日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG53] 沿岸海洋生態系-1.水循環と陸海相互作用

2025年5月28日(水) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、藤井 賢彦(東京大学大気海洋研究所)、小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)、座長:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)

12:00 〜 12:15

[ACG53-12] 湖底における底生動物存在下のバクテリア生産動態

*土屋 健司1、霜鳥 孝一1、高津 文人1、永田 貴丸2、井上 栄壮2、佐藤 祐一2、早川 和秀2 (1.国立環境研究所、2.滋賀県琵琶湖環境科学研究センター)

キーワード:底泥、DNA、節足動物、貧毛類、ヌクレオチド代謝

1.はじめに
近年,国内外の多くの湖沼では,気候変動の影響で数日から数か月の貧酸素化(<2 mgO2 L⁻1)が頻発している(Jane et al. 2021, Nature).国内では,琵琶湖湖底で貧酸素化に起因するヨコエビ類等の底生動物の減少が報告されている(石川ら 2023, 琵環セ報告書).底生動物は,世代時間が数か月から1年と長いため(Ishikawa and Urabe 2002, Freshw Biol),好気環境に戻っても減少した現存量を暫く回復できないため,短期の貧酸素化であっても頻発すると個体群は大ダメージを受ける.底生動物の多くは,湖底に生息して有機物を食べる腐食連鎖に与しており,有機物の消費・排泄を通して湖底の栄養塩循環に寄与する(Devine and Vanni 2002, Freshw Biol).また,底生動物による湖底堆積物の撹乱は,水中と湖底の物質循環を促進するだけでなく,周辺のバクテリア生産を活性化させるとの報告もある(van de Bund et al. 1994, J N Am Bentho Soc).しかし国内湖沼では,この様な底生動物の機能は十分に認知されておらず,その機能に関する知見は限られている.そこで本研究では,琵琶湖深湖底における底泥バクテリア生産の測定法の構築を行うとともに,アナンデールヨコエビ,スジエビ,ミズムシといった底生節足動物および貧毛類が,底泥バクテリア生産に与える影響評価を目的とした.
2.材料と方法
底泥は表層構造が崩れると微生物群集構造を含めて大きな変化が生じる可能性があるため,層構造を保ちながら採泥可能な不撹乱柱状採泥器を用いて,琵琶湖北湖の水深90 m(今津沖中央),60 mの地点(南比良沖中央)において底泥コアを採取した.採取した内径11 cmの底泥コア1本から内径4.6 cmのアクリルパイプを用いてサブコア(サブサンプル)を3本分取した.コアの底泥直上水は0.2 µm濾過湖水で置換した.適切な15Nデオキシアデノシン(15N-dA)添加濃度と培養時間を設定するため,添加濃度を15,60,300,600 nmol L⁻1の4段階,培養時間を2,20時間に設定し,15N-dA取り込み速度が飽和となる条件を求める培養実験を実施した.底生動物を加える培養実験では,15N-dA添加濃度は1000 nmol L⁻1,培養時間は20時間とし湖底水温の8℃で培養を行った.実験区にはそれぞれアナンデールヨコエビ(5個体/サブコア),スジエビ(1個体/サブコア),ミズムシ(5個体/サブコア),貧毛類(10~50個体/サブコア)を加え,底生動物を加えない系を対照区とした.培養終了後,直上水を取り除いた底泥表層3箇所より合計9 mLの泥を採取し,等量のエタノールで微生物反応を停止させた.15N-dA取込速度(バクテリア生産速度)はDNA抽出,酵素加水分解後にLC-MS/MSで定量した(Tsuchiya et al. 2015, J oceanogr).実験終了後に各サブコアの底生動物を回収し,計数を行った.
3.結果と考察
アナンデールヨコエビ,スジエビ,ミズムシの実験区では,対照区と比較してバクテリア生産速度が増加する傾向が見られた.これらの節足動物は培養期間中に底泥表面を撹乱し,培養前に比べ底泥表層が浮泥化する現象が見られた.よって,バクテリアと有機物との接触機会や接触面積が増加したことが,バクテリア生産速度の増加に繋がったと推察される.また,実験に用いた動物は排泄などを通じて炭素や窒素,リンを環境水中に放出するため,これらの栄養塩類もバクテリア生産速度の上昇に影響を与えている可能性も考えられる.以上の結果から,底生節足動物の存在下では,底泥のバクテリア生産速度が増加し,有機物の分解速度が増す可能性が示唆された.
一方,貧毛類個体密度に対するバクテリア生産速度の応答(単回帰)は,実験を行った季節によって異なった.10月の実験では両者に有意な関係は認められなかったが,2月,7月では有意な正の関係が,4月では有意な負の関係が認められた.貧毛類は巣穴の形成に伴い,有機物や栄養塩を供給してバクテリア生産を高める可能性がある一方,貧毛類自身がバクテリアを捕食することによる負の影響とのバランスで決定されるものと推察される.
以上から,底生動物,特に節足動物は物質循環を促進する重要な生物群集であり,湖全体の健全な物質循環を維持する上で底層環境の保全による底生動物の保全は重要課題であることが示唆された.
謝辞:本研究は環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20232M02)により実施した.