日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW29] Climate, Rivers, and Floods: Exploring Hydro-Geomorphological Interactions

2025年5月28日(水) 15:30 〜 17:00 102 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:Hawker Laurence Paul(Organization Not Listed)、田中 智大(京都大学)、Darby Stephen E(University of Southampton)、Chairperson:Laurence Paul Hawker(Organization Not Listed)、田中 智大(京都大学)

16:00 〜 16:15

[AHW29-03] 領域分布型水文モデルと大規模アンサンブル気候データセットを用いた降雨流出と高潮の複合に関する俯瞰的な分析

*菅原 快斗1佐山 敬洋1、金平 大河2、志村 智也1 (1.京都大学防災研究所、2.マンチェスター大学)

キーワード:降雨流出と高潮の複合事象、領域分布型水文モデル、d4PDF 5km、RRI model

降雨流出と高潮はともに沿岸域の河川水位上昇を引き起こす自然現象であり、2つが同時に発生することで、単独で発生する場合よりも顕著な洪水被害を引き起こす可能性がある。沿岸域には多くの都市が位置しており、暴露人口・資産が多いことから、降雨流出と高潮の複合事象を考慮することが洪水リスク管理の上で重要となる。複合事象を俯瞰的に把握するために、全球モデルを用いた解析から、流域面積1000 km^2以上の大河川における降雨流出と高潮の同時生起性を分析することが試みられている。一方で、より時空間分解能の細かい条件で複合事象を俯瞰的に把握する試みは、計算量や用いるデータの制約などから十分に進められていない。
 そこで本研究では、150mの空間分解能で日本全国をカバーするRRI (以下JRRI)モデルと大規模アンサンブル気候データセットであるd4PDF-5kmを用いることで、日本の降雨流出と高潮の複合事象について、中小河川も含めた俯瞰的な分析を行った。特に、降雨流出と高潮の同時生起性だけではなく、複合による水位上昇を基準とした分析を行うことで、複合リスクの高い流域の検出および特性の分析をより詳細に行うことを目的とした。
 JRRIモデルを用いて関東・中部・近畿・中国・四国・九州地域の流域面積5 km^2以上の流域を対象に複合事象の解析を行った。外力データはd4PDF-5kmの現在気候シナリオから抽出された776の台風イベントとし、降雨量をJRRIモデルの入力とした。高潮については、同一イベントの風速と海面気圧を駆動力としたADvanced CIRCulation(以下ADCIRC)モデルの計算結果を用いた。ADCIRCから出力された15分間隔の潮位変動をJRRIモデルの河口境界条件に用いることで、降雨流出と高潮の複合事象を解析した。
 次の3ケースの計算結果を比較することで複合による水位上昇効果を分析した。①降雨流出ケース②高潮ケース③複合ケース。①と②を単独ケースとして、複合ケースの場合に各流域の水位がどの程度上昇するのかを分析した。
 すべての流域を統一的な指標に基づいて分析するため、河川水位は流域面積の関数として表現される河道深さを用いて正規化した。また、各ケースの計算における空間的な変動特性を考慮するために、各流域の河口から約1 kmの範囲を探索し、正規化した河道水位のイベント最大値を代表値とした。台風イベントは地域によっては降雨をもたらさないものも含まれているため、各流域の複合ケースにおける上位144イベント(再現期間5年以上)に着目して流域を分類した。上位144イベントにおいて複合ケースと単独ケースの差分をとり、その値が0.05以上(複合によって河道深さの5%以上の水位上昇が生じた)を複合イベントと定義した。そして、上位144イベントにおいて複合イベントが10%以上含まれている流域を複合事象の発生可能性が高い流域として抽出した。さらに上位144イベントそれぞれにおいて単独ケースの降雨流出と高潮のどちらの水位が大きいかを比較し、144イベントの75%以上で降雨流出または高潮が優勢である流域をType RおよびType S として、残りをType RSとする分類を行った。
 上位144イベントに複合イベントが10%以上含まれる複合事象の発生可能性が高い流域は150流域となった(全流域数1421)。そのうちType RSとなったのは65流域、Type Rとなったのは68流域、Type Sとなったのは17流域である。Type RSは降雨流出と高潮の再現期間が大きいイベント同士の組み合わせで複合イベントが生じやすく、複合イベントは単独事象で想定される規模よりも大きくなる可能性がある。一方で、Type Rは再現期間の大きい高潮と再現期間の小さい降雨流出の組み合わせが複合イベントとなりやすい。しかし、Type Rは降雨流出の方が優勢な流域であるため、降雨流出単独で再現期間の大きいイベントが複合イベントよりも支配的である可能性がある。
 降雨流出と高潮の複合が生じやすい流域は伊勢湾や瀬戸内海北側に多く位置することが分かった。これらの地域は流域が南側を向きやすく、北進する台風に対して、先行的な降雨流出と後発的な高潮のタイミングが合いやすい可能性がある。Type Rは高潮が相対的に強くない場所にも広く分布し、Type Sは特に高潮の強い湾奥部などに分布しやすい。一方、Type RSは高潮が強い地域に分布しているものの、特に高潮の強い湾奥部よりも降雨流出とのバランスが取れる場所に広く分布している。