観点から、下層の単層雲に焦点を当てて、雲物理量、雲の形態、環境場、これらの関係を調査する。
 観測実験 MOSAiC の雲微物理、大気プロファイル、雲底高度、地表面温度、ドップラーレーダーのデータを用いた。そのプロファイルから、低層単層で6時間以上持続した混合相の雲イベントを抽出する。また、gradient Richardson numberのプロファイルから、境界層、温位のプロファイルからカップリングの高さを算出する。さらに、その境界層の高さと Obukhov lengthを組み合わせた指標を用いて、セル状とロール状の判別を行う。
 上記の指標と閾値からロール状(10月:18時間持続)とセル状(11月:72時間持続)の2事例を抽出した。この2事例から、ロール状はセル状に比べて、(1)全粒子に対する氷粒子の割合が大きいことと(2)雲中の水平風が強いことが示唆された。先に挙げた2事例において、ロール状の事例では、レーダー反射因子が-20dBZよりも大きい領域にもピークが存在し、平均ドップラー速度は上昇と下降で対照的な分布をしていた。これらの結果と(1)の結果の組み合わせより、このロール状の雲はセル状の雲よりも、氷粒子が大きく成長するような強い対流が存在することが分かる。また、この事例は対流が他のP-MPCsと比べてとても強いことから、特異的な事例であることが分かる。
 (2)の結果を他の事例でも確認するため、P-MPCsが存在する時間における水平風の鉛直プロファイルを雲頂高度で正規化し、EOF解析を行なった。その結果、第二主成分の負荷因子が、ロール状の事例で正の場合が多く、セル状とロール状で有意な差が見られた。この第二主成分は下層ジェットに対応していると考えられる。また、このとき地表面付近で安定である割合が高いことから、下層ジェットにより比較的冷たい空気が流入してきていることが示唆される。
 MPCsの季節性については、秋頃は特に寿命が長く、夏は雲頂が低く比較的寿命が短い傾向が見られた。全期間の温度逆転層に着目すると、冬から夏にかけて、逆転層の観測割合が全体的に減り、そのピークに当たる高度が上昇する。その一方で、地表面から一層目の逆転層の上にある雲の割合が減り、その下に位置する雲の割合が増える傾向にある。後者の効果が前者のそれを上回るため、結果的に雲頂高度は夏に低くなっていると見られる。
 加えて、P-MPCsのレーダー反射因子と平均ドップラー速度の特徴より、夏季は他の季節に比べて雲粒が小さく対流が顕著である。このことから季節によって、雲頂高度のみならず雲の構造、エアロゾルの特性が大きく異なることが示唆される。