日本地球惑星科学連合2025年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW30] 同位体水文学2025

2025年5月30日(金) 17:15 〜 19:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7・8ホール)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、中村 高志(山梨大学大学院・国際流域環境研究センター)、柏谷 公希(京都大学大学院工学研究科)、浅井 和由(株式会社 地球科学研究所)

17:15 〜 19:15

[AHW30-P03] マルチ同位体トレーサーを用いた球磨川流域の地下水流動系の解明

*丸山 咲也1角野 浩史2冨田 智彦3、皆川 朋子3 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.東京大学先端科学技術研究センター、3.熊本大学大学院 先端科学研究部)


日本では、梅雨前線の停滞に伴い線状降水帯の発生により集中豪雨が頻繁に発生し、一部地域では洪水により大きな被害が引き起こされている。その地域の一つに、球磨川流域-熊本県人吉盆地がある。2020年7月3日から31日にかけて停滞した梅雨前線によって、西日本から東日本にかけて広範囲に大雨が降り続き、洪水や土砂災害をはじめとする災害によって、熊本県に至っては65名、うち球磨川流域では50名が犠牲となってしまった。したがって、防災のためにはより高度な水循環システムの監視が必要であり、地下水流動系の可視化が重要な要素となり得る。また副次的に、農工業用水としての利用可能量評価にも役立つと考える。地下水が降水を起源として地下に浸透し地表に出てくるまでに、それに含まれるイオンの濃度は大きく変動すると考えられる一方で、降水時の情報を保持しているトレーサーも存在することから、これらトレーサーを適切に組み合わせることで、球磨川流域の流動系解明を試みた。具体的には、人吉盆地内の球磨川流域で採水を行い、主に以下の三つの手法で地下水流動の解明を試みた。一つ目は「酸素・水素の安定同位体比測定による涵養域の推定」、二つ目は「3H-3He年代測定法による滞留年代の推定」、三つ目は「主要溶存イオン分析による流動系把握」である。一つ目の手法「酸素・水素の安定同位体比測定による涵養域の推定」について、まず湧水や井戸、河川から採水した試料の酸素・水素同位体比測定を行った。この比は標高によって変動するため、採水した地下水の涵養域推定が可能となる。これは、気化しやすい軽い水分子が蒸発しやすく、気化しにくい重い水分子が優先的に凝結することにより、同じ蒸気団から連続的に冷却、凝結の過程を経て降水があれば、蒸気団から重い同位体が想定的に多く失われる性質を利用している。二つ目の手法「3H-3He年代測定法による滞留年代の推定」では、4Heは地殻やマントルの影響がなければ、基本的には降水時の濃度を維持していると考えられる一方、3HeはH(半減期12.3年)の壊変で濃度が上昇していくことを利用する。まず湧水や井戸水を大気に触れさせずに銅管に密封した状態で採取し、ヘリウム同位体比(3He/4He)及び4He濃度を測ることによって、地下を流動する中で3Hから壊変して生成された3Heを定量した。次に、採水した試料から完全に気体成分を除き真空下で保存し、試料中の3Hが3Heへ壊変するのを待ち、数ヶ月後に同様の分析を行い3Heを定量することで、採水時点に含まれていた3Hを求める。それらの結果から、滞留時間および3Hの初期濃度を求める。三つ目の手法「主要溶存イオン分析による流動系把握」では、一般に同じ流動系に由来する地下水は、各地点において似たようなイオン濃度を保持すると考えられるため、採水試料に溶存しているNa+、K+、Mg2+、Ca2+、Cl-、HCO3-、CO32-、NO3-、SO42-の濃度を測定する。現在出ている結果からは、一部の地下水で3He/4Heが、トリチウム起源の3Heの付加では説明できないほど高く、マントル由来のHeが混ざっていると考えられる水試料が存在した。またそれら地下水のイオン濃度が、近辺の河川水とは違う傾向を示していることからも、地下深くを流れてきたことが示唆される。上記の手法について継続的に行い、人吉盆地における球磨川流域の地下水流動系の解明を試みる。