日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG52] 北極域の科学

2025年5月29日(木) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:川上 達也(北海道大学)、堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、柳谷 一輝(宇宙航空研究開発機構)、佐藤 洋太(海洋研究開発機構)

17:15 〜 19:15

[ACG52-P07] チュクチ海域における海氷指標IP25の再検討

狩野 風音1、*安藤 卓人1松野 孝平2、藤原 周3 (1.秋田大学、2.北海道大学、3.JAMSTEC)

キーワード:海氷、バイオマーカー、チュクチ海

近年の北極域における海氷の後退を正確に理解するためには,過去の海氷変動を知ることが重要である。HBIs(高分枝鎖イソプレノイドアルケン)は珪藻に由来するバイオマーカーで,二重結合の数と位置に基づいて種特異的なバイオマーカーとして機能する。二重結合を1つ持つHBIはIP25と呼ばれる。IP25はアイスアルジーの一種であるHaslea属の珪藻によって生合成され,氷縁部もしくは季節海氷域で主に生産される。そのため,堆積物コアにおける IP25 濃度は過去の海氷変動を敏感に反映しているとされている(Vare et al., 2008)。海氷復元のためにMüller et al.(2011)では,IP25と外洋の藻類バイオマーカーを組み合わせてPIP25指数が提案された。PIP25指数は,無氷域,季節海氷域,多年海氷域を区別するために有用だとされており,特にPIP25指数に珪藻・ハプト藻由来のbrassicasterolと渦鞭毛藻由来のdinosterolを分母に用いたPBIP25とPDIP25は衛星観測に基づく現代の海氷状況をよく反映していることが示されている(Kolling et al., 2020)。本研究では,PIP25指数に新たな指標を追加し,チュクチ海域における海氷指標の再検討を行った。
試料は,「みらい」研究航海にて2012年および2020年にチュクチ海域において,緯度トランセクトで採取された表層堆積物を用いた。分析の結果,海氷縁辺部にあたる北緯73°付近の3試料からIP25 が検出された。一方で,二重結合を2つ持つHBI-Ⅱは73°以南の試料でも検出された。これらの結果は先行研究と調和的であった。PBIP25,PDIP25は2012年と2020年に採取した試料で同様の値であった。本研究では,さらにn-C21アルカンおよびHBI-IIを用いた指標を提案した。これらの指標はいずれも,PBIP25,PDIP25とは異なり,2012年の方が低い値を示した。採取年の前年の2011年および2019年の夏季において,海氷は2011年でより後退していることから,これらの指標は海氷の短期的な後退をより反映しているかもしれない。加えて,渦鞭毛藻の生産性への寄与を示すdinosterol/brassicasterol比を計算した結果,IP25とHBI-Ⅱが検出されなかった3地点で高い値を取った。1試料は周縁海氷域で採取された試料であり,渦鞭毛藻が多く生息していることを反映していると考えられる。それ以外の2地点は,ホープ海底谷付近の堆積物であり,栄養塩増大に伴って増加した植物プランクトンもしくは有機物自体を利用する従属栄養性渦鞭毛藻の増大に起因していると考えられる。このように海氷指標と他の藻類バイオマーカー指標を組み合わせることで,海域による主要な基礎生産者の違いを示すことができ,より詳細な海洋環境復元が行える可能性が示唆された。