日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW28] 水循環・水環境

2025年5月28日(水) 10:45 〜 12:15 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:濱 侃(千葉大学大学院園芸学研究院)、榊原 厚一(信州大学理学部理学科)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、座長:林 武司(秋田大学教育文化学部)

11:30 〜 11:45

[AHW28-10] 土層の発達過程を反映した浅部地下構造に制約された斜面水文プロセスと土砂移動発生機構

★招待講演

*近藤 有史1松四 雄騎2 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻、2.京都大学防災研究所地盤災害研究部門)


キーワード:花崗岩類、土層構造、斜面水文プロセス、間隙結合係数、表層崩壊

豪雨に伴う表層崩壊が群発した場をとりあげ,花崗岩および花崗閃緑岩を基盤とする隣接した山地を比較対照として,土層の発達過程が斜面水文プロセスおよび土砂移動の発生機構に与える影響を検討した.2019年の台風ハギビスによって発災のあった阿武隈山地北部を対象とし,各地質条件において典型的な土砂移動痕跡のみられる斜面に焦点を当てて,土層の分布と鉛直構造の調査,不攪乱試料を用いた斜面構成物質の水理的性質の測定,および降雨に対する浅部間隙水圧変動の稠密観測を実施した.さらに,得られたデータを場の条件とした数値解析により,観測された水文データの特性の再現性を確認したうえ,発災時の豪雨を入力としたシミュレーションを行い,表層崩壊を誘発させる水文プロセスを明らかにした.
両地質分布域における土層は,それぞれ特徴的な構造と物性の鉛直分布をもつ.花崗岩を基盤とする斜面では,比較的粗粒でおおむね1 m未満の高透水性の土層が,硬質で難透水性の風化岩盤(サプロック)を覆っている.それらの境界は力学的・水理的に明瞭で,特に飽和透水係数には土層と風化岩盤最上部とで2桁程度の差異がある.一方,花崗閃緑岩を基盤とする斜面では,土層は1 m以上とやや厚く,低密度で腐植に富む上部と堅密な下部に区分され,それが軟質の強風化岩(サプロライト)を覆う.これらの境界は漸移的であるが,上部土層から下部土層にかけて1桁程度の飽和透水係数の低下が認められる.こうした特徴的な土層構造は,岩盤の風化とソイルクリープによる土粒子の生成・輸送の結果として成立したものとみられる.すなわち,花崗岩斜面の土層が全体的にミキシングを受けた一様な崩積土であるのに対し,花崗閃緑岩斜面の土層は崩積性の上部と残積的な下部が完全に混交せず成層しているものと推察される.
こうした浅部鉛直構造を場の条件とする斜面水文プロセスにも,顕著な差異がみられた.花崗岩斜面ではたとえ小さな降雨イベントであっても土層中の間隙水圧は全体的に速やかに応答し,基盤上面で頻繁に正圧化する.これに対し,花崗閃緑岩斜面では,特に下部土層において降水浸透に対する応答が緩慢で,全層的な間隙水圧の増加は一定以上の降水量があるイベントにおいてのみ観測され,間隙水圧は,大きな時間差を伴いながら浅部から深部にかけて順次応答する.現実斜面の地下構造をそれぞれ模した条件設定での飽和・不飽和浸透流解析を行ったところ,観測された間隙水圧の応答特性をおおむね再現することができた.その際の間隙結合係数は両地質で有意に異なり,土層中での間隙水圧応答におけるマトリクス流と選択流の寄与程度に大きな差異があるものと推察された.得られたパラメータを用いて,発災時豪雨を入力とした計算を行った結果,花崗岩斜面では斜面下方において基盤岩の上面に飽和帯が形成され,その水位が地表にまで達するのに対し,花崗閃緑岩斜面では上部土層と下部土層の境界付近で宙水が発生することが確認された.
こうした土層の構造と物性に支配された斜面水文プロセスは,土砂移動の発生様式にも影響している.すなわち,花崗岩斜面では基盤岩上面での飽和帯形成が,土層と風化岩盤境界をすべり面とする表層崩壊やガリー伸展による土砂移動を引き起こすものと考えられる.選択流の効果もあって斜面の排水性が高いため,こうした侵食現象は短期強雨によって引き起こされる.一方で,花崗閃緑岩斜面では,土層内での宙水形成がせん断破壊を誘発するものと考えられる.地中水の移動ではマトリクス流が卓越しており,結果としてその過程で浸透水が間隙に貯留されるために,表層崩壊の発生には一定以上の強度と量を合わせもつ降水供給が必要となる.