日本地球惑星科学連合2025年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW30] 同位体水文学2025

2025年5月30日(金) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、柏谷 公希(京都大学大学院工学研究科)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

17:15 〜 19:15

[AHW30-P02] 溶存態セシウム137濃度の季節変動の波形を用いたダム湖の流動解析

*辻 英樹1、林 誠二1 (1.国立環境研究所)

キーワード:セシウム137、ダム湖、季節変動、平均滞留時間

福島第一原発近傍地域での調査によれば、陸水中の溶存態137Cs濃度は一般的に水温と連動した挙動を示し、溶存態137Cs濃度および水温の季節変動を正弦関数で近似した場合、河川においてはその位相はほとんど一致した(Tsuji et al., 2023)。一方、ダム湖では水温に対する溶存態137Cs濃度の位相の遅れが観測された(Tsuji et al., under review)。湖水中の溶存態137Cs濃度に対する湖内での生成・消失の寄与が限定的と仮定できれば、この位相差はダム湖への流入水が流出地点に到達するまでの平均的な流下時間に相当すると言える。平均水深が数m以上の湖沼では、夏~秋季の成層期には流入水は表層のみを流下し、実際の流下時間はダム湖の貯水量と放流量から得られる「平均滞留時間」に比べて短い。したがって、溶存態137Csは実際の湖水の滞留時間や、湖水流動に寄与する表層の厚さを推測するトレーサーとして活用できる可能性がある。本研究では、福島第一原発近傍のダム湖における流入水・放流水の溶存態137Cs濃度の観測結果を用いて、湖水の年平均滞留時間および流動に寄与する表層厚を推定する手法について提起する。
解析対象としたのは福島県南相馬市に所在する横川ダムである。このダム湖では2014年より、主要流入水(2地点、総流域面積はダム湖全体の79%)および放流水中の溶存態137Cs濃度と水温の観測を毎月行っている。流入水・放流水中の溶存態137Cs濃度はいずれも顕著な季節変動を示したことから、この濃度を経年減衰(環境半減期)を含む、日付に対する余弦関数式で近似した。また、観測データのない支流流域からの流入水量・溶存態137Cs濃度の変動を流域面積および137Csの流域平均沈着量(2011年7月時点)から推定し、主要流入水と支流からの流入水の波形の重ね合わせにより放流水における溶存態137Cs濃度の再現を行った。
最小二乗法による近似式の同定の結果、放流水における溶存態137Cs濃度の位相は水温に対して18日の遅れが見られ、主要流入水の溶存態137Cs濃度に対しては25日の遅れが観測された。年平均貯水量と放流量から得られる平均滞留時間は74日であることから、深層の湖水は流動にほとんど寄与しないことが示唆された。また、水温―溶存態137Cs間の位相差の18日に年平均放流量を乗じて湖面の面積で割ることにより、湖水が流動する表層水の厚さは年平均で約3 mと推察された。ただし、ダム湖の地形によっては湖底からの137Cs溶出のため放流水中の溶存態137Cs濃度の波形が余弦関数から逸脱するケースも見られ、本手法が有効な条件を解明するためには、様々なダム湖の観測結果を用いた検証が必要である。

引用文献
Tsuji, H. et al. (2023) Environ. Pollut., 122617. https://doi.org/10.1016/j.envpol.2023.122617
Tsuji, H. et al. Environ. Pollut. under review.