17:15 〜 19:15
[AHW31-P02] 都市域における下水漏水を定量的に把握するためのマルチトレーサー手法の課題
キーワード:都市域、下水漏水、地下水、マルチトレーサー
近年,日本各地で道路陥没が発生しており,その要因の1つとして下水道管からの漏水が指摘されている.田本ほか(2021)によると,下水道管に起因する道路陥没件数は2008年度の4,000件強から2018年度には3,000件程度にまで減少したが,国土交通省によれば2022年度においても約2,600件発生しており,依然として高い水準にある.2025年1月には埼玉県八潮市内で大規模な道路陥没事故が発生し,下水漏水による道路陥没が改めてメディアに大きく取り上げられる事態となった.
道路陥没を引き起こすような下水漏水は,直径の大きな下水道管が埋設されている幹線道路において生じやすいことが考えられるものの,下水漏水のメカニズム,すなわち下水道管の腐植(下水中から発生する硫化水素が下水道管の内壁面における微生物活動によって硫酸となり管渠を腐植・破損する(岩松ほか,1988など)),家庭から下水道への下水管の接続不良,下水管の老朽化等(安原ほか,2014など)をふまえると,下水漏水自体はより広い範囲で生じ得ると考えられる.安原ほか(2013,2014,2015)は,関東平野南西部に位置する武蔵野台地上を流れる石神井川の流域の広い範囲において,浅層地下水中に高濃度のSO42-が溶存していることを指摘している.この事例では,流域のなかでも都市化の進行した下流域においてSO42-濃度が特に高いことが報告されている.また筆者らの調査においても,関東平野西部に点在する湧水群から広く下水漏水の寄与が確認されている(林ほか,2024など).この調査では,郊外だけでなく下水道普及率100%の都心部においても湧水中から医薬品や人工甘味料等が検出された.
下水漏水は,水循環における量の観点からみると,地表面の被覆によって地下水涵養量が減少する都市部においては主要な地下水涵養源の1つとなり得る一方で,質の観点からは地下水汚染源,さらには湧水によって涵養される地表水域の汚染源となる.このため都市域において,道路陥没による社会インフラの損壊の抑止だけでなく地下水環境の保全,地下水資源の持続的な利用等を図るうえで,地域ごとの下水漏水を定量的に評価することが重要であるといえる.しかし,日本の多くの都市域では上水道・下水道ともに広範囲に配水・集水されることや,下水と雨水が同一の管渠を流れる合流式の下水道が採用されていることなどにより,上水道の配水量や有収水量,下水処理場の受水量などのデータから下水漏水量を地域ごとに定量化することは困難である.このため,地下水中に溶存する様々な元素やそれらの同位体,化学物質等を併用するマルチトレーサー法の適用が重要となる.本発表では,SO42-に着目して下水漏水を定量的に評価するための課題を検討した結果を報告する.
上述した下水道管の腐植・破損メカニズムにおいては,下水中においてSO42-が硫酸還元バクテリアによって硫化水素に変換される際に,硫黄同位体の分別が生じる(Hoefs,2021など).したがって,下水の多く集まる幹線下水道や広域下水道の下流側において,同位体分別がより顕著であることが考えられる.その一方で,家庭から下水道への下水管の接続不良や下水管の老朽化等によって下水が漏水する場合には硫酸還元の進行していない下水が漏水しうるが,この過程では硫黄同位体の分別も進行しないと考えられる.これらの点をふまえると,SO42-や硫黄同位体を下水漏水の指標として用いるためには,下水漏水への硫酸還元の影響の有無を評価する必要がある.その方法としては,例えば,PPCPsのうち分解されやすい物質や還元雰囲気下では保存されにくい物質などを指標として用いることが考えられる.
道路陥没を引き起こすような下水漏水は,直径の大きな下水道管が埋設されている幹線道路において生じやすいことが考えられるものの,下水漏水のメカニズム,すなわち下水道管の腐植(下水中から発生する硫化水素が下水道管の内壁面における微生物活動によって硫酸となり管渠を腐植・破損する(岩松ほか,1988など)),家庭から下水道への下水管の接続不良,下水管の老朽化等(安原ほか,2014など)をふまえると,下水漏水自体はより広い範囲で生じ得ると考えられる.安原ほか(2013,2014,2015)は,関東平野南西部に位置する武蔵野台地上を流れる石神井川の流域の広い範囲において,浅層地下水中に高濃度のSO42-が溶存していることを指摘している.この事例では,流域のなかでも都市化の進行した下流域においてSO42-濃度が特に高いことが報告されている.また筆者らの調査においても,関東平野西部に点在する湧水群から広く下水漏水の寄与が確認されている(林ほか,2024など).この調査では,郊外だけでなく下水道普及率100%の都心部においても湧水中から医薬品や人工甘味料等が検出された.
下水漏水は,水循環における量の観点からみると,地表面の被覆によって地下水涵養量が減少する都市部においては主要な地下水涵養源の1つとなり得る一方で,質の観点からは地下水汚染源,さらには湧水によって涵養される地表水域の汚染源となる.このため都市域において,道路陥没による社会インフラの損壊の抑止だけでなく地下水環境の保全,地下水資源の持続的な利用等を図るうえで,地域ごとの下水漏水を定量的に評価することが重要であるといえる.しかし,日本の多くの都市域では上水道・下水道ともに広範囲に配水・集水されることや,下水と雨水が同一の管渠を流れる合流式の下水道が採用されていることなどにより,上水道の配水量や有収水量,下水処理場の受水量などのデータから下水漏水量を地域ごとに定量化することは困難である.このため,地下水中に溶存する様々な元素やそれらの同位体,化学物質等を併用するマルチトレーサー法の適用が重要となる.本発表では,SO42-に着目して下水漏水を定量的に評価するための課題を検討した結果を報告する.
上述した下水道管の腐植・破損メカニズムにおいては,下水中においてSO42-が硫酸還元バクテリアによって硫化水素に変換される際に,硫黄同位体の分別が生じる(Hoefs,2021など).したがって,下水の多く集まる幹線下水道や広域下水道の下流側において,同位体分別がより顕著であることが考えられる.その一方で,家庭から下水道への下水管の接続不良や下水管の老朽化等によって下水が漏水する場合には硫酸還元の進行していない下水が漏水しうるが,この過程では硫黄同位体の分別も進行しないと考えられる.これらの点をふまえると,SO42-や硫黄同位体を下水漏水の指標として用いるためには,下水漏水への硫酸還元の影響の有無を評価する必要がある.その方法としては,例えば,PPCPsのうち分解されやすい物質や還元雰囲気下では保存されにくい物質などを指標として用いることが考えられる.